タスマニアの原生地を歩く:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(19)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第19回目は、オーストラリア・タスアニア島。世界自然遺産に指定されているタスマニア原生地の最深部を歩く65kmのトレッキングルート・オーバーランドトラック。ボタングラスの草原にユーカリの木々、ゴンドワナ時代からの太古の森、そしてウォンバットやワラビーなどの野生動物、ここは毎日が見知らぬ動植物との出会いの連続。この旅最後となる五泊六日のトレッキングを行った様子をお伝えする。

 

最後のトレッキングの始まり

2017年1月25日(世界一周288日目)

いよいよ300日間の旅を締めくくる最後のトレッキングがやってきた。僕らが最後のトレッキング地として選んだのはオーストラリア・タスマニア島にあるオーバーランドトラック。タスマニア原生地の最深部、クレイドルマウンテン国立公園からレイクセントクレア国立公園をつなぐ65kmのトレッキングコースだ。途中に補給地点はなく、六日間の食料とテントを自ら背負って歩くという、これまでの集大成と言えるトレッキング。

スタート地点に立ち、お決まりの記念撮影。六日分の食料を詰め込んだバックパックがずっしりと肩にのしかかる。でもその重さが心地よかった。300日間背負い続けた相棒は、いつしか僕らの体の一部となり、未知の世界に挑む不安を和らげる心の支えにもなっていた。

初日は、ロニークリークからウォーターフォールバレーまでの約10キロの行程。ひっそりとした小さな森を抜け、クレーター湖の側を登っていくと、すぐに森林限界を越えたような見通しの良い風景となる。まるで日本の山の稜線歩きのような開放感に笑顔がこぼれた。

初日から稜線歩きのような開放感抜群のルート


途中、クレイドルマウンテンへのサイドトリップへ。オーバーランド・トラックはメインルート上に複数のサイドトリップコースが設けられており、時間と体力と相談しながら、追加で歩くことができる。クレイドルマウンテン山頂への道は、これまでの歩きやすいトレイルとは異なり、途中から大きな輝緑岩の塊を手も使いながら這うように登る必要があった。慎重に一つ一つ岩をよじ登り、頂上へ。

遥か遠くまで広がる大自然。どこを見渡しても人工的なものは一つもない。このあたりの風景の特徴は、なだらかな大地からぽっこりと飛び出た険しい岩山があること。氷河期、この辺り一帯は氷河に覆われていたのだが、氷河に覆われなかった山の上部だけは削られずに残り、ゴツゴツとした岩山の原型を留めているのだという。

正面に見えるゴツゴツした岩山がクレイドルマウンテン

クレイドルマウンテンの山頂から眺めるタスマニアの原風景

 

タスマニア原生地の最深部

2017年1月26日(世界一周290日目)

今日はペリオン平原までの16.8km。進めば進むほど、タスマニアの秘境という感じがどんどん出てくる。秘境のさらにその奥へ、僕らは歩みを進めた。

オーバーランドトラックではタスマニアでしか見られない様々な植物を見ることができる。その中でもパンダニは、タスマニアを代表する植物の一つ。ヤシやソテツの一種のように思うが世界で最も背の高いヒース科の植物だという。大きく細長い葉っぱが垂れ下がるその姿は、大きなモンスターのよう。ところどころに群生し、訪れる人に強烈な印象を与えている。

そんな森を奥へ進むと、ワラビーの姿が。よく見ると、お腹から赤ちゃんが顔を出し、こっちを見つめている!!可愛らしい動物との出会いに大興奮だった。

パンダニが群生する森はオーバーランドトラックの印象的な風景

お腹から顔を出す赤ちゃんワラビーが可愛すぎる


森を抜けるとボタングラスの草原地帯となり、その先は再び冷温帯雨林の森に変わる。南極ブナのマートルビーチや、針葉樹のキングビリーパイン、セロリートップパインが生い茂るゴンドワナ時代からの森だ。他にもユーカリの森があったり、高山植物帯があったり、そしてそれらが交互に繰り返し現れるのがオーバーランドトラックの特徴だ。

スタートから約5時間ほど歩き、本日の目的地ペリオン平原へ。遠くまで広がるボタングラスの草原を見渡せる絶好の場所にペリオンハットがあった。ペリオン平原はオーバーランドトラックのほぼ中間地点。タスマニア原生地の最も奥深い場所。ここまで来ると本当に遠い世界に来た気持ちになる。この旅、最後のトレッキングにオーバーランドトラックを選んで本当に良かったなと思いながら、暮れていく夕日を眺めていた。

ハットでくつろぐハイカーたち

ペリオンハットからの眺め

 

天空のガーデン

2017年1月28日(世界一周291日目)

今日は峠越えの日。と言っても、300mほど登って300mほど下る程度。朝方は曇り空、次第に遠くから風に乗って雨が流れてくるようになった。それでもペリオン峠に着く頃には晴れ間も見えるようになってきた。

ペリオン峠からは、タスマニア最高峰1,617mのマウントオッサを目指すサイドトリップへ。マウントオッサに向かう途中のトレイルは、サブアルパインエリアの様々な植物が見られる天空のガーデンだった。特に印象的だったのが、タスマニアクッションプラントと呼ばれる緑のじゅうたんのような植物。じゅうたんのような見た目、鮮やかな緑色、そこにまた別の花が寄り添うように咲いていて、箱庭のような可愛らしさがあった。

様々な植物が見られる高山植物の宝庫

緑色のじゅうたん、タスマニアクッションプラント


その先は風が強く危険だったため、マウントオッサのピークはあきらめペリオン峠まで戻り、キアオラハットへ。カセドラルマウンテンを眺めながら、下っていく気持ちの良いトレイル。天高く伸びたユーカリの木々が印象的だった。

キアオラハットに到着後は、小屋のそばを流れる小川に足を浸してリフレッシュ。こういう瞬間もロングトレイルの楽しみの一つ。電気もシャワーも無くたってどんどん平気になっていくのだ。

日の暮れかかったタスマニアの森は一面ピンク色に染まっていた。この旅の終わりを告げられているようでどこか寂しい気持ちになる。いつまでもここに居たい。そう思いながら眠りについた。このトレッキングも残すところあと少しだ。

ピンクに染まるタスマニアの森

 

グランドフィナーレ

2017年1月30日(世界一周293日目)

今日はセントクレア湖のナルキサスハットまでの9kmを歩き、そこからフェリーでセントクレア湖を渡る。出発と同時に冷たい雨が落ちてきた。最終日は雨のトレッキングとなった。

雨の中を黙々と歩き続けたため、予定より早く2時間ほどで、ナルキサスハットに到着。

フェリーは定刻通りに出発。30分ほどの乗船で、対岸のレイクセントクレアビジターセンターへ。ビジターセンターには、スタート地点にもあったオーバーランドトラックの大きなボードがあって、ゴールの記念撮影。65kmのロングトレイルを無事に歩ききったことを祝った!

最後はフェリーで大きな湖を渡る


最終日は、レイクセントクレアロッジのキャンプ場に宿泊。翌朝は晴れて清々しい朝だった。バスの時間まで、セントクレアの湖畔でトレイルとの別れの時間を過ごす。

これで僕らの300日間世界のトレイルを巡る旅の、最後のトレッキングが終了。

タスマニアの大自然にどっぷりつかれる贅沢な六日間。どこまでも続くタスマニアの原生地、見たことのない動植物との出会い、他のハイカーとの程よい距離感など、オーバーランドトラックは、最後を締めくくるのにぴったりの、心に残るトレッキングとなった。

訪れた世界のトレイルは50ヶ所以上、歩いた総距離は1,000kmを超えた。達成感とこの旅で芽生えた新たな好奇心が僕らを包む。300日間の世界一周の旅は幕が下りたが、きっとこれからも僕らは世界のトレイルを歩き続けるだろう。

達成感に包まれて最後のひと時を過ごす

 

オーストラリア・タスマニア島オーバーランドトラックでのトレッキング

六日間分の食料とテントを背負って歩く65kmの本格的なトレッキングコースということで、歩く前は少し心配もありましたが、実際歩いてみると、トレイルは歩きやすく整備されており、一日あたりの歩行距離・時間も比較的短いため、自分たちのペースで楽しめるトレイルでした。

サイドトリップもたくさんあるため、たくさん歩きたい人は思う存分歩くことができますし、逆に体力や体調が不安な日は短めに歩くこともできます。スタートしてしまえば、後はそれぞれのペースで楽しめる自由さがオーバーランドトラックの魅力です。また、ここでしか見られないタスマニア固有の動植物もたくさんいるので、動物好き・植物好きの人にもおすすめです。

オーバーランドトラックに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備についてトレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

レイクセントクレアビジターセンターにて

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」

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