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嵐の大地パタゴニア:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(17)

トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」
ガイド・記録 2019年05月27日

旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第17回目は、嵐の大地とも言われる南米大陸南端の地パタゴニア。アルゼンチン側では難攻不落の尖塔セロトーレ、クライマー憧れの山フィッツロイを巡り、チリ側ではトーレス・デル・パイネ国立公園内を巡ったトレッキングの様子をお伝えする。

 

天に突き刺さる塔 セロトーレ

2016年12月4日(世界一周236日目)

ペルーを後にした僕らは、南米大陸を南下し、パタゴニアへ――。ここはアルゼンチンとチリにまたがる南米大陸南端の地域で、嵐の大地と呼ばれるほど風が強い。最初に訪れたのは、アルゼンチン側パタゴニアのハイライト、ロス・グラシアレス国立公園で、僕らはセロトーレとフィッツロイを望む周回コースを歩いた。

チャルテンの街のすぐ裏手にある登山口から歩き始める。高さ1mほどの低木が密生するエリアで、背丈の低い多種多様の木々が広がる。棘のある草木が多いのは、グアナコなどの動物に食べられるのを避けるための進化だとか。アップダウンもそれほどなく歩きやすいトレイルが続く。左手には氷河からの水を思わせるミルキーブルーのフィッツロイ川が流れ、遠くには青白い雪に覆われた山が徐々に見えてくる。

セロトーレを望むトーレ湖手前のキャンプ場で一泊し、翌朝、夜明け前のトーレ湖へ。静まり返った湖には氷河から溶け出した氷の塊が浮かぶ。徐々に空が薄桃色に変わり、塔のように険しい岩壁のセロトーレが雲間から見え隠れする様子は幻想的だ。

トーレ湖へ向かうトレイルは灌木帯が続く
 

静まり返ったトーレ湖の向こうに尖塔セロトーレが見え隠れする

 

不揃いの芸術作品 フィッツロイ

2016年12月5日(世界一周237日目)

フィッツロイへ向かうトレイルは、南極ブナの原生林。春は新緑の木漏れ日の下に白や黄色の花畑が広がる。気持ちの良い森を越えると、やがて湖の向こう側にそびえる山の奥に、特徴的なシルエットの山塊フィッツロイが見えてくる。潅木帯を進み、透き通った川を渡って再び森に入るとキャンプ場があり、青空のもとでのんびり過ごすハイカーで賑わっていた。

高緯度のため夏は遅くまで明るい。まだ日が高いうちに夕食をとり、あとはフィッツロイにかかる雲が晴れるのを待ちながら、コーヒーでも淹れてのんびり過ごす。ここではそんな理想的な山キャンプの過ごし方ができる。

南極ブナの原生林が広がる
 

山の向こうにフィッツロイが見え始める
 

キャンプ場からもフィッツロイを一望できる


翌朝、朝焼けに染まるフィッツロイを目指す。キャンプ場からロス・トレス湖へは急登のガレた砂礫の道で、ヘッドライトの明かりを頼りに登っていく。

明け方のロス・トレス湖は体の芯まで染み入る寒さで、厚手の寝袋にくるまって雲が取れるのを待つハイカーも多く見かけた。やがて夜明けとともに、特徴的な花崗岩の岩峰が目の前に現れる。フィッツロイは、一見すると不揃いなのに、芸術作品のような美しさだ。

綺麗に雲が取れることはなかったが美しいフィッツロイの姿を堪能

 

空に向かってまっすぐ伸びる三つの塔 トーレス・デル・パイネ

2016年12月13日(世界一周245日目)

アルゼンチン側パタゴニアを歩いた後は、チリ側にあるパイネ国立公園へ。パイネ国立公園のハイライトのひとつは「トーレス・デル・パイネ」、スペイン語で「パイネの塔」と呼ばれる三本の切り立った岩山だ。始めは平坦なトレイルだが、やがて深い渓谷の斜面に沿って高度を上げ、パイネの奥地へ入っていく。

小刻みにアップダウンを繰り返しながら深い森を抜け、斜度のあるガレ場を進むと、トーレス・デル・パイネの展望地だ。エメラルドグリーンに少しグレーを混ぜたような色をしたトーレ湖の奥に、三つの塔がそびえ立つ。花崗岩でできた塔は白く滑らかで、もはや僕らの知っている山の姿とは別のものだった。

もともとはマグマである花崗岩の塊が隆起し、氷河活動によってその周りの堆積物が取り除かれてできたというが、このような芸術的な塔を三つ並べる自然の神秘性に驚くばかり。空に向かってまっすぐ伸びる巨大な岩塊の威容は、いくら眺めても飽きることは無かった。

チリ側のトーレス・デル・パイネ国立公園
 

トーレス・デル・パイネの展望地へ続く谷筋
 

パイネの塔は花崗岩でできた芸術作品

 

奇峰クエルノス 厳しさが生み出す独特の魅力

2016年12月15日(世界一周248日目)

パイネ国立公園のもう一つのハイライト、フランセス谷に向かう日は雨だった。低い雲が奇峰クエルノスにかかり、全容を掴むことができない。次第に強くなる雨と風。パイネの厳しさを味わいながら、樹林帯を抜け急な岩場を登っていく。右手に白と黒のクエルノス、左手にパイネ・グランデとそこから流れ出る青白い氷河。振り返るとノルデンフェールド湖が見える。

フランセス谷の展望地はこれらを一度に見渡すことができる360度視界が開けた夢のような場所。この日はあいにくの天気だったが、どんよりとした重たい雲が広がる景色もパタゴニアらしい。

雨と風、パタゴニアの厳しさを味わう
 

フランセス谷からの眺め、青白い氷河が目の前に迫る


山火事で焼け焦げた木々、一年中吹く強い風によって真横に押し曲げられた木々に、パタゴニアを感じながら歩き続け、パイネ・グランデ小屋へ。僕らのトレッキングの終着点だ。ここからフェリーでペオエ湖を渡り、バスに乗り換えて街へ戻る。フェリーに乗る頃にはさっきまでの灰色の雲はどこに行ってしまったのか、遥か遠くまで青空が広がり、全てのものが目を覚ましたかのように鮮やかな色を取り戻していた。

デッキからは南国の海のようなペオエ湖越しに、クエルノス・パイネの鋭い角が見える。冷酷だった氷の女神が突如微笑み出すような変わりように、多くの人がパタゴニアに魅了される理由がわかった気がした。

フェリーに乗ると一気に晴れ間が広がった
 

南国の海のようなペオエ湖とクエルノス・パイネの姿はいつまでも脳裏に焼き付いている

 

パタゴニアでのトレッキング


アルゼンチン側のロス・グラシアレス国立公園と、チリ側のパイネ国立公園は、パタゴニア観光で最も人気がある場所の一つです。アルゼンチン側のフィッツロイやセロトーレ、チリ側のトーレス・デル・パイネ、フランセス谷、グレイ氷河などが有名なポイントにはなりますが、それ以外の場所でもパタゴニア特有の森や草花、川や湖の美しさを堪能することができます。

両国でトレッキング環境は少し異なります。フィッツロイ、セロトーレへのトレッキングは簡素な無料キャンプ場のみですが、チャルテンの街からの日帰りトレッキングが可能です。一方、パイネ国立公園は、標準的なルートで2泊3日から3泊4日となるため、キャンプ場から山小屋、ホテルまで宿泊施設が充実しています。いずれも、トレッキング初心者からタフなハイカーまで、それぞれのスタイルで楽しめる態勢が整っています。

南米の南端に位置し、日本からのアクセスは時間がかかりますが、日本では見られない景色はぜひおすすめしたい場所です。

フィッツロイ、セロトーレと、パイネ国立公園でのトレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備については、トレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

★フィッツロイ、セロトーレのトレッキング情報

★パイネ国立公園でのトレッキング情報

フィッツロイとパイネのトレッキングの間で訪れたペリトモレノ氷河

 

教えてくれた人

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
http://trailtravelers.net/
【Facebook】
https://www.facebook.com/trailtravelers/
【Instagram】
https://www.instagram.com/trailtravelers/

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