生地の組み合わせで、丈夫さと伸縮性を兼ね備えた最新トレッキングパンツを、北海道・恵庭岳で試す!
「ラグド」で「フレックス」なパンツとは? まずは商品チェック!
暑い季節の間の山歩きの際、僕はショートパンツを多用している。いわゆる生足のままで、擦り傷くらいは気にしない。解放感が気持ちよく、なにより涼しいからである。また、ショートパンツにタイツを合わせることもあり、そのようなスタイルでの足さばきのよさも気に入っている。
だが、涼しくなってくれば、もちろんロングパンツの出番だ。また、急峻な岩場や続くルートやヤブ漕ぎをしなければならない場所のときは、当然ながら夏でもロングパンツの保護力に頼っている。
秋に向け、今回テストしたのは、ホグロフスの「ラグドフレックスパンツ」。その特徴は、ずばり商品名の通りだ。「ラグド(Rugged)=頑丈」で「フレックス(Flex)=柔軟」なパンツなのである。
以下は、正面、裏面、真横から見たときの姿である。グレーとブラック、2種類の生地が使われているのがわかるだろう。
このなかで、グレーの部分が「ラグド」な生地で、ブラックの部分が「フレックス」な生地。ラグド、かつフレックスなひとつの生地を使っているわけではなく、部分的に使い分けているということである。具体的に言えば、なにかと擦れやすいフロントとふくらはぎの裏が頑丈な生地であり、行動中の体の動きに大きな影響があるお尻と膝を中心には柔軟な生地なのだ。
下の写真は、それら2つの生地を近くから見た様子である(1枚目は表面、2枚目は裏面)。グレーの部分はいかにも丈夫そうな厚みもある生地で、表も裏も同じように目が粗い織り方だ。反対にブラックの部分の表面はなめらかで伸縮性が高く、裏面は吸汗性にも優れているように見える。
グレーの部分の使用素材はナイロン95%&ポリウレタン5%のタフなClimatic。ブラックの部分はナイロン90%&ポリウレタン10%のFlexAbleだ。素材の種類だけを見れば、配合量がことなるだけで大きな違いはないように思えるが、織りと加工を変えることにより、耐久性と伸縮性にそれぞれの個性が出ているのである。
これらを実際に手で伸ばしてみると……。
ブラックの生地の伸びはたしかにすばらしい。薄手で通気性もよさそうだ。それに対し、グレーの生地も少しは伸びるものの、ブラックに比べると伸縮性が高いとは言えない。
フロントには左右の腰元と、右の太もも部分に、ポケットが3つ。どれもファスナーで閉じられ、行動中になかに入れたものを落とす心配はない。
また、スナップボタンは上下に2つ付けられ、激しい動きをしても外れないようになっている。
足を曲げたときに、内部に入れたものが屈曲部に位置しないようにするために、腰元の左右のポケットは浅めだ。深さは17cmほどであり、手を入れても手首までは収まらない。
太もも部分のポケットの深さも同様であるが、僕の使っているスマートフォンは縦のまま入れることができ、多少の異物感があるものの、歩行の邪魔にはならなかった。充分に実用レベルのサイズ感だろう。
フロントに使われているファスナーの引き手には工夫がある。引き手を上下に動かすとき、引き手を上向きにしているとスムーズにスライドするようになっているが、逆に下向きに倒すとロックされるのだ。だから、行動中は下向きに倒しておけば、絶対にファスナーが開くことがない。最近のパンツにはときどき使われている特殊なファスナーである。
足を大きく動かす登山という行為のときには、フロントのファスナーがいつのまにか開いてしまうことがある。気付かずにそのまま歩いていると恥ずかしいものだが、これならそのような失敗が少なくなり、非常にありがたい。
こちらは背中側の腰元だ。3つ見えるベルトループのなかで、中央のものだけが斜めに取りつけられている。手が届きにくい背中側では、このように斜めのほうが、ベルトを通しやすい。
なによりバックパックを背負ったときやクライミング用のハーネスを身に着けたときに、その部分のゴロつきが抑えられ、違和感がなくなるのがいい。
また、他の部分のベルトループも含め、もともとフラットになるように縫製されている。
それでいてベルトは通しやすく、細かいところながら、気が利いている。
そのようなベルトループがつけられているラグドフレックスパンツではあるが、同時に両サイドには幅が広めのゴムが取り付けられ、ある程度はベルトなしでも腰に合わせられるようにもなっている。
伸ばしていない状態だと、ゴムの幅は5.5cm(ゴムの上の部分)。力をかけて伸ばしてみると、これが9cm程度になる。その差は3.5cm。これが両サイドにあるのだから、ウエスト対応できる幅は最大で7cmといったところだ。もっとも、これだけ伸縮するとはいえ、最大限まで伸ばして着用すると腹部が強く圧迫されるので、現実的には4~5cm程度と考えたほうがよさそうである。
僕はお尻のデカさに対して腰が細いので、せっかくゴムが付いていてもウエストの長さが余ってしまい、べルトを併用したほうがよかった。だが、多くの方はベルトなしでも着用可能だと思われる。
最後に裾も見てみよう。このパンツの裾には面ファスナーを使ったテープ状のアジャスターが付属している。面ファスナー自体は12cmの長さがあるが、調整できる幅は7~8cmといったところだ。パンツの裾をブーツの上にかぶせてから軽く締めれば、小石などが入りにくくなる。登山のときだけではなく、サイクリングのときなどにも便利なディテールだ。
ただ、この部分があるために、パンツの裾の丈詰めはよほどの手間をかけなければ不可能である。北欧スウェーデンのブランドであるホグロフスには、日本人には丈が長すぎるパンツも散見されるので、購入前には直接試したほうがよい。
いよいよ登り出し! 岩場もある登山道で、タフさとストレッチ性を試す
ここまで確認した僕はやっと山に登ることにした。今回のテストの場は、北海道の恵庭岳。出発時にはほとんど陽射しがなく、これから雨が降ってもおかしくないような空模様であった。
それなのに、気温はなんと28℃もあり、非常に蒸し暑い! 歩き始める前から汗が流れ始め、この先が思いやられる。
しかし、夏らしく繁茂した緑はとても気持ちがいい。最近の台風の影響で倒木が多かったが、とくに歩きにくいわけでもないのは、地元の方がしっかりと整備されているからだろう。
この高温で、しかもシダ科の植物が目立つからか、北海道の山だというのに沖縄の亜熱帯ジャングルを歩いているような気分になるのがおもしろい。
歩いていると、ときどき倒木の枝がパンツをかすめる。そこで僕はあえて何度か、尖った枝をパンツに突き刺してみた。耐久性を見るためである。
張りのあるグレーの部分は、枝を突き立てても引っかかることもなく、引っかき傷すら残らない。耐久性はやはり高そうだ。だが、柔らかなブラックの部分はときどき枝の先を受け止めて、大きく伸びることもある。しかし破れることはなかった。もちろん程度にもよるが、ブラックの部分は伸縮性が高く柔軟だからといって破れやすいわけではないようだ。
恵庭岳にはロープがつけられた場所もあり、意外と滑りやすい斜面もあった。細かな凹凸に足先をかけるために何度も大きく足を上げなければならず、今回のようなテストには向いている。
このとき、僕は足首のアジャスターがきいていないことに気付いた。それはたんに僕のミスのためであるが…。
今回、僕は昨年8月にこの連載で紹介したホカオネオネの「スピードゴート 2 ミッド WP」を履いていた。だが正直に告白すれば、僕は別のブーツを合わせたほうがよかったのである。なぜなら、スピードゴート 2 ミッド WPはミッドカットモデルで、足首のアジャスターでブーツ上を覆いきれず、足を大きく動かすとパンツの裾がブーツの上から簡単にずれてしまうからだ。
下左の写真が今回の足元の状態である。足を少し動かすとパンツがずれてソックスが露出してしまった。そのために、先ほどの写真のように土が崩れやすい場所を進んでいると、ブーツ内に土や小石が入る。
しかし、後日になって撮影した上の2枚目の写真ようなハイカットブーツであれば、アジャスターでしっかりと絞れ、パンツの裾が簡易的なゲイターのように機能する。すると、土が入りにくくて有用なのだ。
見晴らし台という岩石が多い場所でも、あえて険しいルートを探して歩いてみた。
ラグドフレックスパンツの伸縮性は大したもので、足を大きく上げてもお尻や膝の生地が引き攣れることがなく、動きに大きな負担はかからない。生地が岩に強く擦れても、ほとんど跡は残っておらず、ここでも生地の強さを確認できた。
撥水性は「?」だったが、ストレッチする生地部分は通気良く、速乾性が高い!
登山道の末端に出ると、ちょうどよいタイミングでガスが流れ去り始めた。おお、運がいい!
眼下には爆裂火口があり、その先には支笏湖の湖面もうっすらと見える。別の方向には恵庭岳の山頂も。現在の恵庭岳は崩壊が著しく、山頂部分は立ち入り禁止。登山道末端から仰ぎ見るしかないのである。
現在の登山道の最高地点で記念撮影。本来の山頂から運ばれてきたと思われる山頂標には、山頂部の標高である1319.7mの文字がかすれながらも残っていた。いずれ登山道が再整備され、この標は山頂に戻るに違いない。そのときは、恵庭岳を再訪したいと思う。
それまでの登り坂で体力を消耗し、僕の全身は汗だらけであった。これから標高が低い場所へ下山していくと、よりいっそう汗が流れ出すことになりそうである。
ところで、ラグドフレックスパンツの生地には、過フッ素化合物フリーの耐久撥水加工が施されている。しかし、その撥水力はあまり感じられなかったというのが実情だ。
下の写真は、休憩中のカットである。大汗をかいていた僕が石の上に腰かけて下を見たとき、顔の汗がパンツに落ちて付着したときに撮影したものだ。
1枚目の写真は汗が落ちた直後で、2枚目の写真は少ししてから汗を指で触ってみたときのものである。撥水性があるはずなのに、表面の汗は簡単に吸収されてしまった。雨が降っているときに履いていたら、もっと水分を吸収してしまっただろう。
足表面の汗もよく吸い取るようで、いつしか僕の太もも生地は、内側からも湿り始めてしまった。速乾性が追い付いていないのだ。
とはいえ、今回は非常に高温で、僕は極度にたくさんの汗をかいていた。過ごしやすい秋や春の気温であれば、このようなことにはならなかったに違いない。
復路で再び見晴らし台を通ると、涼しい風が吹き始めていた。往路ではほぼ無風だったので、これはうれしい!
風が強く吹き付けてくることで理解できたことがある。グレーとブラックの生地の性質の差だ。それは伸縮性でも耐久性でもなく、風通しのよさや速乾性にまつわることで、あきらかにグレーの部分よりもブラックの部分のほうが涼しく、肌がクールダウンされていくのである。布地の乾燥も早いようだ。生地の性質とともに、厚みも大きく影響しているのだろう。完全に夏向けに徹したパンツであれば、このブラックの生地を使ったものが便利そうだ。
無事に下山を完了し、支笏湖の周りをクルマで移動する。
この湖の近くには他にも樽前岳や風不死岳、空沼岳などの山があり、どれも魅力的だ。いつか、湖周辺のキャンプ場に連泊し、周囲の山々をまとめて歩いてみたいものだと考えた……。
まとめ:伸縮性、耐久性の異なる生地を活かしたパンツは試してみる価値あり
身長177cm、足腰はかなりガッチリとした体型の僕が今回試したのは、サイズM。先に書いたように、ウエストは少し余ったのでベルトを併用したが、裾の長さも気にならず、歩行性が妨げられることはなかった。また、あまりに暑い日のテストで大量の汗をかき、最後は吸収された水分で生地が少し重くなるくらいだったとはいえ、膝やお尻の伸縮性のすばらしさも体感できた。ただし、撥水性には疑問がないわけではない。
太ももとふくらはぎが太い僕にとって、このパンツはかなりぴったりと肌に接する履き心地である。たとえて言えば、パンツというよりもタイツに近い感覚だ。とくにブラックの生地のしなやかさは上々で、少々タイトでも締め付けられる感じではない。山中でタイツを使うことも多い僕は、違和感なく一日を過ごすことができた。もっとも、一般的な体型の方が着用すれば、もう少しリラックスした着用感を得られるはずだ。
生地の強度も十分そうである。ただ、今回は生地の強さに関してはある程度のチェックはできたが、縫製の強度までは確認できていない。より長いスパンで履き続けなければ、これはわからないだろう。
ラグドフレックスパンツのように、伸縮性や耐久性が大きく異なる生地を大胆に組み合わせたパンツは、近年の登山用パンツのひとつのトレンドである。機能性を考えれば、これからますます増加しそうだ。自分の体型に合えば、一度試してみる価値は大いにあるのではないだろうか?
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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