群馬県・子持山、屏風岩から獅子岩へ――。紅葉と特異な岩塔をめぐるさわやかハイキング

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11月に差し掛かる頃になると、紅葉は標高1000mあたりまで下ってくる。秋も深まったこの時期に歩く低山は心地が良い。群馬県にある子持山は、紅葉と岩場歩き、そして抜群の展望を楽しめる山となっている。

屏風岩へ向かう尾根から見る、子持山のシンボル的な存在の獅子岩の雄姿(写真=奥谷晶)

 

群馬県の中心部、沼田市と渋川市の境にそびえるのが子持山です。古い火山活動によって形成されたという子持山のいちばんの特徴といえば、特異な岩塔が立ち並ぶ姿です。その中でも特に有名なのが獅子岩(大黒岩)でしょう。

獅子岩は、かつての火口に詰まっていた溶岩が、長い年月の浸食に耐えて残った部分が露出したもので、学術的には火山岩頸と呼ばれるものです。子持山には、この獅子岩のほかにも屏風岩はじめ、たくさんの奇岩・怪岩があり、登山者を楽しませてくれます。

子持山へ向かう尾根から獅子岩を顧みる。まさに「風に立つ」獅子の風貌(写真=奥谷晶)


子持山の標高は1296mと、さほど高い山ではないので、夏の時期は暑くオススメできませんが、11月に入ると爽やかな風と紅葉を楽しめるハイキングの絶好の季節となります。

今回は屏風岩を通り、獅子岩を経て山頂を目指す、ちょっとした岩登り気分を味わえる展望の良い周回ハイキングコースを紹介したいと思います。

モデルコース:獅子岩を経て子持山を周回

行程:
【日帰り】三号橋(登山口)・・・子持山登山口・・・屏風岩・・・獅子岩・・・柳木ヶ峰・・・子持山・・・柳木ヶ峰・・・大ダルミ・・・浅間山・・・三号橋(約5時間)

⇒子持山周辺の地形図を確認

 

スリルある岩尾根を歩き、大展望の獅子岩、子持山へ

2017年11月10日、例年より冷え込みが早かったこの年は紅葉は残念ながら終盤、それでも麓にはまだ紅葉が残り、その中を歩き始めます。子持山への登山口へは、ふだんは7号橋付近まで車で入れますが、このときは林道崩壊と治山工事のため車は3号端手前から通行止めになっていました。

ゲート前の空きスペースに車を停めて出発すると、登山道の入り口である6号橋までは、林道に亀裂が走っていたり、沢沿いの登山道もゴロ石で埋まっている箇所もあったりして、分かりにくいところもあります。7号橋の先にある駐車場には登山ポストやトイレはがあり、ここから本格的な登山の始まりです(トイレの使用は不可でした)。

まずは登山口からも見えている屏風岩へ向かいます。すでに落葉が始まった木立ちの間から、特異な獅子の相貌を持つ獅子岩の岩峰がよく見えています。

登山口からほど近くにある屏風岩。基部には鳥居が鎮座する(写真=奥谷晶)


橋を渡ると小さな赤い鳥居のある屏風岩の基部に到着。その右側を急登を進むと、早速鎖場と梯子が始まります。やがて、屏風岩の岩頭に出ると、屏風岩の先端からはこれから向かう獅子岩の堂々たる姿を見ることができます。

屏風岩へは鎖場と梯子を登って岩頭に立つことができる(写真=奥谷晶)


屏風岩からは、「尾根道」の標識に沿って展望のよい痩せ尾根を進むコースもあります(ガイドの地図には掲載されていないものもあります)が、今回はいったん分岐に戻り樹林帯の登山道で獅子岩方面へと向かいます。

やがて「獅子岩・子持山頂」と「この先危険」の分岐の標識が出てきますが、「この先危険」は子持岩正面壁への取り付きに至るクライマー専用の踏み跡なので、興味本位で入り込まないようにしましょう。

しばらく登ると屏風岩からの尾根ルートとの合流地点へ。さらに獅子岩方面へ行くと獅子岩の肩のテラスにつき、ここから慎重に鎖場とブランコ式の鉄梯子を登って獅子岩のてっぺんに立つことができます。獅子岩からは、赤城山、浅間山、榛名山に加え、妙義山など西上州の山々の大展望を思う存分楽しめます。

垂直に立つ獅子岩の迫力ある「顔」? 部分をを見上げる(写真=奥谷晶)

獅子岩から子持山山頂にかけては、やせ尾根や岩尾根をよじ登る急登がつづきます。山頂に到着すると、十二山神の石碑と360度方向に広がる抜群の展望が迎えてくれます。谷川連峰など美しい展望を楽しんだあとは帰路へ。途中、柳木ヶ峰からは西側の尾根ルートを進みます。柳木ヶ峰から浅間山までは、獅子岩を眺めながらのアップダウンの続く稜線歩きのコースをとります。

十二神の石碑が鎮座する子持山の山頂、展望は素晴らしい(写真=奥谷晶)

子持山の尾根からの展望。左が獅子岩、尾根の先には榛名山が見える(写真=奥谷晶)


この時期の大ダルミへの下りなどは、急傾斜の登山道が落ち葉で埋もれてます。隠れた石や木の根に足をすべらせやすい箇所が多く、注意が必要となります。

紅葉のピークは過ぎていましたが、下るにつれて、葉の落ちた木立の中に名残りの燃えるようなカエデが最後の輝きをみせていました。

大ダルミ付近からの獅子岩の様子。紅葉の木々の合間からその姿を見る(写真=奥谷晶)

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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