汎用性が高く1年中使える! ゆったりして履き心地の良いスカルパ「ZGトレック GTX」を、秋が深まる平標山テント泊山行で試す!
秋が深まり、富士山や北アルプスなどの高山では初冠雪も記録されるようになってきた。だが、多くの山域では雪が積もり始めるのは、まだ先のことだ。温暖な地域の低山であれば、雪が積もることすら珍しいかもしれない。
今回ピックアップしたのは、スカルパの「ZGトレック GTX」。雪山よりは無雪期の山に向く、トレッキング系のブーツだ。特別に変わった特徴があるわけではないが、素材の使い方や全体のデザインなどは非常に現代的であり、いまの登山靴のなかではオーソドックスで汎用性が高いモデルといってよい。重量625g(#42、片足)という数値も、このようなタイプのブーツとしては平均的である。
スカルパにしては幅広めの足型。実用的なフック、ソールなど、さすがスカルパだ!
ZGトレックは、アッパーがくるぶしまで覆うハイカットタイプ。歩行中に足首が動かしやすいようにアキレス腱の部分が少し低くなっている。
くすんだブルーを基調にグリーンで変化をつけたシックなカラーリングがいい。男性用には他にグレー系があり、女性用にはグリーンがかったブルーが用意されている。
足型は比較的ゆったりとした形状のものが使用され、それに伴って外見も少し丸みを帯びているように見える。
僕の足の幅はとくに狭くも広くもないが、このZGトレックに足を入れてみると、実際かなり余裕があった。足幅が狭い人は緩すぎてフィットさせにくいと思われるが、反対に足幅が広めの人には合いそうである。
アッパーのメイン素材はスウェードで、耐水加工を施してある。部分的には化繊や樹脂製パーツが使われ、透湿性や柔軟性、耐久性を増すように工夫されている。
とくに足首の部分には薄手で柔らかな化繊が使用されており、わずかながら伸縮性も備えている。そのために、内部のクッション性素材と相まって、履き心地がとてもソフトだ。
ブーツの内側はゴアテックスをソックス状に張り合わせて作ったブーティで防水されている。これは現代の登山靴としてはもっとも一般的な防水方法で、それだけに確実性が高いともいえ、安心感は大きい。
上のカットは、インソール(フットベッド)を取り出して撮影したものだ。サイドから足裏まで同じ素材が張られているのがわかるだろう。
ブーツ内部から取り出したインソールがこちら。厚み自体はそれほどでもないが、クッション性が高い素材で立体的に作られている。
現代の登山靴メーカーは、ブーツ本体に組み合わせるインソールにも力を入れ始めている。その点からいえば、スカルパはインソールの開発にはまだあまり力を入れていないメーカーともいえなくもない。メーカーとしては充分に機能性を発揮するように作っているつもりだろうし、このようなインソールこそベターだという認識なのかもしれないが、使う人によっては弾力性やかかとのホールド感に物足りなさを感じる可能性もある。その場合は、別メーカーのインソールを購入して変更すると履き心地がアップするかもしれない。僕はスカルパのブーツのヘビーユーザーで、これまでの登山人生のなかでいちばん履いていたのが同社のブーツであるのは間違いない。だが、いつもインソールだけはもう少ししっかりしたものがほしいと思い、別メーカーのものに入れ替えている。
靴紐の締め付け感は3種のアイレットやフックで調整する。どのパーツも滑りがよく、軽い力で引き絞れるようになっている。
登山靴に使われているフックには数種のタイプがあり、靴紐をひっかければその部分が固定されるような仕組みのものも多用されている。ZGトレックには上から3段分、フックが使われているが、上部2段は滑りがよいタイプで、いちばん下の3段目のみが滑らず固定できるタイプ。一見ではすべて同じフックに見えるのに、じつはフィットさせやすくするために、2種を使い分けているのだ。こういう部分はさすがスカルパだと思わざるを得ない。
そんなフックから靴紐を外していくと、このような見た目になる。内側のゴアテックスブーティと連動しつつ、足首部分まで水が入らないようにショート丈の長靴のような構造になっているのがわかる。
この部分の生地はソフトで足に当たっても違和感がない。だが薄手だけに、小石などを巻き込んだまま靴紐を締めて歩くと、生地が傷んで防水性を損ないそうだ。使用時はそのあたりに注意してほしい。
ブーツの後部には、ブーツを足から脱着するときに指をかけるループが付いている。薄いテープ状のパーツなので、歩行中に草木や岩が引っかかりにくい。
だが、口径が少し狭いようで、僕の指はかけにくかった。細かなことだが、もう少しだけ広く作ってあるとよいのだが。
ZGトレックを後ろ側から見てみよう。グリーンの部分がブーツのクッション性を大きく左右するミッドソールだ。
最近の登山靴はミッドソールの弾力性を重視し、厚めの設計にしたものが増えている。だが、ZGトレックはこの点もオーソドックスで、必要十分な厚みに抑えている。かかとの位置をあまり上げないことで、歩行時に体のバランスを崩しにくいようにと考えているのかもしれない。
ソールは、定評あるビブラム社のものを採用。指で押せば簡単に曲がるほど柔らかく、ブーツ全体の柔軟性を高めている。ソールのパターンを見ると、ひとつひとつのミゾの間が広めにとられており、泥などが付着してもすぐに落ちやすいデザインとなっている。
先端部はあまり湾曲していない平坦な形状だが、いくつものミゾが切られており、岩の突起につま先をかけやすい完全な平面(いわゆるクライミングゾーン)にはしていない。このあたりも、ZGトレックは岩場で力を発揮するアルパイン系ブーツではなく、地面の上を歩くことを主としたトレッキング系モデルであることを示している。
つま先部分は丸みを帯びた形状である。この部分にはアイゼンを取り付けるためのコバはなく、ワンタッチ式、セミワンタッチ式のアイゼンは取り付けられない。
つまりZGトレックは本格的なアイゼンとは合わせにくいのだが、もちろん軽アイゼンやチェーンスパイクとは併用できる。これからの季節に使うのならば、冬でも雪が少ない場所が適している。別の言い方をすれば、積雪が多い山以外は1年中活躍するのだ。
紅葉終盤の平標山へ。実際、山道を歩いてみての履き心地は?
今回のテストには新潟の山を選んだ。出発は平標山登山口とし、僕は岩名沢林道を歩き始めた。
初日は平標山の家までで、行程は1泊2日。本当はもっと長く山中を歩きたかったが、天気の悪化が予想されるため、崩れ切る前に下山するつもりであった。
平元新道に入り、少しずつ標高を上げていく。
前日に降った雨で地面は湿り、泥がソールに付着する。だが、先に説明したように、ソールのミゾの間が広いために、数歩動いているうちに大半の泥は落ちていく。また、土や落ち葉の上で滑りにくく、こういう道では非常に調子がいい。
岩の上でのグリップ力も上々である。つま先だけを使っていくつもの岩を乗り越えてみたが、この山の石質とは相性がよいこともあり、まったく滑ることがない。
ただ、ブーツが曲がるほど足先に力を入れると、アッパーの硬さがダイレクトに足に伝わり、足が少し痛くなってくる。この手のトレッキング系ブーツの中では、かなり硬めの印象だ。しかし、テスト用に借りた新品のため、履き慣らしはしていない状態なので、仕方がないことだ。ZGトレックを購入した場合は、実際に山へ向かう前にきちんと履き慣らしをしてほしい。
稜線上の紅葉は終わったと聞いていた平標山だが、中腹にはまだ美しい彩が残っていた。本当にこれから天気が崩れるのだろうか? 予報を疑いたくなるような好天である。
平元新道はとてもよく整備され、手入れが十分な木段が連続している。もともと歩きやすいということになるわけだが、それを差し引いてもZGトレックの調子はよい。テストのための登山だというのに、僕は履いていることすら忘れかけ、どんどん標高を稼ぐことができた。
だが……。稜線上の平標山の家に到着するころ、空模様が怪しくなってきた。テント場から東側を眺めると、明日歩こうと思っている仙ノ倉山から谷川岳に至る稜線が連なっているが、その上には雲が広がり、次第に重みを増している。
テントを設営した僕は前室にZGトレックを置き、夜のうちに雨が降ってきてもブーツが濡れないように袋をかぶせてから就寝した。
夜中には断続的に雨が降り始め、ときには目が覚めるほどの強雨にもなった。だが朝になると小雨の状態で安定。僕はテントを撤収して出発した。
このまま、雨が強くなる前に下山できるといいのだが……。
悪天の登下山も問題なし。強いて難点を挙げるのならば…
昨日は乾燥していた岩や木道は完全に濡れている。だが、ZGトレックのソールは相変わらず滑りにくい。もちろん昨日よりは注意して歩く必要はあるが、スリップをそれほど恐れずに歩けるのはありがたい。
ただし、この山域の岩の性質や、比較的新しくて苔むしていない木道であることを差し引かねばならない。また、まったく摩耗していない新品のソールだということも滑りにくさの重要ポイントだ。だが新品でも滑りやすいブーツも多いのだから、ZGトレックの基本的機能は充分だといえるだろう。
予報によれば、天気は下り坂といっても午前中はあまりひどくはならないようだ。そこで平標山まで登った僕は、ここから仙ノ倉山へ往復した。
天気さえよければ、ここからの稜線は谷川岳山域らしい雄大な景色が楽しめる場所である。しかし、今日はまったく何も見えず、強い風も吹きつけてくる。登山道が明確で、道迷いの心配がないのだけが救いだ。
登山道の一部はドロドロにぬかるみ、ところどころに水たまりもできている。カメラを取り出すのもためらうほど雨が強くなるタイミングも多くなり、なかなかハードな環境だ。だからこそテストには好都合ともいえるのだが……。
レインパンツを上にかぶせたZGトレックを履いたまま、僕は歩き続けた。ブーツの防水性は問題なく、これだけのシチュエーションでもブーツ内はドライだ。ただし、当初は機能していた撥水性は落ち、次第に表面には濡れたままの面積が広がっていく。これは仕方ないことだが、使う前には毎回、撥水スプレーをかける必要がある。
平標山から1時間もせずに、仙ノ倉山へ到着。雨と風のために三脚を立てて撮影することができず、こんな写真を撮るのが精一杯だ。
あとは平標山にもう一度戻り、松手山を経由して平標登山口へ下山するだけである。
標高を下げると雨は弱まったが、強風は相変わらずだ。じつはこのころから雨に濡れたカメラの調子が悪くなり、撮影が厳しくなってきた。
そのために説明用のカットはないのだが、下山時に体感したことをここで記しておきたい。
じつは登山口から稜線までの登りのときと、平標山から仙ノ倉山までの比較的平坦な場所ではあまり感じなかったが、下山時には気になった点があった。それは、ブーツのクッション性の低さである。衝撃吸収性が少し足りないように感じられ、膝や腰に負担がかかるような気がするのだ。足裏も痛くなるほどではないが、段差が大きい下り道ではブーツ内に叩きつけられるような感覚がないわけでもない。
これはミッドソールの弾力性が低いためかもしれない。もしくはインソールがより足裏をサポートする形状のものならば、自分自身の足裏の肉がクッション性を発揮して、衝撃を緩和してくれた可能性もある。ともあれ、岩場を得意とするアルパイン系のブーツならばこれくらいのクッション性も普通だが、トレッキング系としてはクッション性があまり高くはないようなのである。だが、僕は今回、テント泊用の重い荷物を背負っていた。これが日帰り登山や小屋泊用の軽い装備であれば、ほとんど気にならなかったようにも思える。
まとめ:クッション性にやや欠ける感もあるが、積雪の多い山以外では1年中使える。「ZGトレック GTX」は、すばらしい山旅の相棒になるだろう。
無事に下山を完了し、ZGトレックを改めて眺めた。
総じていえば、とても出来がよいトレッキングブーツであった。たった2日間では耐久性は判断できないが、アッパーやソールの傷みはなく、フィット感も上々だ。積雪が深い山以外では大いに活躍してくれるだろう。
気になるのは、やはり下山時に感じたクッション性への物足りなさである。ブーツ自体の基本性能は高いのだから、一度履いてみて問題があれば、弾力が高いインソールにチェンジするのも一手だ。また、荷物があまり重くない登山ならば、そのままの状態でも違和感なく使える方も多いはずである。そういう点だけ留意すれば、すばらしい山旅の相棒になってくれるに違いない。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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