伝説が残る7つの峰を渡り歩く。宮城県・七ツ森へ

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宮城県黒川郡にある七ツ森。その名の通り、七つの山の総称だ。最高峰は笹倉山で、標高506m。山頂には薬師如来が祀られ、伝説も残される。雪が降り始めた12月は、味わい深い東北の低山巡りへ。

大和町吉岡からの七ツ森。連なる山が可愛らしく感じる(写真=福井美津江)

 

冬季、標高の高い山は積雪し、天候も不安定な日が多くなります。山歩きをしたいけれど、どこの山に行こうかと悩む季節。12月はまだ積雪量も比較的少ない七ツ森がおすすめです。ただし、年によって積雪状況は異なりますので、ご注意ください。

笹倉山、松倉山、撫倉山、大倉山、蜂倉山、遂倉山、鎌倉山の七峰を七ツ森と呼びます。七山はそれぞれ山頂や山頂付近に薬師如来石仏が安置されています。ひとつだけ離れた場所に佇む笹倉山山頂の薬師堂には7体の薬師如来石仏が安置され、山開きの際に参拝できるそう。506mの笹倉山が最も高く、あとは2~300m台です。

笹倉山山頂の薬師堂。7体の石仏様が安置されているらしい(写真=福井美津江)

 

しかし、連なってはいるものの、ひとつひとつ下山してから登り返すメリハリのある山歩きです。全てが急坂であり、全山登頂するのはたいへんですが、その分、達成感が得られます。

 

モデルコース:御門杉登山口~笹倉山(往復)~松倉山~遂倉山~遂倉山入口

▼御門杉登山口~笹倉山(往復) 高低図

▼信楽寺跡駐車場~松倉山~遂倉山~遂倉山入口 高低図

行程:
【日帰り】 御門杉登山口・・・笹倉山・・・御門杉登山口<御門杉登山口~信楽寺跡駐車場 約5㎞、車移動>信楽寺跡駐車場・・・松倉山・・・撫倉山・・・大倉山・・・蜂倉山・・・鎌倉山・・・遂倉山・・・たがら森・・・遂倉山入口(計約7時間45分)

※遂倉山入口から七ツ森湖東側の歩道を通り、徒歩70分で信楽寺跡駐車場

 

峰から峰へ。連なる山々を歩く

まずは連なる山々から少し離れた七ツ森最高峰の笹倉山からスタートです。ロングコースなので、朝は早め、歩きはゆっくり、ウォーミングアップしながら登り始めました。眺子ノ口展望台から、後ほど巡る山々を眺めると気合いが入ります。

笹倉山登山道中腹にある亀ノ子岩。寒そう(写真=福井美津江)

 

山頂で最初の薬師如来石仏様にご挨拶し笹倉山を下山。松倉山の登山口近くの駐車場まで車移動しました。古民家カフェ「モカモアコーヒー」の前を通り、松倉山へ。杉林を進むとロープの張ってある直登の急坂が現れます。この日一番の急斜面かもしれません。長くは続かないので少し頑張ります。
 

松倉山の薬師如来石仏。三角点は少し離れた南側にある

 

山頂尾根に出たら南側に三角点があるので立ち寄ってみましょう。薬師如来様の脇を通過し、いったん下って次の撫倉山へ。撫倉山は南側を巻きながら登ります。歩きにくいトラバース道の途中、木々の間から先ほど歩いた松倉山が見えます。撫倉山の山頂は笹倉山や大和町の街並み、太平洋までも見渡せ、七ツ森の中で最も眺望のきく場所です。

撫倉山山頂から吉岡の市街地が見渡せる(写真=福井美津江)

 

頂を過ぎると岩場や鎖場があり、ドキドキする場面も。西側に七ツ森湖と、泉ヶ岳や船形山も見渡せる展望箇所があり変化に富んでいます。急坂を下り終えたら、十字路を直進。山頂尾根は東へ行くと薬師如来様があります。大倉山で半分の行程を過ぎましたから、やや心に余裕が出てきました。あと3山です。歩き終わるのが淋しい気持ちさえ湧いてきました。

各山の間には登頂せず歩けるように作られた遊歩道もあるので、道標を確認して進んでください。蜂倉山は南側から明るい道を登り北へ下ります。北斜面は春にたくさんのイワウチワが群生する場所です。その後沢沿いを歩き、小沢を越えて、木の根がむき出しに張った尾根を登るとキツネノカミソリ広場に着きます。一休みしたくなる休憩ポイントです。鎌倉山からは木々の間に七ツ森湖が見えます。こちらの薬師如来様だけ屋根付きです。そして、七ツ森の最後、遂倉山。火の見やぐらのような見晴らし台がありますが、だいぶサビも進んでいるようです。

蜂倉山から見える尖った遂倉山(写真=福井美津江)

 

ところで、お気付きかと思いますが、七ツ森の山々の名前には全て「倉」が付きます。

七ツ森として数えられてはいませんが、最後に「たがら森」に寄りました。七ツ森の伝説は、朝比奈三郎という力持ちの大男が弓の稽古で的となる山を作るとき、タンガラ(背負いカゴ)に土を入れて7回運んで置いた場所が七ツ森となり、最後にタンガラについた土を払い落とした時にできたのがタンガラ森(たがら森)と伝えられています。

手作りのあたたかみを感じる山頂標識(写真=福井美津江)

 

秋には、一日で七薬師を巡拝する伝統的風習「七薬師掛け」も。1日で全て歩かずとも、体力や時間に合わせてコースを決めることもできますから、少しずつ何度も訪れて楽しむのも良いですね。

下山後、七ツ森湖東側の歩道を通り、信楽寺跡駐車場まで5kmの道を歩きました。車が2台あれば、下山口近くの空スペースに駐車しておくと楽です。

下山後立ち寄りたくなる松倉山山麓にある古民家カフェ「モカモアコーヒー」(写真=福井美津江)

 

プロフィール

福井美津江

宮城県仙台市生まれ。高校時代は山岳部。のちに山の写真に興味を持ち、山歩きを再開。仙台山想会、山岳写真クラブ仙台会員。著書に『分県登山ガイド 宮城県の山』(山と溪谷社・共著)

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