日本にある奇妙で美しい大地の造形、その成り立ちの秘密を知り訪れたい! 地形写真家と巡る絶景ガイド

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山上に広がるダイナミックな爆裂火口、幾層にも重なった美しい縞模様を見せる地層、どうやってできたのかわからない不思議なかたちの奇岩。日本国内を旅すると、信じられないような地形を目にすることが多々ある。けっして広くはない日本列島になぜこれだけたくさんの絶景があるのだろうか。

これらの美しい大地の造形はどのようにできあがったのだろうか。地形が織りなす見ごたえたっぷりの絶景写真とともに、その成り立ちをわかりやすく解説した書籍『GEOSCAPE JAPAN/ジオスケープ・ジャパン 地形写真家と巡る絶景ガイド』(以下『ジオスケープ・ジャパン』)の著者である竹下光士さんに聞いた。

 

――『ジオスケープ・ジャパン』に掲載されている写真のように、なぜこれだけさまざまな美しい地形が日本で見られるのですか。

日本列島は4枚のプレートがぶつかる地球上でもまれな場所の上にあります。プレートは少しずつ動いているので、その接点では地震や火山活動などさまざまな現象が起こります。日本は小さな島国でありながら自然災害の多さは飛び抜けていますが、その分、多種多様な地形が見られるのです。
アメリカのグランドキャニオンでは約20億年分の地層がはるか地平まで続いています。そのスケールには圧倒されますが、それが延々と続くと、見慣れて飽きてくるものです。単調だからというのが理由のひとつだと思います。
日本列島の地形はスケール感こそ乏しいものの、多様性という点ではとても興味をそそられます。

――絶景を見てすごいなと思うだけでなく、より地形を楽しむためにはどういうことを意識したらいいでしょうか。

その絶景がどうしてできたのか、その成り立ちを想像してみると、見え方は変わってきます。例えば、科学系のテレビ番組などで、時間・時代を遡るときにリアルなCG映像を使いますが、絶景を前にしながらそのようなイメージが頭の中で描けたらとても興奮すると思います。ただ、実際は相当な知識がないとそのようなものを思い浮かべることができません。
最近では日本各地で「ジオパーク」の整備が進み、地形に絡んだ観光地や絶景ポイントでは、その成り立ちについて説明した案内板が増えてきました。イラストなども併記され、一般の人にも理解しやすい工夫がされています。それらを手掛かりにすることで、CG映像とまではいかないまでも、4コマ漫画風には地形の成り立ちをイメージできるのではないでしょうか。

――こういった絶景がどういう場所で見られることが多いですか。自分で探し出すことはできますか。

前述のジオパークを手掛かりにするといいと思います。「ジオ」とは地球や大地という意味で、「パーク」は公園、そのふたつの単語を合わせることで、地形に親しみ楽しむ場所という意味を持たせています。地形を新たな観光の切り口として定着させようとするものです。
2020年3月現在、日本ジオパークに登録しているエリアが44カ所もあります。その他にも国立公園や国定公園、天然記念物の指定地などにも興味深い地形絡みの絶景があります。ネットで検索して、まずは身近な地形の絶景を探してみてはいかがでしょうか。

――地形についてもっと知りたいというときに、素人でも参考にできるものはありますか。

基礎的な知識については、高校の地学の教科書がいいのではないでしょうか。YouTubeなどの動画サイトを探せば、受験予備校の授業を見ることもできます。
ただ、最初はそれらで得た知識と現地の地形がなかなかリンクしないことも事実です。あきらめずに見る地形の数をこなすうちに目が肥えてきて、それに知識が伴ってくる、といった感じです。
『ジオスケープ・ジャパン』では、地形に絡んだ絶景を全国から51箇所選んでいます。私自身の写真家目線で選んでいるので、知識がなくても楽しめる場所ばかりですが、その地形の見方についても一般向きに解説しています。「見る」と「知る」を現場で経験できるようになっています。

登山者にはおなじみ、谷川岳の一ノ倉沢の豪快な景色


上の写真は、ヤマケイオンライン・ユーザーのみなさんにはおなじみの谷川岳一ノ倉沢です。意外と知られていないのは、この谷の原型を削ったのは氷河だということです。

谷川岳の標高は2000mに届かず、本来なら氷河ができることはないのですが、冬の日本海側の圧倒的な降雪量により、風下側の一ノ倉沢とその両隣の沢にはかつて氷河が流れていたのです。谷底の中央部が丸くなっているのが、氷河が削った痕跡です。氷河期のあとは、雪崩がさらに谷を磨き上げています。下の写真は残雪期に撮影したもので、雪崩が落ちることで滑り台のように岩壁を磨いている様子がわかります。

丸くなっているのは、氷河によって削られた部分を、雪崩が削っていったのだという


一ノ倉沢は氷河が原型を作り、雪崩が仕上げをした日本一険しい絶景なのです。このように成り立ちを少し知るだけで、見慣れた山の風景であっても新たな見え方があると思います。『ジオスケープ・ジャパン』を手に山や海に出掛けて、日本列島を再発見してください。

 

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