初秋の飯豊連峰・化繊シュラフの実力を試すのにもってこいの悪天… ハイパーラミナスパーク
今月のPICK UP マウンテンハードウェア/ハイパーラミナスパーク [コロンビアスポーツウェア]
初秋の飯豊連峰。テスト日和の雨の山…。
今年の夏も僕はひたすらに山へと向かっていた。そしてありがたいことに、例年になくすばらしい晴れ続きで……。というのは、お盆までの話。その後、全国的に天気が崩れ、いつのまにか残暑らしい残暑もなく、秋となっていた。
僕はそんなお盆明けのタイミングで飯豊連峰を歩いていた。山麓ではブナ林が美しく、東北の山々のなかでもトップクラスの魅力をもつ広大な山域である。
弥平四郎登山口から登り始めたものの、天気はすぐれない。いつ雨が降ってもおかしくない空模様のなか、僕は初日の宿泊地である切合小屋に到着し、テントを張った……。
じつはこの山行、来年の『山と溪谷』に掲載予定の取材だ。よって、山歩き自体の話は来年のお楽しみとして、今回は山道具のテストをメインに話を進めたいと思う。
特殊加工で、化繊の中綿なのに小さくなるシュラフ
今回、ピックアップしたのは、マウンテンハードウェアの新型シュラフ「ハイパーラミナスパーク」。内部に化繊の中綿が収められたスリーピングバッグ、つまり寝袋である。
現代の寝袋の主流は、中綿がダウンのものだ。最近は撥水加工などが施されたものも増え、以前ほどダウンの大敵である「濡れ」を気にせずに使えるものも発売されている。だが、やはりテント内に浸入した雨や結露で濡れてしまうのには、どうしても抵抗があるものだ。
それに対し、中綿が化繊のものは多少濡れていても保温力が低下せず、安心感が高い。とはいえダウンよりも重く、かさばるのは否めず、結局は軽量コンパクトさに秀でるダウンのものをいつも使ってしまうのだ。
しかし、ハイパーラミナスパークは、生地に中綿を溶着することで、中綿が偏らないようにする「ウェルデットラミナ製法」を採用。この製法によって冷たい外気が内部に入りにくい構造を実現し、使用する中綿が少なくても温かさをキープしている。さらに、これまでよりも格段に中綿を圧縮しやすい。その結果、保温力が高いままに軽量で、収納時にはコンパクトになる寝袋が生まれたのだという。
こちらが収納時の様子。付属のコンプレッション式スタッフバッグに入れ、圧縮した状態だ。実測で直径が約17cm、幅は約20cm。こんな収納時の大きさで、快適使用温度は5℃。重量は737gだ。同レベルのダウンの寝袋よりはまだ大きくて重いが、これで中綿が化繊なのだから驚く。防寒着を着たままで使用すれば、秋の日本アルプスでも充分に使える保温力だ。
僕はこの寝袋に興味を持ち、この春の発売後から使い始めていた。たしかにこの収納時のサイズ感と重量、そして保温力で、水濡れも気にならないのならば、重宝しそうではないか。
だが先にも述べたように、今年の夏の前半は晴天続き。ハイパーラミナスパークの実力を判断できるような悪条件はなかなか訪れなかったが、お盆明けで天候不順の飯豊連峰での山行がやっとよい機会になったというわけなのである。
1泊目の切合小屋のテント場ではそれほど強い雨には遭遇しなかったものの、2泊目の本山小屋のテント場は強風の上に大雨だった。
テントはしっかりと張っていたというのに、雨と結露のためにフライシートがインナーテントに張りついてしまった。内部の壁もひどく濡れている。狭いテントのなかでは寝袋の足元が完全にテントの壁に接しており、表面がどんどん湿っていくのがわかる。
しかし一晩を明かした後に感じたのは、保温力はほとんど低下していないということ。正直なところ、表面のナイロン素材の撥水力はいまひとつであり、かなり多くの水分が浸透していたことは間違いない。それでも充分に暖かいのだ。
暖かいということは、もちろんすばらしいことだ。だが無用なまでに湿らせる必要はない。表面素材の撥水力はもっと高いほうがよいと思う。それまでに何度も使いこんでいたから撥水性が低くなったのかもしれないが、これは改善してもらいたい点だ。
ちなみにハイパーラミナスパークは、足元と体幹の中綿量を増やし、体の中でもとくに冷えやすい部分をカバーしている。これも足元の中綿が湿っていても暖かさを維持できた一因だろう。
配慮の行き届いたディテールの作り
この寝袋の外観上の大きな特徴は、ファスナーがフロントに付いていることだ。つまり一般的な寝袋のように体の横にファスナーがあるのではなく、首元から腹部に向かう正面に設けられているのである。寝袋に入った僕の顔の下から長く延びる赤いラインが、そのファスナーとなる。
個人的には非常に気に入っているデザインだ。ファスナーを広げれば、足を寝袋に入れたままテント内で座ることができ、狭い空間内でも暖かく快適に過ごせるのである。ただし、ファスナーがフロントに付いていると内部の暖気は逃げやすい。暖かい空気は上昇するため、体正面の合わせ目から流れ出しがちだからだ。
だが、その合わせ目の部分にはチューブ状のパーツをつけられ、さらにベロクロで留められるようになっている。寒冷期用の寝袋にはよく採用されている工夫だが、フロントにファスナーがあるハイパーラミナスパークでは、とくに重要だ。こういう部分が省かれていないのは好印象である。
むろん気温によっては、眠っていると暑苦しいときもある。
その際はダブルファスナーの一方を開き、腹部から暖気を逃がしてやればよい。このときはフロントにファスナーがあることがむしろ利点になる。
本山小屋を出発しても、雨は続く。
山頂も雨。稜線にはガスが漂い、木々の緑と雪渓の白が織りなす風景もはっきりとは見えがたい。残念だが仕方ない。
しかし、こんな水彩画のような風景も悪くないものだ。ときに明るさを増す時間帯もあり、足元に点在する花々も美しい。
紫色のトリカブトは、僕が好きな花のひとつである。
3泊目は門内小屋のテント場だ。
寝袋をスタッフバッグから取り出すと、すでに1泊目、2泊目の雨と結露でかなり湿っているのがわかる。しかし中綿が湿気に強い化繊だと思えば、それほど嫌な気持ちにならない。実際、寝袋に入って少しすると、暖かなときはすぐにやってくるのだ。
ところで、この寝袋の頭部に付けられたドローコードの留め具は、表面生地の内側に収められ、外からは見えなくなっている。
そのために、寒さを感じて頭部のフードを引絞っても、硬い留め具が寝返りをうったときに顔周りへ直接当たらない。細かいことだが、こういうディテールも気が効いていると思う。
最終日も薄曇りだった。それでも歩いてきた稜線が眺められるのは、うれしいものだ。
この飯豊連峰の取材は、天候という意味では成功したとはいいがたい。しかし雨中で3泊もすることができ、新しい寝袋を充分に試すことができた。
ハイパーラミナスパークは、暖かさが同レベルのダウンの寝袋よりも、いまだ少し重く、かさばる。表面素材の撥水力も強化してほしい。しかし化繊の中綿でも、これほどの軽量コンパクト性を実現しているのは、やはり評価できる。なかなか大したものなのだ。悪天候が見込まれる山行ならば、僕は今後もこの寝袋を積極的に使ってみようと思っている。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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