2人~3人用のクッカーセットを、初冬の御正体山でテスト プリムス/ライテックポットセット1.3L
今月のPICK UP プリムス/ライテックポットセット1.3L [プリムス]
ディテールが洗練されたクッカー。まずは製品細部をチェック
素材は長く使える金属。形状は基本的に円形でシンプル。必要とされる大きさの幅も少ない……。それだからか、なかなか新製品が登場しない山道具のひとつが、クッカーだ。たとえ新製品が生まれても、これまでに見たことがないような斬新なものはほとんどなく、多くの場合は従来のものを洗練していく形である。
今回取り上げるのは、プリムスの「ライテックポットセット1.3L」。同社は以前から「ライテック」シリーズという調理器具のラインナップをもっていたが、これも旧製品からさらにディテールにこだわり、使いやすさをアップさせた新製品である。
1.3Lのクッカーが2つに、湯切り穴つきのリッド(蓋)が1つ、そこにハンドルを1つ加えたものが1セットで、これらを包むスタッフバッグが付属する。総重量は430gだ。
こちらは1.3Lクッカーを2つスタッキングし、リッドをかぶせた状態。
素材はアルミで、サイズはいちばん上の部分の内径が17.0㎝、高さは7.6㎝である。2つのクッカーはまったく同じもので、2~3人分の調理に向いた大きさだ。腐食を防ぐためにハードアノダイズド加工が施されている。
さらにクッカーの内側には、フッ素コーティング加工も。これは焦げ付き防止に効果があり、水分や油もよく弾くため、汁切れがよくなる。
内側には目盛が付けられている。0.5L、1.0Lの位置の2カ所で、それ以上細かく測ることはできないが、およその目安にはなるだろう。
クッカーの底にはとくに変わった加工はなく、ツルっとした質感だ。以前のライテックシリーズのクッカーには、底面に細かな同心円状の溝を加え、熱を効果的にクッカーにまわす工夫がなされていたものもあったが、このモデルからは省かれているようだ。
フチの部分は外側に向かって少しせり出した形状になっている。微妙なラインで厚みも薄く、汁切れのよさを狙った形状だろう。
クッカーのなかにはハンドルがあらかじめ固定してつけられているものも多いが、ライテックポットセット1.3Lはハンドルが分離して付属している。軽量化のために大胆に肉抜きがなされ、動物の骨格のようなルックスだ。だが、手で握ったときに違和感はない。
この手のハンドルはよく見かけるタイプともいえるが、ライテックシリーズには他社にはない工夫もみられる。クッカーを挟む部分に弾力性が高いゴムのような黒い素材の滑り止めが付けられているのだ。クッカーのフッ素コーティングを傷つけない効果もあり、うれしいポイントである。ただ、直火が当たると溶けてしまうだろうから、注意は必要だ。
リッドをかぶせたままハンドルでクッカーを持ち上げられるように、リッドにはハンドルがかかる部分を避けて台形の隙間を設けている。しかし、これはリッドの隙間から熱が逃げる原因ともなり、熱効率よりも利便性を重視したデザインといえそうだ。
リッドには整然と並んだ100以上の湯切り用の小穴もつけられ、パスタなどの調理に有用である。しかし、同様にここから熱が逃げやすい。また、リッドの中央には赤いつまみがある。柔らかな樹脂製でパッキングの際には邪魔にならず、調理中に熱が移ってつかめなくなることもない。
内部が大きな空間になるクッカーは、収納時に内部へ他のものをパッキングすることも多い。そのためにメーカーによっては、ガスカートリッジやバーナーヘッドが入れやすい高さや直径にわざわざデザインしているほどだ。
ライテックポットセット1.3Lも、下の写真の左のように110サイズの小型缶ならばハンドルとともにすっきりと収められる。かなり余裕があるので、短くなるタイプのスプーンやハシなどもいっしょに入れられるはずだ。
それに対し、250サイズのガスカートリッジは……。上の写真の右のように、一見ではきれいに収納できているように感じられる。
しかし、じつはわずか4~5mmほどガスカートリッジが飛び出してしまい、リッドがきれいにかぶさらないのだ。ガスカートリッジの口についているカバーを外しても、それでもリッドは閉められない。もっとも、カバーを外して収納するのは安全性の面で問題があり、お勧めできないのだが。
あと少しだけクッカーの直径を狭くして、代わりに高さを5~6mmほど上げることはできなかったのだろうか? そうすれば、カートリッジを内部に収納できて便利だったはずだ。この点は少し惜しまれる。もちろんこの状況で持ち歩くこともできるだろうが、リッドに余分な圧がかかり、破損しそうである。やはり250サイズのガスカートリッジと使う場合は、別にパッキングするしかないのである。
ともあれ、内部にハンドルを収納し、リッドを閉めてからスタッフバッグに収めてみる。
化学繊維のスタッフバッグは破れにくいリップストップ素材。巾着式で、細いコードはしっかりと絞ることができた。
御正体山の山頂にて。2種類の調理で使い勝手をチェック!
製品チェックを終了し、やっと山を歩き始める。今回向かうのは、丹沢の外れともいうべき道志山塊の御正体山だ。冬季工事のためにクルマが入れたのは鹿留オートキャンプ場の近くまで。はじめは林道を長々と歩いて行き、池ノ平から登り始める。道中にはいくつもの仏像が祭られ、いかにも昔からの信仰を集めた山らしい。
尾根には大木も多い。夏場は木が茂って周囲の景色は楽しめそうもないが、今の初冬の時期はほとんど葉が落ち、解放的で明るい雰囲気になっている。こういう場所を歩くならば、僕はやはり寒い時期のほうが楽しい。
3時間ほどで山頂に到着。寒い時期の平日とあって、他の登山者は誰もいない。おそらく今日は僕の貸し切りだろうと、山頂のテーブルを独占して調理を始めた。今回のメニューは、パスタとレトルトのシチュー。パスタは湯切り穴の具合を確認するためで、シチューはフッ素コーティングの性能を確かめるためである。
しかし、思いのほか風が強く、寒くてかなわない。そこで風を避けられる場所に移動し、改めて調理を始めた。
先に書いたように、リッドにはハンドルでつかむ部分に隙間が空いている。ここから熱が逃げるからか、沸騰するまでには少し時間がかかる気がしないでもない。もちろん冬場の低温や風の影響も大きいので、リッドのせいだけにはできないだろう。
しかし、まったく穴がないリッドだったら、どうなのだろう? また、以前のモデルの底についていた熱効率を上げる同心円状の溝が、このライテックポットセット1.3Lにもついていたらどうだっただろう? そんなことを考えさせられる。
パスタを投入して数分茹で、茹で汁をもう一方のクッカーに捨てる。
今回のパスタは、僕が山中でよく使っている日清フーズの「サラダスパゲッティ」。茹で時間はたった1分半で、極細。それだけに湯切り穴をふさぎやすい形状ではあるが、なんの問題もなく水気はなくなった。湯切り穴の機能はよさそうだ。
パスタはペペロンチーノ風に味付けし、ウインナーを盛り合わせて完成。
1.3Lは一人分の調理には少し大きすぎるが、僕のようにいつも大盛りメシを食いたいような男には、それほど余っているわけではない。いや、やはり少し大きいかな。
すべて食べ終わると、油やトウガラシの破片がクッカーに残った。そこで、ペーパーを取り出してクッカー内部をふき取ってみた。山では水洗いできないことが当たり前なので、いつものようにきれいにしてみるわけである。
軽くふき取っただけなのに、汚れはほとんどなし。このときはクッカーが冷え切っていない段階でふき取り始めたので、油がそれほどべとつかなかったのかもしれないが、いずれにしてもフッ素コーティングの効果は非常に高いことがわかる。
「火にかけすぎた」を想定したテストもクリア!
次にレトルトのシチューをパッケージから絞り出し、直に温めてみる。本当はレトルトではなく、野菜を茹でて本格的に作りたいところだが、今回は手間や寒さを考え、お許しいただきたい。これでも焦げ付きの様子はテストはずなのだ。
さすがお湯とは違い、シチューは粘度が高い。過熱していくとまるで火山の溶岩のようにボコッボコッと沸騰していき、今にも焦げ付きそうだ。
しかし焦げ付く前に沸騰したので、まずはシチューをあらかた食べてしまう。そして、その後に改めて、「火にかけすぎて焦げ付き始めた」という想定のもと、わずかに残したものをさらに過熱していく。
少しすると、シチューが茶色く焦げ付いていく。コーティングが傷んでしまうのではないかと、少しドキドキしながら様子を見ていく。
数分で湯気を通り越して煙のようなものが立ち上がり始めた。それでももう少し待ってみるが、さすがにこれ以上はまずいだろうと火を止める。
さて…。スプーンでシチューをそぎ落としていくと、焦げ付いているように見えたのは、あくまでもシチューのみだとわかる。クッカー自体にはまったく焦げはないのだ。これだけのことをしてもフッ素コーティングはまだ傷んでいないようで、充分に機能を発揮してくれた。
パスタと同じようにペーパーで残りをふき取ってみる。すると、ただでさえ粘度が高いシチューをさらに焦げ付かせたほどなので、さすがに完全にはふき取れない。そこでクッカーを腕で抱え、力いっぱいペーパーで擦るが、やはり最後までクッカー内部にはうっすらと曇りのようなシチューの跡は残った。
だが、これだけきれいになれば、充分だ。コーティングがなされていない一般的なクッカーだったら、ペーパーだけでここまできれいにするのは、まず不可能だろう。これくらいまで汚れがなくなれば、2つのクッカーをスタッキングして持ち運ぶときに、衛生面を気にする必要はあまりない。
言い忘れていたが、クッカーは空焚き厳禁である。フッ素コーティングはとくに弱く、空焚きが続くとコーティングが剥げてしまう。今回はあくまでもテストとして、空焚きに近い状態を短時間続けたが、これ以上のことをするとクッカーがひどく劣化するのは避けられない。やはり調理中は片時も目を離さず、あらかじめ焦げないように作業を進めてほしい。
最後にひとつだけ白状しておこう。シチューをふき取る際に、僕は力を込めてクッカーを押さえつけていたため、じつは形状に歪みを生じさせてしまった……。
柔らかなアルミ製のクッカーは変形しやすいものだが、これは失敗。楕円形になってしまっている。調理を損なうものではなく、改めて力を入れれば円形に戻ったが、取り扱いに注意することに越したことはない。
昼からたっぷりとメシを食った僕は、ゆったりと山を下り始めた。目の前には富士山。五合目よりも上は、もう真っ白だ。
御正体山は谷間や日陰以外は雪が積もっていなかったが、これから真っ白な世界になっていくのだろう。
ライテックポットセット1.3Lの基本性能は、充分なものであった。それでも個人的に引っかかったのは、穴が多くて熱が逃げやすいリッドの形状くらいだ。気温が高い時期は大きな影響はないだろうが、寒い時期は穴が空いていないリッドがほしくなる。それに加え、以前のライテックシリーズのように、底面に溝があったほうがいいかもしれない。熱効率の問題もあるが、地面が斜めになっている場所で使ったときに、バーナーのゴトクの上から滑り落ちる危険が少なくなるからだ。
それ以外は、気になる点はない。なんといっても焦げ付き防止の機能性はすばらしく、調理後の汚れ落としがここまで楽だと、手の込んだものを作るのが面倒ではなくなる。ハンドルも使いやすく、しっかりと握っていればクッカーをひっくり返す心配もない。まったく同じ大きさのクッカーが2つなので、スタッキングしたときにガタつかないのもよい。
ライテックポットセット1.3Lはもともと2~3人向けのクッカーだ。僕は今回、ひとりで使ったが、ソロ用途にもっと小さいサイズがあったらありがたい。いつの日か、1.0Lや0.7Lサイズのものも登場してほしいものだ。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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