静かな奥雲仙の山肌を白く飾るヤマボウシ 九千部岳

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窓越しに雨を見ながら思い浮かべるのは、梅雨の時期に見頃を迎えるヤマボウシです。ヤマボウシはミズキ科の落葉高木で、白い4枚の花びらのように見える総苞が美しく、雲仙・九千部岳や田代原高原一帯に多く見られることで有名です。

山肌に咲くヤマボウシ(写真=池田浩伸)

長崎県の雲仙といえば、日本最初の国定公園に指定され、湯けむり上がる雲仙地獄や避暑地としても知られていますが、賑やかな雲仙の温泉街から北西に離れた静かな場所に、九千部岳(くせんぶだけ)はあります。

登山の基点となる田代原高原は、九千部岳と吾妻岳に囲まれた千々石断層上にできた盆地にあり、一帯は奥雲仙(おくうんぜん)とも呼ばれ春から夏にはヤマツツジ、ミヤマキリシマ、ヤマボウシが咲き、秋は紅葉が見事な自然の宝庫です。

梅雨の晴れ間を狙って、海と山肌を染め上げるヤマボウシの絶景を見に登ってみましょう。6月中旬から7月初旬に見ごろを迎えます。

モデルコース:田代原トレイルセンター~九千部岳~牧場ゲート~田代原トレイルセンター

行程:
【日帰り】田代原トレイルセンター(1時間45分)九千部岳(30分)九州自然歩道分岐(40分)木柵・牧場ゲート(40分)田代原トレイルセンター(計約3時間35分)

⇒九千部岳周辺のコースタイム付き登山地図

田代原トレイルセンターの駐車スペースは、シーズン中には満車になることもあり、できるだけ早く到着する計画をおすすめします。

田代原トレイルセンター(写真=池田浩伸)

トレイルセンター周辺の散策だけでもヤマボウシ鑑賞に満足する眺めですが、多くの人が山頂を目指すのは、登った人だけが見ることのできる絶景があることを知っているからでしょう。

トレイルセンターから県道を進み「九千部岳」の標識から登山道へ入ります。登山道は九州自然歩道に属していて、山頂を経て吹越登山口へと続いています。

しばらくは植林の中の道で、風が通らず蒸し暑さに汗が滲みます。変化に乏しかった道も、ロープのある岩場を過ぎて自然林の急坂を進むと変化が現れ、木の間から北側の吾妻岳の姿が見えてきます。

植林を抜けると登山道に変化が出てきます(写真=池田浩伸)

ヤマボウシやコガクウツギなど白い花の中にピンクのヤマツツジが彩りを添えています。足元には、ギボウシの蕾もあって季節を変えて登ってみたくなる山です。

登山道途中。満開のヤマボウシ(写真=池田浩伸)

「山頂まで500m」の標識を過ぎて山頂の肩のあたりに到着すると、田代原高原から吹き上げる風が心地よく一休み。ここまで来ると「山頂までもうすぐだ!」と思う場所ですが、ここから先が大岩を回り込んだり乗り越えたりの難路に変わります。

稜線の途中には、山頂にも劣らないほどの展望が開ける大きな露岩があります。青い海や山肌を染め上げるヤマボウシには何度訪れても感動します。ここから山頂の岩に立つ人の姿も見えるので、山頂が混雑しているようなら、ここでたっぷりと絶景を堪能しておきましょう。

山頂直下には、「九千部大明神」が祀られていて祈りの山であることに気が付きます。狭い山頂には露岩があり、岩上からは橘湾や島原湾を見下ろし、雲仙普賢、国見、妙見の3岳が間近に迫り、尾根から谷へヤマボウシの花で埋め尽くされています。

山頂直下の露岩でくつろぐ登山者(写真=池田浩伸)

下山は、東へ展望の良い稜線を下ります。九州自然歩道から分かれて、田代原方面へ少し下るとベンチがあります。ここでお昼にする計画を立てると、山頂の混雑を避けて静かで野鳥の声も聞こえる絶好の休憩ポイントです。

ここから先は、参道の趣を残した苔むした石段に変わり、その脇には青や赤紫の色違いのヤマアジサイの花の群生があって楽しみにしている場所です。

九州自然歩道にはヤマアジサイが多い(写真=池田浩伸)

植林の長い下りのあと木柵のある分岐から、新緑を楽しみながらトレイルセンターまでの遊歩道を戻りましょう。

 

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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