身近でジミな隣人の生態を知る 『博士の愛したジミな昆虫』

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評者=多田多恵子(植物生態学)

博士の愛したジミな昆虫

編著:金子修治・鈴木紀之・安田弘法
発行:岩波書店
価格:880円+税円+税

タイトルや表紙や帯のお気楽さにつられて読んでみたら、やさしい語り口でありながら、予想を越えて中身の濃いしっかりした内容の本でした。

愛する虫の生態にエピソードを交えて順に熱く語るのは、野山をフィールドに駆け回る10人の昆虫研究者。登場するのはそこらの「ジミな」虫たち。そのふしぎな生態と謎解きのエピソードが手軽な新書にまとめられています。

一端を紹介すると、クリサキテントウがクリの木にしかいないのは、ほかの木だと雌がナミテントウの雄にちょっかいを出されるから。コナガがアオムシのいるキャベツに産卵するのは、寄生蜂を避けるため。ツバキとシギゾウムシの果てしない軍拡競争は小学生にも読みやすく書かれています。さらにアリ、アブラムシ、モンシロチョウなど、身近な小宇宙の住人の知恵に驚きます。

後半は外来種と生物多様性、そして害虫防除を農薬に依存してきた近代農業の歴史が取り上げられます。過剰な農薬が生態系と人々に与える害を正しく知ってほしいと思います。

虫好きはもちろん、自然好きにも環境問題に関心がある人にもお薦めします。あまり表に出ない研究生活の日常や研究の手法も紹介され、生物系・環境系の大学や大学院への進学を考える学生諸君は大いに参考になるはずです。

山に行けば虫に会います。ただのジミな虫も、この本を読んだ後に見れば、あ、こいつだと、うれしく思えること間違いなし。彼らの存在や行動の理由もつい考えてみたくなるでしょう。山の出会いは一期一会。ジミな虫たちの魅力にぜひ、あなたもハマってください。

山と溪谷2020年7月号より転載)

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