都市縦走事始め 東京都心に残るミニ富士や写真展を結んで歩く 中野・新宿周辺

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

超低山を繋ぎ、街を散策する「都市縦走」の楽しみを紹介します。今回は新宿周辺で成子富士と千駄ヶ谷富士の富士塚の「縦走」をご案内。

都市縦走のススメ

東京都心は真っ平らな土地に高層ビルが建ち並ぶイメージがありますが、実際には微地形などと呼ばれる起伏があり、意外な超低山や緑があちこちにあります。超低山には自然の地形とともに、古墳から大名庭園の築山、富士塚、公園内に造成された丘などもあります。
自然の山の最高峰とされる港区の愛宕山が標高26.7m。それでも「麓」の市街地からの標高差は25mほど。数分で登れてしまいます。しかし、付近の超低山とあわせて、行程を長く、登り下りが大きくなるように、また緑が多いところを歩くように工夫すると存外に楽しめます。意外な歴史を物語る史跡、興味深い見学場所、ランチや休憩によい食事処や喫茶店が随所にあるのもうれしいところです。

小著『東京発 半日ゆるゆる登山』にも、愛宕山をはじめ、山手線内最高峰の新宿区箱根山などを収録しました。たとえば愛宕山は、海に臨む港区で、できるだけ標高差を大きくとりたくて、東京都観光汽船で日の出桟橋に「上陸」。旧芝離宮庭園の大山、芝公園の丸山古墳などを「縦走」して山頂に立ちました。ただ歩くだけで約3時間。あちこち寄り道して、一日楽しめました。

「千駄ヶ谷の富士塚」として東京都の有形民俗文化財に指定されている千駄ヶ谷富士。社務所で登拝記念のご朱印もいただける

都心の超低山は、コースや登山口の制限が少なく、プランは無限大。しかも、地図読み、坂道歩き、路上観察など様々な楽しみもあります。それぞれ、先人たちが優れた業績を残していますが、それらを組み合わせて「縦走」することで、オリジナルな発見やプランがあり、興味が尽きません。私は「都市縦走」と名づけて楽しんでいます。

前置きが長くなりましたが、新宿駅をはさんで残る成子富士と千駄ヶ谷富士の富士塚の「縦走」をご案内します。成子富士は、最も標高が低い最寄りの登山口が神田川の淀橋ですが、直近の駅もバス停もないので、地下鉄の中野坂上駅からスタート。以前から気になっていた八津御嶽神社に参拝して神田川沿いに歩き、淀橋から成子坂を登って成子富士へ。ニコンプラザ新宿のギャラリーで開催中の菊池哲男さんの写真展「天と地の間に~北アルプス 鹿島槍ヶ岳・五竜岳~」を観覧してランチをとり、新宿御苑を散策して、最後に千駄ヶ谷富士を登るプランです。

モデルコース:

行程:
【日帰り】中野坂上駅(15分)八津御嶽神社(25分)成子天神社(20分)新宿駅東口(20分)新宿御苑新宿門(散策含み45分)鳩森八幡神社(5分)千駄ヶ谷駅 計約2時間10分

 

コンクリート造りの都会の神社を参拝し、神田川に架かる「ヨドバシカメラ」由来の橋へ

街なかを歩くとき、とくに坂道では、車が通らず、曲がり角がある道を探します。景色の変化や展望が開けたりして、山歩きに共通する楽しみがあるからです。神田川へ下る途中で、そうした道を2カ所、見つけられて、うれしかったです。

八津御嶽神社はビルの2階に鎮座。ちょうど出て来られた山本行徳宮司が自ら案内してくれました。設計は教会も多く手がける長島孝一氏で、コンクリート造りのモダンなビルの中に木造、伊勢神明造りの本殿を安置。自然光の採光、日本神話のステンドグラスなどのこだわりや工夫、地域の文化や交流のため、毎月、ライブや落語会も開催しているなどのお話に、また訪ねたくなりました。

上から時計回りに、右上にステンドグラスがはめこまれた八津御嶽神社、アニメ「君の名は。」に登場する新宿警察署裏交差点の信号、1924(大正13)年竣工の淀橋親柱

淀橋は、かつては淀橋区や淀橋浄水場、現在ではヨドバシカメラなどの由来となった旧跡です。青梅街道の成子坂を登り、成子天神社の本殿に参拝して、左後方の成子富士へ。富士塚は江戸後期に興隆を極めた民衆信仰の富士講による人工のミニ富士です。成子富士は1920(大正9)年の築造とで高さ約12mの威容を誇り、富士山の溶岩である黒ボク石を積み上げ、登山道を登って登拝できるなど、富士塚の特徴をよく備えています。

成子富士の「山容」。右手に登り口があり、らせん状に登山道やお中道が設けられている

 

写真展に立ち寄り、ベルクでランチ休憩

ニコンプラザの展覧会場では菊池さんから撮影時のエピソードや工夫を聞けました。カメラマンとしての力量も超一流であるうえ、新たな表現や感動を求める感性や努力が素晴らしい作品を生み出す原動力となっていることが実感されました。会期は2020年7月20日(月)まで。付近にはリコー(ペンタックス)やオリンパスのギャラリー、SONPO美術館などもあるので、情報をチェックしておくのもいいでしょう。

時計回りに、菊池哲男さんと今回のテーマ、北アルプス鹿島槍ヶ岳と五竜岳の作品、ベルクのランチセット、ニコンプラザがある新宿エルタワー28階からの展望。東京スカイツリーや新宿御苑も眺められる今回の最高所だが残念ながらエレベーターを利用

ランチは「ビア&カフェ・ベルク」で。「ベルク」はドイツ語で「山」という意味ですが、谷間?のルミネエストの地下1階にあります。ランチメニューのジャーマンブランチをチョイス。ビール、ワインとのセットもありますが「山行中」なので我慢してハーブティーセットに。ハムやパテ、2種類のパンなど本格的な味で、638円。大満足でした。

静かな新宿御苑を散策し、鳩森八幡神社の千駄ヶ谷富士へ

新宿御苑は花が少ない時期の平日で、時折、雨がぱらつく天気などと相まって、人影は数えるほど。野草が咲き、武蔵野の面影がある母と子の森から下ノ池南側の雑木林を中心に歩き、都心と思えない、静かで深々とした森の散策を楽しみました。

新宿御苑母と子の森付近の雑木林、下ノ池のカルガモ親子、林床に群生して花盛りのヤブミョウガ

最後の千駄ヶ谷富士は鳩森八幡神社の境内にあり、高さは約6m、1789(寛政元)年築造という都内最古級の富士塚です。「登山道」は複数ありますが、順路が指定され、各登山道やお中道を一筆書きで一周します。特徴である身禄行者石窟、烏帽子岩、金明水、里宮なども漏れなく回れて、充実感した登高でした。

高温になる夏の都心ですが、緑地では涼しく、登り下りは少ないので大汗をかくこともありません。食事処や見学施設で涼んだり、冷たい飲みものなどが随所で手に入るなど、意外に快適です。足もとの心配も少なく、当日のように雨模様で山行が中止になったとき、家を出るのが遅くなったときなどにも好適。新型コロナウィルス禍で登山がはばかられるときもにも「都市縦走」は向いています。

プロフィール

石丸哲也

東京に生まれ育つ。オールラウンドな登山を経て、山岳ライター、登山・ツアーの講師などとして活動している。
山頂に立つことだけを目的とするのでなく、山を旅する感覚で、登るプロセスや自然にふれることを大切にして山を楽しむことを心がけている。
国内では北海道の利尻山から屋久島の宮之浦岳まで全国の山を登り、海外ではペルーアンデス、ヨーロッパアルプス、北米のヨセミテ、メキシコ、カムチャツカなどの山に足あとを残す。

今がいい山、棚からひとつかみ

山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。

編集部おすすめ記事