このエントリーをはてなブックマークに追加

台風情報は進化している! 秋の登山に役立てたい台風の知識

山の天気を知って安全に登山を楽しもう!
基礎知識 2020年09月04日

登山者にとって、最も気をつけなければならない気象の1つが台風です。台風が発生して日本列島に接近すると、その進路や強さの情報は逐一、発表されていますが、この台風情報は日々進化していること、ご存じでしょうか?

 


暑さ寒さも彼岸まで。暑さが落ち着いてくる9月以降は体を動かしやすくなるうえ、標高の高いところから徐々に葉が色づき空気が澄んで遠くまで見通せるようになるなど、登山が特に楽しい時期になるかと思います。

一方、太平洋高気圧が退くことで日本列島にはたびたび台風が近づくようになります。これまでも台風による遭難事故がたびたび発生し、少なくない方が亡くなっています。今回は、山岳における台風の危険性について解説します。

 

台風接近 山の上では平地以上に風が強くなる

台風は国際宇宙ステーションからでもはっきり観察できる現象で、『超大型』の台風になると半径800キロメートル以上に及ぶ非常に大きな面積の強風域を伴います。一方で、雲の高さは高くても15キロメートル程度しかなく、まるでCDのような立体構造をしています。

CDの中心の穴を台風の「眼」だとすると、最も風雨が強く、厳しい現象が起きやすいのが眼のすぐ外側を取り巻く「アイウォール」と呼ばれる積乱雲の周辺です。中でも台風の進行方向の右半分は危険半円と呼ばれ、左半分に比べると風が強まる傾向があります。


さらに高さ別に風の強さの分布を見ると、平野部などの平地付近よりも上空1500メートルから3000メートル付近のほうが風の強い傾向があります。地表付近では地面との摩擦力が働いて風にブレーキがかかるためです。このことから、日本の一般的な山岳では都市部などの平地以上に山腹や稜線で台風接近時の風が強まると考えられます。

一般に、風速15メートル以上で風に向かって歩きにくくなり、風速20メートルを超えると何かにつかまっていないと立つことさえできなくなります。台風の強風域が平均風速15メートル以上、暴風域では平均風速25メートル以上(それぞれ地上の風速が基準)になりますから、台風接近時の登山がいかに危険かわかるかと思います。

 

温帯低気圧化=衰弱ではない


台風は熱帯の暖かい海域で発生、発達します。北上する台風は日本付近の偏西風が吹く緯度にさしかかると「眼」をはじめとする台風らしい特徴を失っていき、やがて温帯低気圧へと変わります。

台風が温帯低気圧に変わるということは、低気圧として弱くなったことを意味するのでしょうか。それは正しくありません。

台風が温帯低気圧に変わるということは「熱帯低気圧の特徴」が失われて「温帯低気圧の特徴」を持つことであり、強弱の変化とは無関係です。むしろ、温帯低気圧としての特徴である「前線」が発生することで、強い風の吹く範囲が広がったり、再び風が強まったりする場合があります。


また、台風が温帯低気圧化すると低気圧やそれに伴う前線に向かって寒気が流れ込むようになるため、山岳では急激に気温が下がって、初秋であっても急に吹雪となる場合も起こりえます。

上の天気図では、台風から変わった温帯低気圧が急発達し西高東低(冬型)の気圧配置となっています。翌10月31日には甲府で初霜を観測するなど、この日は全国的に冷え、山の上では雪の降ったところもあったのではないかと思われます。台風から変わる温帯低気圧は、山岳の季節を一気に進めるきっかけになることがあるのです。

 

気象庁の台風情報は徐々に進化している


テレビなどの各メディアでは気象予報士が日々天気解説を行っていますが、こと台風に関しては予報をしていいのは気象庁に限るという決まりがあります。

台風は甚大な影響が及ぶ可能性がある現象なので、様々な人が勝手に台風に関する予報を発表して混乱が生じる事態を避けるためです。そのため各メディアでは気象庁が発表する台風情報を発信していますが、実はこの台風情報は気づかれないうちに以前に比べると進化しています。

平成21年にはそれまで3日先までだった進路予想が5日先まで発表されるようになりました。そして平成31年には強度予報と暴風警戒域の予想も5日先まで延長されるようになり、より先の未来の予報を詳細に確認することができるようになっています。

またスーパーコンピュータシステムの計算能力の向上や予報技術の進歩に伴って、台風の進路のブレ幅も小さくなったことから、予報円の大きさも小さくなる傾向です。予報円とは、70パーセントの確率で台風の中心がその中に到達すると予想される範囲のことです。

予報円の大きさが小さくなるということは、進路の予想にぶれが少ないということになり、予想の信頼性が高いことを意味します。このように台風情報は年々進化しており、現在も新しい技術の試行錯誤が続いています。将来はさらに精度の高い情報が発表されることになるかもしれません。

台風情報を上手に使って、この秋も安全な登山を楽しんでほしいと思います。

天気 日本の山
教えてくれた人

宮田雄一朗

日本気象協会所属の気象予報士。山梨県で気象キャスターをしています。天気予報をきちんと伝えられるように奮闘中。日々の天気の話題の中で、登山にちょっと役立つ知識もお届けします。

日本気象協会

日本の気象コンサルティングサービスのパイオニアとして1950年に創立。以来、気象・環境・防災などに関わる調査解析や情報提供を行っている。
近年ではAIやIoT、気象ビッグデータの活用を通じ気象の調査解析、情報提供の精度を向上させ、気候変動への適応など持続可能な世界を実現する活動を支援している。
 ⇒tenki.jp

同じテーマの記事
ウィズコロナで「天気優先」型山登りをするための前夜泊日帰り登山のススメ
新型コロナウィルスに対する人々の不安や経済への懸念は簡単に解消しそうにない中、「コロナと共存する、ウィズコロナ」という考え方の必要性が広がっています。この状況下で、登山を楽しむにはどうしたらいいのでしょうか?
山好きが高じて山梨県で気象キャスターデビュー 新型ウイルスで登れない日々
本コラムでおなじみ、日本気象協会所属の気象予報士、宮田雄一朗はこの春から、山梨県で気象キャスターとして活躍するようになりました。その奮闘の日々と、意気込みを伝えます!
「春山」シーズン突入! 入山しやすくなる残雪期の「雪崩リスク」を考えよう
気象の世界では3~5月までが春。ただ、3月の山では、まだ大量の雪が積もっていて、雪山であることには変わりなく、雪崩のリスクがついてまわる。今回は、登山者を脅かす雪崩のリスクについて解説。
これから冬山登山に挑戦する方へ!安全に楽しむための天気のポイントを解説
冬山の知識はなかなか得ることができない一方で、遭難事件の恐ろしい話はたびたび耳にする。どうすれば雪の積もった山でも安全に登ることができるのか。山好きの気象予報士が、天気に焦点を絞って解説。
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

曇のち雨
明後日

曇一時雨
(日本気象協会提供:2020年9月24日 11時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW 重さを感じず、足が自然と歩きだす! サロモンの新作シューズ
重さを感じず、足が自然と歩きだす! サロモンの新作シューズ 人気トレイルランシューズをトレッキング向けに改良!「クロスハイクミッドゴアテックス」をワンダーフォーゲル編集部がチェック
NEW 秋田白神の森の魅力を満喫するツアー開催
秋田白神の森の魅力を満喫するツアー開催 小林千穂さん、現地ガイドが同行する、世界遺産・秋田白神の魅力を満喫する特別ツアー開催。参加者6名募集!
NEW 山の麓に住む。長野県大町市に移住した家族の物語
山の麓に住む。長野県大町市に移住した家族の物語 山好きが高じて長野県大町市に移住した家族のインタビューを再掲載。オンライン移住相談会や現地見学会も開催!
NEW 紅葉登山シーズン到来! GoTo秋山!
紅葉登山シーズン到来! GoTo秋山! 秋の到来とともに、山は紅葉シーズンの到来となります。最高の紅葉の山を、安全に快適に楽しむ紅葉登山特集!
NEW グレゴリーの「スタウト/アンバー」モニターレポート3人目
グレゴリーの「スタウト/アンバー」モニターレポート3人目 背面長調整&腰回りを包み込むヒップベルトで安定感が抜群! JING-3さんが沼津アルプスで背負って実感
NEW 背面機構が特徴! マムートのバックパック
背面機構が特徴! マムートのバックパック 山岳ライター高橋庄太郎さんの連載「山MONO語り」。久しぶりの山行テストは、独自の背面機構を持つマムートのバックパック!
NEW いつか登りたい名山!笠ヶ岳/黒部五郎岳
いつか登りたい名山!笠ヶ岳/黒部五郎岳 標高差が大きく長時間の登りを要する笠ヶ岳。一日ではたどり着かない秘境・黒部五郎岳。上級編として、2座の魅力を伝えます。
NEW 北アルプス・槍ヶ岳をめざす主要ルート5選
北アルプス・槍ヶ岳をめざす主要ルート5選 槍沢、表銀座、裏銀座、大キレット、飛騨沢。登山者の憧れ、槍ヶ岳をめざす主要ルートを紹介します。
おとな女子登山部によるリレー連載
おとな女子登山部によるリレー連載 好日山荘女性スタッフ有志による「おとな女子登山部」のリレー連載。メンバーの経験に基づくノウハウが満載!
紅葉の始まりは「草紅葉」から
紅葉の始まりは「草紅葉」から 秋風に揺れる黄金の草木を満喫する山旅へ。草紅葉が美しい湿原を歩くコースを行く6コースを紹介します。
山のテッペンで泊まる醍醐味を味わう
山のテッペンで泊まる醍醐味を味わう 山頂からの星空、日の出、日没を味わいたいなら、山頂に泊まるのがいちばん! 山頂に泊まれる山をピックアップ!
山で便利・安心! 登山用アプリ&GPS
山で便利・安心! 登山用アプリ&GPS スマートフォンの普及で高価で手の届かなかったGPS機器が誰でも使える! 初心者向けのノウハウから裏技まで、登山アプリとス...