山旅をZINEにしよう![4]北アルプス・薬師岳編

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こんにちは。フリーランス編集者の小野泰子です。仕事だけでなく、プライベートでもZINE(ジン/小冊子)を作っている、根っからの雑誌好きです。山や旅、そして日常で気になったことを拾い上げ、紙に落とし込んで一冊にまとめる作業を長年楽しんでいます。

この連載では、山旅がより思い出深いものになるZINE作りを提案したいと思います。毎回、私が出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介。第4回目は北アルプス・薬師岳編です。

2020年夏も取材で出かけた先々で、山小屋のお世話になりました。withコロナ時代にあって、山小屋の存在意義を痛烈に感じた、そんなひと夏でした。同時に10年前の記憶がフラッシュバック。北アルプスの太郎平小屋で山小屋バイトをした日々のことが、まざまざとよみがえりました。一度は当時のことをZINEにまとめて発表しましたが、今回は別のテーマで ZINEを仕立ててみることにしました。

 

Contents

●太郎平小屋と、以前のZINEについて

●使った材料

●作り方
 1_テーマ・タイトルを決める
 2_仕様を考える
 3_版下を作る
 4_印刷・製本する

●最後に

 

太郎平小屋と、以前のZINEについて

10年前の夏、1か月を過ごした太郎平小屋。中規模の山小屋で、北アルプスの深部への分岐点である、太郎兵衛平(標高2330m)に建っています。すぐ北には秀麗な姿の薬師岳(標高2926m)がそびえ、東に目を向けると鷲羽岳や三俣蓮華岳といった「裏銀座」の稜線が眺望できる、そんなすばらしいロケーションです。

下山後に作ったZINEのテーマは「朝もや」でした。一日のなかでも、とくに好きだったのは朝の時間帯。ピーカン時のくっきりとした景色もよいけれど、もやのなかにぼんやりと浮かび上がる情景に心惹かれたのです。『in the morning haze(イン・ザ・モーニング・ヘイズ)/朝もやの中で・・・』と題した一冊は、全国のZINEを紹介する石川理恵さんの著書『自由に遊ぶ、DIYの本づくり』(グラフィック社刊)に取り上げてもらいました。

以前、作ったZINE。本体は素朴なわら半紙。クラフト紙のカバーを付けた

 

使った材料

・A4の紙3枚(1冊につき)
・ペン
・はさみ
・カッター
・カッターマット
・定規
・のり

1冊につき、使う紙は台紙用、写真出力用、製本用の3枚。すべて同じものでOK

 

作り方

1 テーマ・タイトルを決める

今回のZINEは、題材こそ以前の『in the morning haze』と同じく「太郎平小屋」ですが、テーマを「日々のささいなこと」にしました。早朝4時ごろに目覚め、夜9時に眠りにつく長い一日。そのなかに、調理や清掃、接客に従事するON(オン)の時間と、周辺を散策するなど自由に過ごすOFF(オフ)の時間が入り混じっています。

オンタイムでは繁忙期の朝食準備が忘れられません。まだ闇夜に星がまたたく午前3時半にもぞもぞと寝床を抜け出し、厨房へ。発電機のスイッチを入れる前なので、スタッフはヘッドライトで手元を照らし、200近いプレートにおかずを盛り付けるのです。黙々、黙々。まだ眠いながらも、この時間のこの作業が好きでした。

オフタイムにはよく、歩いて5分の太郎山(標高2373m)へ。正面に薬師岳を眺めながら、ひと息ついていました。また、休日の思い出といえば、沢登りが真っ先に思い浮かびます。夏の忙しさがひと段落し、秋の足音が聞こえ始めたころ、黒部川源流域の沢に連れていってもらったのです。水しぶきを浴びながら岩を登ることの楽しさを、初めて知ることになりました。

こういった記憶をすくい上げ、オンタイム編とオフタイム編の2冊を作ることに。タイトルは『ハナコな日々』。当時、バイトの女子部屋はハナコ、男子部屋はタロウと呼ばれていました。ハナコで過ごした山ごもりの日々を、改めてZINEのなかで振り返りたいと思います。

太郎山は格好の休憩場所だった。薬師岳と太郎平小屋が望める

 

2 仕様を考える

今回は、たった1枚の紙をじゃばらの折り本に変身させることに。切り込みを入れたり、折り目を付けたりするだけで、簡単に16ページの冊子ができ上がるから驚きです。

1ページ目は表紙、16ページ目は裏表紙になります。その間の14ページにエピソードを展開します。向かい合った左右2ページに、1つのエピソードを入れるとわかりやすいので、7つのエピソードを用意しました。

10年前の思い出と向き合うという意味でも、いつも以上にアナログ感が漂う誌面にしたいなと思いました。そこで版下をパソコンで作るのではなく、手作業で行なうことに。台紙に写真を切り貼りし、手書きで文字を添えていくのです。これをコピーし、必要箇所に切れ目と折り目を入れ、畳んでいけば完成です。

ページをふった展開図。山折り部分は赤線、谷折り部分は緑線で示した。切り込みは3か所

 

3 版下を作る

すべての写真を掲載するサイズで、写真出力用の紙にまとめてプリントします。続いて、はさみやカッターでラフに切り取り、台紙に貼り付けを。文字入れは好みのペンでどうぞ。あらかじめ目安として、台紙に16等分の折り目を付けておくと、1ページの範囲がわかり、作業しやすいでしょう。

注意したいのはページにより、天地が逆になる点です。前出の展開図にある数字の向きに合せてくださいね。この展開図では左開きの本ができます。

ちなみに、表紙写真に選んだのは、ハナコに掛かっていたエスニック柄のカーテンです。

ページごとの天地を間違えないよう、写真を切り貼りした台紙。左がオンタイム編、右がオフタイム編

 

4 印刷・製本する

台紙を製本用の紙に印刷します。写真は印刷に次ぐ印刷で、ぼんやりとした感じになるのですが、どうとらえるかは作り手次第。私はこれを味と思っています。

ここからは製本作業です。前出の展開図のとおり、3か所にカッターで切れ目を入れます。山折り、谷折りをしながら、ページ順になるよう、紙を畳んでいきます。

最後に16ページ目(裏表紙)と15ページ目の裏面同士をのりづけし、完成! 16ページ目は背(マチ)を巻く分、寸足らずになります。

のりづけすると、16ページ目(裏表紙)は15ページ目よりも5mmほど内側に

 

最後に

いかがでしたか? 今回はA4の紙を切ったり、折ったりして、16ページの豆本に仕上げました。アナログ感のある作り方も楽しんでもらえるとうれしいです。

 

 

 

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

山の「記憶」を「記録」に

山旅がより思い出深いものになるZINE作り。フリーランス編集者・小野泰子さんが出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介します。

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