山旅をZINEにしよう! [6] 北アルプス・穂高岳編

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こんにちは。フリーランス編集者の小野泰子です。仕事だけでなく、プライベートでもZINE(ジン/小冊子)を作っている、根っからの雑誌好きです。山や旅、そして日常で気になったことを拾い上げ、紙に落とし込んで一冊にまとめる作業を長年楽しんでいます。

この連載では、山旅がより思い出深いものになるZINE作りを提案したいと思います。毎回、私が出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介。第6回目は北アルプス・穂高岳編です。

前回の槍ヶ岳編同様、マッチ箱が「記憶の呼び水」になりました。今回は東京・お茶の水にある「喫茶穂高」のものです。これを手にすると、下山時に苦戦した奥穂高岳をはじめ、北穂高岳、西穂高岳、前穂高岳など、これまでに登った穂高連峰でのシーンがふっとよみがえります。今回は、自分自身のひと区切りとなるこのタイミングで、思い出いっぱいの穂高をクローズアップする“山ZINE”を作ってみたくなりました。

Contents

●穂高岳の山旅について

●使った材料

●作り方
 1_テーマとタイトルを決める
 2_見せ方を考える
 3_仕様を考える
 4_レイアウトする
 5_印刷・製本する

●最後に

 

穂高岳の山旅について

穂高の峰々には20代半ばで出合いました。ともに山行を重ねた親友Nと、涸沢から登頂した夏の北穂高岳が「はじめまして!」の穂高です。その足で涸沢岳を越え、白出のコルからザイテングラートを下りたかったのですが、当時は涸沢岳の難所を突破する技量がなく、南稜をピストンで涸沢へと下りました。

翌年、山のF師匠と3人で残雪期の奥穂高岳へ。無事ピークを踏んだものの、雪の斜面に慣れているとは言いがたい私とNは、白出のコルからの下山ですっかり腰が引けてしまいました。すり鉢状になった涸沢カールに吸い込まれていきそうで、前向きで下るなんて無理! 後ろ向きの態勢で、慎重に脚を下ろしていったのです。

私以上にNがびびり、雪面にアイゼンをガシガシ蹴り込むものだから、先行する私の頭に雪がパラパラ落ちてきて。よっぽどインパクトが強かったのか、穂高といえばいつまでたってもこのシーンが真っ先に脳裏をよぎります(笑)

仕事で山と関わるようになり、ひと夏に2度、奥穂高岳に登る年がありました。それも2年。縁があるのかなぁ、なんて思ってしまいます。いつしか涸沢岳の難所もこなせるようになり、重太郎新道からの前穂高岳や、西穂高岳からのジャンダルムのルートも歩き通せるようになっていました。

そして、自分のレベルの指標にいつも穂高があったのだと気づきました。このような山との関係性をもてたことはありがたいとしか言いようがありません。

 

(中央)白出のコルから涸沢に下り、ひと安堵。F師匠が撮ってくれた一枚

 

使った材料

・マッチ箱
・コピー用紙程度の厚みの紙
・カッター
・カッターマット
・定規
・のり

 

ベージュ系のレトロなかんじの紙を使った

 

作り方

1_テーマとタイトルを決める

私にとって穂高といえば、穂高岳のほかに喫茶穂高もまた、思い出深いスポットです。都会の真ん中にありながら、どこか山小屋のような雰囲気。店が禁煙体制になってから、4年前に初めて足を踏み入れました。一人で落ち着いて過ごせる空間が気に入り、訪れるようになったのです。

ここでのお楽しみの一つが「畦地梅太郎の壁」。店内奥、窓際の白壁を勝手にそう名付けました。畦地作品の指定席で、ひと月ごとに版画が架け替えられるからです。初夏には水芭蕉がモチーフの『湿原の花』、秋には紅葉真っ盛りの『焼岳』、冬には山男とライチョウが出くわす『冬山』といった具合に。山に行けない時期も山を感じたり、過去の山行を思い返したりできる、そんなスペースでした。

上京後の数少ない行きつけの店でしたが、今後はやや足が遠のくでしょう。次なる拠点が東京を離れ、より穂高岳に近いエリアになったからです。

今回は、穂高と聞いて連想する穂高岳と喫茶穂高、2か所の思い出を一冊のZINEに落とし込もうと思いました。タイトルは反復による強調で、『山の穂高 街の穂高』にしました。

 

JR御茶ノ水駅前にある喫茶穂高。昭和レトロなたたずまい

 

2_見せ方を考える

喫茶穂高には喫煙時代の名残りのマッチ箱があります。そこにはオーナーと生前に親交があり、随筆家や画家などさまざまな顔をもつ串田孫一さんによる線画が。象形文字を思わせるシンプルで味わい深い登山者の姿です。

ある日、店に置かれた串田さん特集の雑誌を熱心に読んでいたところ、そのようすに気づいたオーナーの娘さんが会計時にレジの奥から出してくれたのです。

今でいうところのコラボグッズ。山好きにとってうれしい一品です。またしてもマッチ箱を活用し、ここにおさまる小さなZINEを作ることにしました。

 

わずかな線にもかかわらず、帽子をかぶり、ピッケルを手にした登山者だとわかる

 

3_仕様を考える

じゃばら式のZINEにします。面の数は、文章を書きたいだけ、写真を入れたいだけ、増やしていけばOKです。面のサイズはマッチ箱よりひとまわり小さくします。

 

4_レイアウトする

今回は本文を縦書きにするので、右開きのZINEにします。パソコンを使い、文書作成ソフト(Word)でレイアウトしました。

 

普段、使いなれているソフトを活用し、シンプルにレイアウト

 

5_印刷・製本する

じゃばらに折り重ねたとき、箱におさまりのよい、コピー用紙程度の厚みの紙に印刷しました。今回は15面あり、紙のサイズの関係で前半と後半にわけて印刷。それぞれカッターで切り取ったらじゃばらに折り、紙のつなぎ目をのりづけしました。

 

のりしろを作り、前半と後半のつなぎ目をのりづけ

 

第1面は表紙になり、タイトルを入れています。この第1面の裏と、隣の第2面の裏をのりづけし、厚みをもたせます。

 

第1面の裏と、隣の第2面の裏をのりづけ

 

最後の面の裏を、マッチ箱の内部の底にのりづけしてできあがりです。

 

マッチ箱とZINEをのりづけし、一体化

 

最後に

いかがでしたか? 前回と同じくマッチ箱を使いましたが、また違うZINEの形を楽しんでもらえたらうれしいです。今後も魅力的な山のマッチ箱を発見したら、第3弾を作ってみたいと思っています。

 

 

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

山の「記憶」を「記録」に

山旅がより思い出深いものになるZINE作り。フリーランス編集者・小野泰子さんが出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介します。

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