山旅をZINEにしよう![5]北アルプス・槍ヶ岳編

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こんにちは。フリーランス編集者の小野泰子です。仕事だけでなく、プライベートでもZINE(ジン/小冊子)を作っている、根っからの雑誌好きです。山や旅、そして日常で気になったことを拾い上げ、紙に落とし込んで一冊にまとめる作業を長年楽しんでいます。

この連載では、山旅がより思い出深いものになるZINE作りを提案したいと思います。毎回、私が出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介。第5回目は北アルプス・槍ヶ岳編です。

2021年春に出された、3度目の緊急事態宣言。おでかけがままならない状況下、かつての写真を整理していました。私が山を始めたころはプリント写真が主流。懐かしさに浸りながら一枚一枚見返していると、槍ヶ岳に初登頂しながらも、なんとも複雑な表情をした18年前の自分に再会しました。今回は、当時の心情にフォーカスしながら“山ZINE”を作ってみることにしました。

 

Contents

●槍ヶ岳の山旅について

●使った材料

●作り方
 1_テーマとタイトルを決める
 2_見せ方を考える
 3_仕様を考える
 4_製本する

●最後に

 

槍ヶ岳の山旅について

じつは、槍ヶ岳に初登頂する1年半前に左脚の手術をしました。術後はリハビリ、リハビリの辛い日々。そんななか、かつて奥穂高岳や北穂高岳に登った際にいつも視界の先にあった槍ヶ岳のトンガリピークを思い浮かべ、「脚が治ったら必ず行こう!」と。 この目標がリハビリのモチベーションになりました。

こうして、日常の歩行からハイキング、低山へと徐々に感覚を取り戻し、高山帯の登山レベルに復帰することができた夏。憧れの槍へは、通称「表銀座」をルートに選びました。中房(なかぶさ)温泉から入山し、燕岳(つばくろだけ)に立ち寄ったのち、槍を眺めながら稜線を歩き、じわりじわりとその頂に近づいていったのです。

この山旅もまた、同時に山を始めたNと一緒でした。術前、術後も寄り添ってくれた親友です。2人で楽しく表銀座を歩き通し、たどり着いた槍ヶ岳山荘。ひと息つき、さぁ、いよいよ槍の頂へというタイミングで喧嘩してしまいました。それも取るに足らない理由で。槍を目前にし、やけにハイテンションな私に、「山を下りるまでが登山だから(気を引き締めて)」とN。正論に違いないのですが、私はムッとしてしまったのです。Nにも同じようなテンションを期待していたから……。

そんなこんなで、ふてくされた私は、Nと口をきかないまま、槍の穂先へ。夏のハイシーズンで、登山者で混み合う山頂。いつもなら2人並び、記念写真におさまっているのに、この時ばかりは1人ずつ、写真を撮り合いました。それがこの1枚。内心は槍に立てた喜びに満ちあふれているというのに、カメラを構えるNの前でさらけ出すのが気恥ずかしく、中途半端な表情になっていました。

 

(中央)念願の槍に来たのに喜びを表に出せず、微妙な顔つきをしている自分

 

Nとの喧嘩、ましてや山でなんて、このとき限り。槍ヶ岳山荘に1泊し、槍沢から横尾、上高地へと下山するにつれ、いつも通りの2人に戻っていきました。思い返した今、随分子どもじみていたなぁとしか言葉がありません。

 

使った材料

・マッチ箱
・台紙
・台紙より薄手の紙
・ペン
・カッター
・カッターマット
・定規
・のり

台紙(ベージュ)よりも薄手の紙(白)に写真を印刷する

 

作り方

1_テーマとタイトルを決める

「槍ヶ岳の山旅について」でふれましたが、親友Nと喧嘩した若き日の私がテーマです。一度ふてくされると気持ちの切り替えができず、美しい山岳風景のなかで似つかわしくない表情……。そんな情けない過去の自分をあえて取り上げることにしました。

タイトルは『あの夏の槍』。現在までに槍ヶ岳は3度登りましたが、あの夏以上に甘酸っぱい槍の思い出はなく、今後もきっとなかろうと思います。

 

2_見せ方を考える

長きにわたり、槍ヶ岳山荘の売店にはオリジナルのマッチが並んでいます。暖色系と寒色系の2種類があり、どちらも両面に異なるビューポイントからとらえた槍をデザイン。18年前、確か1箱10円で買ったマッチ。2年前に訪れた際には30円で売られていました。同様に購入し、現在は1箱を使い切り、空箱をそのまま手元に残しています。Nとの思い出の山行をZINEにし、この中に納めてみようと思いつきました。

 

槍ヶ岳山荘のマッチ。箱の裏面は表面(トップ画像)とは異なるデザイン

 

3_仕様を考える

マッチ箱のサイズより、ひとまわり小さいZINEを作ります。巻き三つ折りの変形で、反時計回りにパタパタ開いていく仕様に。5面構成で、台紙を開きながら時系列で山行のようすが追えるよう、1面に1点ずつ写真を貼っていきます。

 

5面構成の台紙。次の作業で1から5の順に時系列で写真を貼っていく

 

4_製本する

台紙の面のサイズに合わせ、プリント写真を薄手の紙に縮小印刷します。切り取って台紙に貼り付け、台紙の空きスペースにキャプションを手書きします。

 

短いけれど、ストレートな気持ちを空きスペースに書き込む

 

台紙の1の面の裏側にタイトルを入れます。今回は薄手の紙に印刷し、切り貼り。最後に台紙を折り畳み、マッチ箱にセットすれば完成です。

 

マッチ箱に収まる小さなZINEのできあがり

 

最後に

いかがでしたか? 今回はマッチ箱を使い、ひと味違ったZINEにトライしてみました。何かしら、山行と関連のあるモノと組み合わせると、よりオリジナリティあふれる一冊が仕上がるのではないでしょうか。

 

 

 

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

山の「記憶」を「記録」に

山旅がより思い出深いものになるZINE作り。フリーランス編集者・小野泰子さんが出かけた山を題材に、自由自在なZINEの世界をご紹介します。

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