フィギュアスケートの選手が、「高速スピン」をできるワケ

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身近な暮らしのシーンから宇宙の成り立ちまで、「それはどうしてそうなっているのか?」を解き明かしてくれるのが、物理学。なかでも重要な50の原理・法則を、「発見のきっかけ!」「原理を知る!」「こんなふうに役立っている!」の3ステップで楽しく理解できる『始まりから知ると面白い物理学の授業〜世界は物理法則で成り立っている〜』(左巻健男/編著)が発刊された。物理に苦手意識がある人、学生時代に学んだけれど今はほとんど忘れてしまった人にもおすすめの一冊、その内容の一部を紹介。

スケートや体操の回転のしくみ

羽生結弦選手の演技を思い描いてみてください。

フィギュアスケートでは華麗なスピンが見られますが、回転途中で広げていた手を縮めると回転の速さが増し、再び手を伸ばすと回転はゆっくりになります。

また、体操競技においては、一般に「体の大きい選手が不利なことが多い」と言われています。オリンピックで金メダル3個を獲得した内村航平選手も、身長が高いほうではありませんね。これはどういうことでしょうか。

これらの謎を明らかにしてくれるのが、角運動量保存則です。

角運動量保存則とは、回転する物体の半径を変えると、回転するもののスピードが遅くなったり、速くなったりすることです。運動する物体の質量が変わらなければ、角運動量保存則は「半径×速さ=一定」と示せます。この現象は日常生活でも、いろいろ目にしたり体験したりすることができます。

回転いすに座っていすを勢いよく回転させ、手や足を大きく広げてみます。すると、回転のスピードが落ちることが体感できます。

次に伸ばした手や足を体に引き寄せてみましょう。今度は回転がみるみる速くなることがわかります。この場合、角運動量保存則は「半径×速さ=一定」ですから、

手や足が体に近い → 回転半径が小さい → 回転が速くなる

手や足が体から遠い → 回転半径が大きい → 回転が遅くなる

と説明できます。

体操で空中回転することを考えた場合、体が大きいということは、重量のある頭や足などの回転半径が大きくなってしまうことを意味します。したがって、角運動量保存則により、必然的・物理的に回転しにくいということになります。つまり、体が大きいと、角運動量保存則により回転スピードが落ちてしまうという物理的な制約があるというわけですね。

こういったことは、体操の回転技において顕著にその違いを見ることができます。

例えば「スワン」と呼ばれる技は、体を真っ直ぐに伸ばして(伸身)空中回転する技で、比較的ゆっくりと優雅に回転する印象です。それとは対照的に、3回宙返りなど回転の速さを求められる技では、足を抱え込むことで回転半径を小さくして回転の速さを増しています。

体の伸ばし具合で回転速度を変える(図版/宇田川由美子)

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