みかん畑、富士山&駿河湾の展望、旧東海道の町並み――、「静岡らしさ」がぎっしり詰まった浜石岳
今の時期は寒いだけではなく、日が短いので行動時間も少ない。雪の上を歩く可能性もある冬は登山はお休み、という人は少なくない。しかし、冬の時期でも、都内近郊でもポカポカとした陽気に包まれた山もある。静岡県にある浜石岳は、冬の時期こそオススメの山だ。
静岡の名産といえば、お茶を思い浮かべる方も多いはず。でも実はみかんだって自慢の名産なのです。静岡、和歌山、愛媛の三県は、生産量トップのしのぎを削り、我こそはみかん県だ、と誇りに思っているとかいないとか・・・。
なにはともあれ、みかんがおいしいこの季節に、是非おすすめの山があります。登山道はみかん畑を縫って進み、ふと振り返れば、みかんの木々越しに駿河湾、さらには富士山を大迫力で拝む、おまけに旧東海道の町の雰囲気も感じられる、そんな静岡らしさがぎっしり詰まった山、浜石岳をご紹介します。
登山の始まりは、由比駅。ルート上にはしばらくトイレはないので、電車利用の場合は、駅構内でトイレを済ませておきましょう。出発からしばらくは町中歩きですが、標識が整備されているので、不安なく歩けるでしょう。
広い山頂から富士山の勇姿と駿河湾を俯瞰する
由比駅を離れて、新幹線の線路を越える跨線橋を渡ると、徐々に民家も少なくなり、みかんの木々が目立つようになります。車道はだんだんと細く急になりますが、農作業の車両などの往来もありますので、注意しながら進みましょう。
収穫期には、農家の方々が作業をしているので、挨拶をしながら歩くと良いと思います。由比の方々はとても気さくに挨拶を返してくれるので、気持ちも弾みます。車道ながらも急な登りに疲れた頃、休憩にぴったりな見晴らしベンチがあるので、ひとやすみ。みかん畑を過ぎ、針葉樹林の森に入ってしばらくすると、水洗トイレが現れますので、利用すると良いでしょう。なお登山道上には、山頂直下にも仮設トイレがあり安心です。
車道を進んでいくと、数十台は停められる、広々とした登山者駐車場に到着。ここからルートは、森の中を歩く三本松ルートに分かれていますが、今回は東海道自然バイパスコースと名付けられた道を行くことにします。山頂直下までは舗装路が続きますが、土の上を歩くのは後半の楽しみに取っておくことにしましょう。
浜石野外活動センターとの分岐を右方向へ。少し下っているように見えますが、こちらで間違いありません。舗装路は、大きな鉄塔、浜石無線中継所まで。そこから標識に従って、2分ほどの登り。急登を登りきると、突然視界が開けて、浜石岳山頂へ到着です。
待ち構えていたのは、圧倒的な存在感で鎮座する富士山、360°の大パノラマ、美しい色合いの駿河湾、その向こうに伊豆半島・・・。なんとも贅沢な眺めの数々です。山頂は広く開けていて、芝地になっているので、好きな場所で腰を下ろして、ゆっくりと存分に眺めを楽しむことができます。
ちなみに、私はあまりの眺めの良さと居心地の良さに、うっかり長居しすぎてしまいました。最高の景色に、ランチもはかどり、おやつも進み、気が付けばギリギリの時間に。重たいおなかをさすりながら、日没になっちゃったらどうしよう、と心配しながらの下山となってしまいました。もっといたい!という誘惑に打ち勝てる気持ちの強さと、時間管理能力が試される・・・かもしれません。
眺めを堪能したら、薩埵(さった)峠を目指して下ります。ようやく登山らしい道のお出ましです。整備された道で標識もたくさんありますが、細かい分岐がたくさん出てきます。道を間違いないように、都度地図を見て確認しながら下ることを勧めます。とくに、電波塔整備のための小道と何度か合流しますので、間違えないよう注意しましょう。
また、ところどころ急な下りだったり、木の根が張る道だったり、気を抜くことはできません。下山中に眺望はあまりなく、少し退屈するかもしれませんが、針葉樹林の森が竹林に変わり、農作業小屋の跡など、生活の気配が感じられるようになれば、薩埵(さった)峠まではあと少し。車道に出たら道標に従って、薩埵峠まで進みます。
薩埵峠からは、歌川広重の東海道五捨三次にも描かれた眺めが待っています。駐車場から脇の階段を下り、数分遊歩道を静岡方面に進んだところに展望台があり、そこから同じ構図の眺めを感じることができます。
ここからは由比駅へと下っていきます。歩く道は旧東海道。街並みに、かつての時代の名残を感じます。旬の時期には、みかんの無人販売もたくさん。無事に駅まで歩き通したら、由比の名物、桜えび料理も是非頂いてみてください。

藤巻なつ実
静岡県出身。山好きの父親と共に、幼少の頃から登山、アウトドアに親しむ。
長野県白馬村で登山ガイドとしてのキャリアを始め、グリーンシーズンの北アルプスを中心にガイドを行う。
その後、ニュージーランドの様々なトレイルで経験を積み、帰国後、Adore Outdoorを設立。現在は静岡県を拠点に活動中。日本の自然の魅力を、世界に発信しようと日々取り組んでいる。







