「関わり」から考える人生論 『そこにある山 結婚と冒険について』
評者=服部小雪(イラストレーター)
見た目はちょっぴりおっかない角幡唯介氏だが、著書を読むたびに、繊細で人間的な一面に触れ、心を動かされてきた。新刊『そこにある山』のなかで、角幡氏は揺らぐ存在である自分自身を哲学的に考察している。
角幡氏は、妻や極地の存在を「事態」と表現する。他に選択の余地がないのだから巻き込まれていくしかない、そこに生きることの本質を見いだす。「事態」とセットで本書のテーマとなっている「関与」をめぐる話では、カーナビを例に挙げ、文明の機器によって現代人はものごとに関与する機会を失われたと指摘する。地図を片手に自分の足で旅をすると、名もない丘の存在さえ、特別のものになる。体を使い、関係を構築することで、人は「世界のなかにがっちり組み込まれて」いく。誰もが経験のあることだ。しかし体験がその人の言葉を生み、人生を作りあげていくと考えると、恐ろしくもある。
冒険家は、側から見ていると突拍子もないことを考えつくように見えることがある。しかし「思いつきにはそれを思いつかせるに足るその人の歴史の全過程が凝縮しているため、ひとたび思いついたら最後、それをやるよりほかない」のだと、角幡氏は言う。私はアレコレ思いついては家族を巻き込む、同じく冒険家の夫のことを、あっさりとあきらめる心持ちになった。
結婚は冒険の足かせになる、という世間の勝手なイメージに抵抗して、常に本質を見つめ、考えを文字に置き換えるという作業は、内的な冒険ともいえるだろう。角幡氏が今、人生の充実期にあり、ようやく真の自由を得たと語っていることに、私は感銘を受けた。
(山と溪谷2021年1月号より転載)
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