禁煙とされていない山での喫煙マナー、どう考えますか?

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登山歴30年50代男性さんからの質問!

質問:低山の山頂でタバコを吸っている登山者を見かけます。タバコを吸わない私にとっては不快で仕方ありません。ひどいときは灰皿を持たず山頂の人ごみの中で吸っている人もいます。そういうときは、やめていただくようにお願いをするのですが、口論になった経験もあります。
山での喫煙マナーは下界よりかなり遅れているような気がします。禁煙とされていない山での喫煙、どう考えていますか? 

 

山でも、街でも、タバコに対する視線は厳しさを増しています。30年ほど前までは、オフィスでも咥えタバコをしながら仕事をする同僚など、いくらでもいましたが、今はそんなことは絶対にダメ。それどころか、ビル自体も禁煙になり、「しょうがないから、昼休みに道路で・・・」なんて言ったら条例で、科料でも課せられそうな世の中です。

僕が登山を始めた1960年代、登山者の喫煙率は非常に高かったです。タバコのほかにパイプも流行っていて、山を見上げながらパイプを咥える写真が雑誌『山と溪谷』にも出ていました。当時、山に向かう重要な手段だった夜行列車の中では、タバコの煙で霞がかかったようになっていたのを忘れません。

雑誌『山と溪谷』創刊1000号記念号に掲載された404号(1972年5月号)の表紙

僕のタバコ遍歴と考え

若いとき、僕もタバコにはまっていました。長期の登山にでるときは、下山までのタバコの本数を計算するほどでした。でも26歳のとき、仕事のストレスから十二指腸潰瘍になり、タバコが酷くこの病気に良くないように感じました。流れてくる煙だけで、胃のあたりがキリキリと痛くなる。ついには、タバコの箱を見るだけで胃が痛む。意外と簡単にやめました。タバコを吸わなくなると食事が美味しくなり、体重が一割増えたのを覚えています。

登山とタバコの関係では、呼吸器を激しく使う登山行為にタバコは悪影響があるのは当たり前、タバコの不始末による山火事など、悪いことはいくらでも挙げられます。それに非喫煙者が、これだけ増え、副流煙による健康被害が問われだすと「僕の身体に悪くても、僕の問題だから文句言わないで!」と言いにくい情況です。今、ほとんどの山小屋は小屋の中では禁煙だし、歩行中の喫煙もダメです。喫煙者は、どんどん肩身が狭くなっている状態です。

僕のタバコに対する今の気持ちを言うと、都会など空気の悪い所でタバコの臭いをかがされると不愉快です。食事中は、もちろん、嫌です。ただ、それが空気の綺麗な山の中では、感じないのが不思議です。野宿をともなう沢登りで、焚火の煙と共に流れてくるタバコの臭いなどは、あまり悪くは感じません。でも、タバコ嫌いな仲間がいるときは、離れて吸うようにお願いしています。もちろん・・・テントの中では絶対に禁煙です。

明神ヶ岳山頂から富士を眺める

休憩を兼ねて、思い思いに時間を楽しみたい山頂

山が好きな者同士、相手のことも考えて

50代男性さんは、現在では多数派になっているタバコ嫌いであると同時に、山での喫煙マナーが下界より、かなり遅れていると感じているようです。タバコを吸う人は「山は禁煙じゃないんだから、いいじゃないか!」という意識を、この際、変える必要がありそうです。山で喫煙する人は、近くでタバコを吸われるのを嫌がる人がいること、それも日々、その比率が増え大多数になっていることを理解する必要があります。人が集まりやすい山頂では特に、街同様の気を使うべきだと思います。少なくともタバコの臭いが伝わるような場所では吸わない、もし、可能なら人から見える所で吸わないくらいの配慮をするべきです。

50代男性さんは「口論になった経験がある」そうですが、せっかくの登山が嫌な気分になってしまっては残念ですね。注意するのも楽しいものではありません。「私は、タバコ苦手なんで・・・」と穏やかに気持ちを伝えて、「あっ! 気が付きませんでした。すみません」と、山が好きな者同士、お互い配慮のあるやり取りを期待したいです。タバコは禁止薬物ではなく、一般的な嗜好品です。広大に広がる山を禁煙地帯にすることは無理があります。少しずつ山での喫煙マナーも向上していくことを願いたいです。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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