本格的な雪山挑戦は八ヶ岳で第一歩を! 雪山ステップアップの舞台に八ヶ岳が相応しい理由

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「冬は登山はお休み」という声をよく聞く。確かに、夏山と比較すると雪山は近寄りがたい場所かもしれない。しかし、しっかりステップを踏めば本格的な雪山登山の雰囲気を味わうことは、そう難しことではない。この冬、本格的な雪山登山に第一歩を刻むのに最も適した山と言われる雪の八ヶ岳で、雪山の魅力、楽しさ、侮れない危険、それぞれの山に相応しい準備をしてみてはどうだろう。全4回で、八ヶ岳で学ぶ「初心者の雪山登山の挑戦」を伝える。

 

JR中央線の茅野駅の東西を結ぶコンコースからは東の空いっぱいに銀屏風となった八ヶ岳が美しく眺められる。右の端には南端の編笠山があり、左の端には北端の蓼科山がある。その間を権現岳、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳、天狗岳、そして北八ヶ岳と大きく長々と続く雪の山脈は見事だ(ちなみに、茅野市中心街からは主峰の赤岳は見えない)。

市街地からも手の届きそうな近さで白銀の雪山が見られる八ヶ岳。多くの登山者が本格的な雪山の第一歩を八ヶ岳で体験するのは何故だろう? その理由を考察してみよう。

 

大都会からのアプローチの良さ

首都圏に住む登山者にとって、八ヶ岳は「行きやすい山」だ。新宿を朝7:00に出発する「特急あずさ1号・松本行き」に乗れば、9:08に茅野駅に到着する。この列車に接続する形で、各登山口へと向かうバスが運行されているので、その日のうちに稜線にある山小屋に登ることができる。さらに、少しタイトな日程になるが、山によっては日帰りで山頂に立ち、降りて帰ってくることも可能になる。週末だけで無理なく登山できるアプローチの良さが、八ヶ岳を身近で取り付きやすい存在にしている。

美濃戸口、渋の湯など、登山口となる山麓までタクシーやバスが入るだけではなく、北横岳のように中腹までロープウェイがかかる山もある。冬季通行止めとなった山麓の車道を、ワカンを付けてラッセルして辿る他の高山とは決定的な違いがある。

 

通年営業の山小屋が雪山登山者の後押しをしてくれる

冬の訪れ、雪のしらせと共に、多くの山小屋は冬季休業に入り、固く扉を閉ざす。その中にあって、八ヶ岳にある山小屋は厳しい寒さと積雪の中でも食事付きで宿泊できる場所が多数ある。山麓、山腹のベースになる山小屋だけでなく、稜線の小屋にも何軒かが営業している。

初心者、入門者にとって初めての本格的な雪山へ挑戦するプレッシャーは大きく、さらに雪の中のテント泊が加われば、装備の準備を含めて、精神的にも経済的にも大きな負担となるだりう。その点でも、食事付での山小屋泊が可能という便利さは大きく登山者の背中を後押ししてくれる。アプローチが良く、取り付きやすく、食事付で暖かな山小屋に泊まれるから、雪の八ヶ岳は多くの登山者が挑戦するのだ。

さらに付け加えると、雪山初心者にとっては多くの仲間がいることの安心感も大きいだろう。登山口から誰も踏んでいない雪の上に自分の最初のトレースを刻むのは、雪山登山の醍醐味の一つだが、初めて挑戦する者にとって、シッカリと付いた踏み跡は、大きな安心感でもあるはずだ。

 

八ヶ岳は、冬山でも比較的天候が安定している

西高東低の気圧配置が続く厳冬期は、北アルプス北部、上越、東北の山々の多くは連日、厳しい風雪が吹きすさぶ。八ヶ岳も強い冬型の初期の段階では吹雪に見舞われるが、少しでも等圧線に間隔が広がり、冬型に緩みが出始めると南八ヶ岳から少しずつ雲が取れていくことが多い。

内陸性の気候で標高も3000mに近いために、気温は時として氷点下20度近くまで下がることも珍しくないが、長期に渡る降雪や吹雪が続くことは少ない。もちろん森林限界を越えると、移動性高気圧に覆われた時以外は、絶えず強い西風にさらされることが多い。

それでも、「登りだしから山頂に立って下山するまで雪が降り続き、その間展望は一切なく、いったい自分がどんな山に登ったのか、その姿さえ見ずに降りてきた」というような、他の雪山登山で起こりうる可能性は少ない。晴天率の高さが大きく違うので、八ヶ岳の冬は展望が楽しめることが多いのだ。

 

それぞれの個性に合わせた様々な楽しみ方がある雪の八ヶ岳

赤岳を最高峰とする南八ヶ岳の中核部分である赤岳、阿弥陀岳、横岳、権現岳は、森林限界を大きく越える「雪と岩」の本格的な雪山であり、登る者も基本的な雪山登山技術を習得していることが必要となる。八ヶ岳は中山峠を境に、その南北では大きく様相を変える。岩場と氷雪と東西に屹立した岩壁を持つ南八ヶ岳と、北欧を思わせる森林高地が続く北八ヶ岳は同じ山脈中にありながら登り方も楽しみ方もだいぶ違う。

基本的な氷雪技術を駆使して強い西風の中を登山する南八ヶ岳は、オーソドックスな雪山登頂登山だけでなく、山腹の随所に氷瀑をかけてアイスクライミングの好ルートを作り、多くの冬季登攀のルートも存在する。一方、北八ヶ岳では滑落や雪崩の可能性が少なく、降雪後にはワカン、スノーシュー等を使って自分たちでトレースを付け、樹氷の森の中に点在する凍結した美しい大小の湖や池を訪ね歩く事も可能だ。雪山登山の様々な楽しみ方、始め方が八ヶ岳には訪れた登山者の数だけ存在すると言える。

八ヶ岳は、「今年から雪山登山を始めたい」と決めた登山者が、その第一歩を踏み出すための恵まれた条件がある、素晴らしい山だ。それぞれの山の特徴、持ち味、必要な準備や技術を良く調べ、ぜひ挑戦してほしい。

★次号予告:北横岳/中腹までのロープウェイで、いきなり氷点下の世界へ

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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