富士山、南アルプス、駿河湾、伊豆半島――。大パノラマが広がる焼津アルプス・満観峰
静岡県の太平洋に面した山は、冬でも温暖で冬枯れの季節でも山歩きは心地が良い。焼津市の背後に連なる、通称・焼津アルプスの稜線に立つと、富士山や南アルプス、そして駿河湾の展望が気持ちよく、また東海道の歴史を感じながら歩くことができる。
日本各地にご当地アルプスはたくさんあれど、富士山と駿河湾の眺めを楽しめるのは、静岡のご当地アルプスならではの醍醐味です。今回は、そんな体験のできる「焼津アルプス」を紹介したいと思います。
静岡県の太平洋側の山は冬でもほとんど雪が降らないため、一年中歩くことができるのが魅力的です。なかでも、空気の澄んだ冬の眺望の良さや、春先の芽吹きを感じる頃などは、特におすすめの時期。焼津アルプスの中でも、満観峰は旧東海道の一部を辿るため歴史を感じながら、絶景を楽しむことができる場所としておすすめです。
満観峰へはたくさんのルートがありますが、今回は日本坂峠を経て、絶景パノラマを楽しみながら、満観峰ピークに立ち、最短ルートで下山する、周回ルートを取りました。
今回、登山の基点となるのは花沢の里集落です。マイカー利用の場合は、東名高速焼津I.C.から約10分。広々とした無料の駐車場が3か所用意されています。なお、集落の中への車両の乗り入れは禁止されていますので、入り込まないようにご注意ください。
焼津駅からバスも運行されていますが、最寄りのバス停である高草山石脇入り口もしくは日本坂PAからは、登山口まで30分ほど歩かなくてはなりません。公共交通機関を利用する場合は、焼津駅からはタクシー利用がスムーズでしょう。なお、今回のルート上にトイレはありません。花沢の里観光駐車場向かいのトイレが最終トイレとなります。
アップダウンの合間に、立ち去りがたい絶景が続く山歩き
スタートとなる花沢の里集落は、歴史的な町並みが残る場所です。江戸時代以来の伝統を保ちながら、養蚕やお茶、みかんの栽培で栄えた集落で、増改築を重ねられ、長屋門のような建物が通りに並ぶ景観に、歴史を感じます。
伝統的な集落ですが、同時にここに住まわれる方にとっては生活の場。そんな場所にお邪魔している意識を持ち、敷地内に勝手に入らない、自転車を含め車両の乗り入れはしない、マスク着用などのルールを守りましょう。
集落の奥に位置する法華寺にて、鞍掛峠へと向かう道と分岐します。ここでは日本坂峠へと向かう登山道へ。ここから日本坂峠を経て静岡市側へと下る道が、平安時代以前まで使われていた旧東海道です。日本武尊が東方討伐の際に通ったとの伝説が残されています。
十八曲がりと呼ばれるジグザグを経て、焼津辺(やきつべ)展望台へ。焼津の町並みと焼津港の眺め。ここまでくると日本坂峠は、あと少し。日本坂峠は、静岡市へと下る旧東海道と、焼津アルプス最南端花沢山からの縦走路が合流する交差点のようになっています。いぼが治るといういぼ地蔵も祀られています。
ここから満観峰までは、アップダウンの繰り返しとなります。急な階段を登ったり下ったりする箇所もあり、標高は低いながらも、なかなか筋肉を使います。トレーニングにもぴったり!
家康ベンチと呼ばれるベンチでは、静岡市の町並みと駿河湾、そして富士山の圧巻の眺めが。この絶景ベンチ、一度座ったが最後、なかなか立ち上がりがたいベンチです。いい景色を見ながらおやつを食べたい方は要注意。素敵な眺め→おやつがすすむ→景色にうっとり→おやつにもうっとり…のエンドレスループから抜け出すのは至難の業です。どっぷりはまった私が保証します。
山頂直下には、一面に広がるお茶畑。山では一面に広がる笹原やハイマツはよく目にする光景ですが、登山道においてお茶畑が広がるのは珍しいく、静岡らしさを感じられるでしょう。
満観峰山頂は、見晴らしの良い広場。広々としたスペースにベンチやテーブルが配置されていて、人々が思い思いの場所で、山頂の時間を楽しんでいます。この山頂広場は、私有地をお借りしているらしく、草木の採取の禁止など尊重すべきルールが掲示されています。
お目当ての富士山はもちろん、南アルプス方面の眺めも抜群! きらきら光る駿河湾の向こうには伊豆半島も見ることができます。焼津アルプス三山の中央に位置する満観峰からは、南に花沢山、西に高草山と、他の二座も眺めることができます。
眺めを存分に楽しんだら、帰途へ。鞍掛峠を経て花沢の里集落へと下ります。道は整備されていますが、浮石などの多い箇所もあるので、滑らないように慎重に進みます。途中数回車道を横切る場所がありますが、標識があるので、迷うことはないでしょう。
下山口は、花沢の里集落の最奥。趣のある街歩きの途中では、柑橘類や野菜などの無人販売も楽しめます。集落には蔵を利用したカフェもあり、立ち寄りやスイーツのテイクアウトもおすすめ。焼津の街まで出て、海鮮に舌鼓を打つのもいいですね。
今回ご紹介したルートは、全体を通してよく整備され、道標などもしっかり設置されています。しかし、この焼津アルプスはさまざまなルートがあり、標識のない分岐や廃道なども多々あります。地図をよく確認しながら歩かれることをお勧めします。
プロフィール
藤巻なつ実
静岡県出身。山好きの父親と共に、幼少の頃から登山、アウトドアに親しむ。
長野県白馬村で登山ガイドとしてのキャリアを始め、グリーンシーズンの北アルプスを中心にガイドを行う。
その後、ニュージーランドの様々なトレイルで経験を積み、帰国後、Adore Outdoorを設立。現在は静岡県を拠点に活動中。日本の自然の魅力を、世界に発信しようと日々取り組んでいる。
今がいい山、棚からひとつかみ
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