房総の奥深き御殿山・大日山へ。ヤマトタケルゆかりの山で展望を愉しむ
南房総・伊予(いよ)ヶ岳の南東に位置する御殿(ごてん)山は、千葉県最高峰の愛宕(あたご)山や嶺岡浅間(みねおかせんげん)などを中心とする嶺岡山系に属し、房総地域の中でも奥深い場所に位置している。今回は人気の高い山田ルートから御殿山に登り、大日山まで足を延ばすコースを紹介しよう。
写真・文=伊藤哲哉 カバー写真=大日山へのコース途中からの眺望。富山の奥に富士山が見える
御殿(ごてん)山は、ヤマトタケルが東征し安房(あわ)地方を平定した際、周囲を一望できるこの地を根城にしたことから、その名がついたと伝えられている。ツバキが咲く冬から、ヤマザクラの開花やいっせいに木々が芽吹く春までがベストシーズン。また空気が澄んでいる時期は、富士山、東京湾までのすばらしい眺望が得られる。
登山口となる高照(こうしょう)寺へは、JR内房線岩井駅からタクシーで向かうのが一番便利だ。もしバスを利用する場合は、南房総市営バス国保病院前行きに乗り、終点で下車。平久里中(へぐりなか)交差点を右に折れ、県道89号を鴨川方面に向かえば、約40分で高照寺に到着する。登山口にはトイレのほか駐車場もあるので、マイカーでのアクセスも可能である。登山口をスタートして川を渡り、伊予ヶ岳を眺めながら標識に従って、整備された歩きやすい道を歩く。
樹林帯に入り、やがて大黒様が祭られている見晴らしのよい場所に着く。大黒様は、風化の状態から江戸時代中頃のものと考えられ、もともと麓の集落にあったが、集落の人々の手でここまで担ぎ上げられたそうだ。
お参りを済ませてひと息ついたら、杉林の尾根道を進む。大日如来像の碑が右に現われ、下ると分岐に出る。ここから東星田への道が延びているが、2024年3月現在通行止めだ。さらに5分ほど行くと再び分岐になり、急な直登コースをがんばれば、御殿山山頂に着く。
山頂には石祠があり、西に富(とみ)山、伊予ヶ岳、鋸山、東には嶺岡山系、経塚(きょうづか)山、そして太平洋まで望め、南にはこれから向かう鷹取山や宝篋印塔(ほうきょういんとう)山への稜線が遠望できる。あずまややベンチもあるので、絶好の休憩ポイントだ。
御殿山を後に、ツバキのトンネルの階段を下って登り返すと鷹取山。犬掛方面へ下る大沢林道への道を右に分け、ハイキングコースの標識に沿って尾根をまっすぐに進む。振り返ると後方に御殿山、左には愛宕山が姿を見せる。少し行くと、大きな崩壊地脇の金網から、今度は右に富山や伊予ヶ岳が見える。
林道が左に見え隠れする中を南西に進み、マテバシイの下に少し傾いた宝篋印塔が立つピークを抜けて尾根をたどると大日山の山頂だ。太平洋から東京湾まで一望でき、こちらからも富山や鋸山のほか遠くに富士山を望むこともできる。
ヤマザクラやスイセンが植栽された明るい山頂には、大日如来石像が祭られている。言い伝えによると、1777年に麓の人々が山頂に大日如来像を建立し、祈願、供養をして大切にしたことから、大日山と呼ばれるようになったという。
ゆっくり展望を楽しんだら往路を引き返し、約2時間で登山口の高照寺に下山する。マイカー利用の場合は、道の駅「富楽里とみやま」に立ち寄るとよいだろう。2023年7月にリニューアルオープンし、フードコートのほか、採れたての新鮮野菜や魚介類などを販売している直売・物産売場があるので、おすすめだ。
MAP&DATA
コースタイム:高照寺~御殿山~鷹取山~大日山~御殿山~高照寺 :約4時間35分
プロフィール
伊藤哲哉(いとう・てつや)
1969年、神奈川県生まれ、千葉県在住。北アルプス・南アルプス、房総の低山、上信越の山などを主なフィールドに撮影に通う。山岳雑誌に写真と記事を提供し、山と溪谷社から共著で『分県登山ガイド 千葉県の山』、『アルペンガイド 南アルプス』を出版。2020年12月、2021年4月に写真展「SEASONS~北岳~」、2023年6月に写真展「夏山讃歌~南アルプスの歌声」を開催。日本写真家協会(JPS)、日本山岳写真協会会員。
ウェブサイト:https://tetsuyaito.jimdofree.com/今がいい山、棚からひとつかみ
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