冬の間はなにをしているのですか? 尾瀬「原の小屋」管理人の小屋閉め期間のこと

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燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第6回は山小屋冬の大仕事について。2020年冬、尾瀬にはしっかり雪が積もりました。

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第6回は山小屋冬の大仕事について。2020年冬、尾瀬にはしっかり雪が積もりました。

文・写真=髙妻潤一郎

「冬の間はなにをしているのですか?」との質問をよく受ける。世間一般には山小屋を閉めている間はのんびり過ごしていると思われているらしい(苦笑)。これは正解のようで不正解である。夏のように忙しくはないが、決して暇でもない。

小屋を閉めてしばらくは荷物の整理や自宅の整理などが大半を占める。なにせ半年も別の場所で生活をしていたため、今度は冬の間の生活のベースとなる自宅にチェンジし終えるまでが意外と大変なのである。毎年引っ越しを2回していると思っていただくと想像できるのではないかと思う。その後、旅行会社やお世話になった業者さんへの挨拶などを終えると、あっという間に年末を迎えてしまうのが例年である。

そうして迎えた2021年。正月ムードに浸っていたのも束の間。COVID–19の感染拡大について連日のように過去最高の数字が報道され、ついに私の自宅がある埼玉県も緊急事態宣言となってしまった。しかし感染症がどんな状態になろうと尾瀬の降雪が少なくなるわけでもなく。現に新潟、富山でも大雪となり、交通機関に大きな影響を与えた。「尾瀬(見晴)も雪は多いのか?」「小屋は大丈夫だろうか?」。私たちは少しでも現地の状況を把握したいため、登山口となる片品サイド、檜枝岐サイドの関係者からの情報を集め、はやる気持ちを抑えながら小屋行きの準備を始めた。

尾瀬・原の小屋

すっかり雪景色となった尾瀬ヶ原。小屋の屋根上から至仏山方面を望む
すっかり雪景色となった尾瀬ヶ原。
小屋の屋根上から至仏山方面を望む

もともと今冬はたとえ雪おろしの作業の必要性がなくとも積雪期の尾瀬、それも「原の小屋」のある見晴地区へ行くアプローチルートの確認をするために何度か尾瀬に入る計画を立てていた。

さて、雪上を歩く最大の武器と言えば、私はスキーと思っている。スキーと言ってもゲレンデで使用しているスキー板とは若干違い、板は軽量化されており、ビンディングと呼ばれる板と靴を繫ぎ留める金具も、必要に応じてかかとが浮くように設計されている。そしてスキー板の裏側(雪面側)にはシールと呼ばれる滑り止めのテープを貼ることで、歩いて登ることが可能となるのだ。

今回、1月の雪おろしの作業には同じガイド仲間でスキーのできる2名に同行してもらった。なかでもTさんは昨年の屋根の塗装の時にも作業中の安全確保のための支点作りから確保、塗装までもお世話になっており、小屋の様子もわかっているので頼もしい限りだ。

一般の登山客が入ることはない尾瀬はまさに静寂に包まれた世界であり、ごく限られた登山者のみにその景色を垣間見ることが許されている。そんな神秘的景色に見とれる余裕もないまま、ひたすらスキー板を前に滑らせていく。聞こえるのはこの雪の上に板を滑らせる音だけ。頭の中には「雪山讃歌」のメロディーが浮かんでくる。まさに山岳スキーのジャンルに入る内容で、違いといえば斜面を滑るのが目的ではなく、小屋までの往復の移動手段が主となっていることぐらいである。

板を滑らせて歩くこと数時間。約3カ月ぶりの小屋と対峙する。「ただいま戻りました」。心の中でそっとつぶやき、ぐるりと小屋の周りを点検した。「よし、外観からでは雪害はなし!よかった!」

除雪機やスノーダンプを小屋から出し、いよいよ屋根の雪おろし開始だ。雲ひとつない青空の下、景色に見惚れる暇もなく私たちは作業を開始した。

尾瀬・原の小屋

積雪が2mを超えるところもある屋根の雪をスノーダンプでひたすら雪おろし。見た目以上にハードな作業
積雪が2mを超えるところもある屋根の雪を
スノーダンプでひたすら雪おろし。見た目以上にハードな作業

山と溪谷2021年3月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

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本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


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プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

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