梅雨明けはオオキツネノカミソリの群生を見に多良岳へ

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長崎県と佐賀県の県境に位置する多良岳は、花の名山として人気の山です。梅雨明けにはオオキツネノカミソリが一斉に開花して、鮮やかに山を彩ります。

 西野越のオオキツネノカミソリ群生地

 

梅雨が開け真夏の太陽が照りつける頃になると、オオキツネノカミソリを見るのを毎年楽しみにしています。

長崎県と佐賀県の県境に位置する多良岳は花の山で知られる山です。

「多良岳三名花」と呼ばれる早春のマンサク、初夏のツクシシャクナゲ、盛夏のオオキツネノカミソリはそれぞれの季節に多くの登山者を惹きつけてやみません。

今回は「多良岳三名花」の一つ、オオキツネノカミソリの橙色の花が谷を覆い尽くす、山地最大の群生地の西野越から多良岳を目指すコースを計画しました。

 

モデルコース:黒木バス停~金泉寺~多良岳(往復)

 

コースタイム:黒木バス停(40分)八丁谷登山口(1時間)西野越分岐(10分)金泉寺(35分)多良岳≪座禅岩片道20分≫(30分)金泉寺(10分)西野越分岐(50分)八丁谷登山口(35分)黒木バス停 約4時間 ※座禅岩往復の場合はプラス40分

⇒多良岳周辺のコースタイム付き登山地図

多良岳は、真言密教の霊場として栄えた山で山中には巨岩・奇岩が多く、清流と濃い自然が残っていて、四季を通じて登山者に親しまれていますが、オオキツネノカミソリが咲く7月下旬から8月上旬が最も華やぐ季節となります。

八丁谷登山口へは、JR大村線大村駅から長崎県営バス黒木バス停までのバス便がありますが、便数が少なくマイカーが便利でしょう。

国道444号線から黒木渓谷へ行く県道252号の奥に登山者用駐車場があります。土日やシーズン中は満車になることも多く、県道終点の第3駐車場なら空きがあることがあります。

八丁谷林道終点。直進は中山越から経ヶ岳へ。多良岳へは右へ進みます

 

郡(こおり)川に沿って八丁谷林道を進んだ林道終点が登山口です。直進は多良岳と経ヶ岳の縦走路に出る道です。「金泉寺・多良岳」の標識に従って右の植林の中を進むと、大岩を抱いた木がある水場付近につきます。

この付近から、オオキツネノカミソリの花が目に付き始めます。

次に現れるガレ場の急斜面の辛さも、点在する花が忘れさせてくれます。小さな涸れ沢を越えれば、稜線の分岐点である西野越です。

そこは多良山地に百万本あると推測されるオオキツネノカミソリの最大の群生地で、一体が橙色に染まる花園になります。

五家原岳への縦走路にある西野越は、多良山地最大のオオキツネノカミソリ群生地です

 

オオキツネノカミソリという変わった名前は、「日本植物学の父」牧野富太郎博士の命名です。

ヒガンバナ属多年草で、早春にのびだした葉は夏になると枯れてしまい、葉が枯れたあと花茎がのびて橙色の花を3~5個つけます。

名前の由来は、細長い葉の形をカミソリに見立て、花の色が狐に似るという説や、葉が枯れてなくなったあとに花茎を伸ばしきれいな花を咲かせることから、狐につままれたようだ。という説などがあります。牧野博士はどうのように思って命名したのでしょう。

踏みつけ防止のロープを越えないように、きれいな花を探してカメラを向けます。

殆どの花が谷側を向いて咲いているので、ローアングルや横から狙うとオオキツネノカミソリの特徴である、花びらから長く突き出た雄しべがうまく写せるようです。

西野越分岐のすぐ先の金泉寺山小屋にはベンチとテーブルがあり休憩の間、周りの登山者の山談義を聞くのも楽しい時間です。

金泉寺の横には山小屋があり登山者の憩いの場となっている

 

休憩が終われば、多良岳へ。

多良岳とは、太良嶽三社大神を祀る峰を守るようにそびえる国見岳と前岳の3峰の総称です。

石仏や険しい石段に山岳信仰が栄えた往時を偲びながら上宮へ参拝しましょう。

山頂手前のロープとクサリが設置されている場所を慎重に通過

 

太良嶽三社大神が祀られた山頂。樹木の間から多良山地最高峰の経ヶ岳が見える

 

山頂からは北西にどっしりとした経ヶ岳の姿と西には奇岩・座禅岩も見ることができます。

座禅岩までは難路ですが経験者であれば足を延ばしてもいいでしょう。

スリリングな岩の上からは、有明海や島原湾と雲仙岳など絶景が広がります。

スリリングな座禅岩からの絶景

 

座禅岩から見える雲仙岳

 

下山は、多良岳まで来た道を戻るか、途中の分岐から六体地蔵へ急坂を下って山腹を巻いて金泉寺へ戻れる道もあります。

金泉寺山小屋で少し休んだら、浮石や苔で滑る岩に注意しながら登山口まで戻りましょう。

※佐賀県太良町中山キャンプ場からの登山口と諫早の金泉寺登山口は2020年の豪雨被害で2021年7月10日現在通行止めです。

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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