北アルプス・ブナ立尾根より烏帽子岳~船窪岳 天空の花園から野趣あふれる稜線を踏破する

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北アルプス・烏帽子岳から船窪岳へと続く縦走路。比較的登山者が少なく静かな稜線は、危険箇所もあり、北アルプスのなかでも玄人向けのコースです。

南沢岳の南面に広がる池塘とお花畑。まるで別天地だ

 

急登のブナ立尾根から登り、烏帽子岳の岩峰あり、天空の花園あり、アップダウンの激しい険しい稜線あり…と野趣に富んだコースです。ハードな道のりの先は、心温まる山小屋として知られる船窪小屋。ただし下山もご注意を。

特に2日目の烏帽子岳から船窪小屋までの稜線は、登山道が崩壊して危険な箇所があり、コースタイムも8時間と長いです。登山者の数も多くないため、登山経験豊富な玄人向けコースです。

 

モデルコース:高瀬ダム~烏帽子岳~船窪岳~七倉山荘

 

コースタイム:【1日目】約6時間10分【2日目】約8時間【3日目】約3時間30分

⇒烏帽子岳・船窪岳周辺のコースタイム付き登山地図

1日目 高瀬ダム~ブナ立尾根~烏帽子小屋

七倉山荘前よりタクシーの相乗りで高瀬ダムへ。トンネルを抜け、長い吊り橋を渡れば、ブナ立尾根の登山口、標高差1200mの急登の始まりです。取り付き地点にはブナ立尾根唯一の水場があります。

 

ブナ立尾根より不動岳の崩壊斜面を望む

急登ですが、よく整備されたブナやコメツガの樹林帯の中の登山道です。登り一辺倒なのでペース配分が重要です。ゆっくり持続できるペースで登るように進みますが、後半はかなり足に来てしまいました。

それでも予定時刻より早めに烏帽子小屋に到着できたので、ひと安心。烏帽子小屋でザックをデポさせていただき、烏帽子岳へピストンで往復。烏帽子岳を背景に砂礫地に広がるコマクサの群生は見事でした。特異な姿を見せる烏帽子岳の岩塔の登りはクサリ場が整備されていて、比較的容易に頂上に立つことができ、明日向かう予定の不動岳、船窪岳方面を一望することができます。

 

烏帽子岳を背景に咲き誇るコマクサの群落

烏帽子小屋ではグリーンパトロールの人に明日の船窪岳方面の登山道のハードな状況を聞くことができ、「野趣あふれる」稜線歩きの心構えができたのは、有益でした。

 

2日目 烏帽子小屋~船窪小屋

早朝、烏帽子小屋を出発。薬師岳から赤牛岳の稜線には雲がかかっていますが、烏帽子岳から不動岳への稜線は、青空が広がっています。

南沢岳南面には烏帽子田園と呼ばれる池塘と雪渓が点在する四十八池が広がり、まさに天空の花の楽園の形容にふさわしいところです。南沢岳山頂付近の砂礫地にもコマクサの群落が広がっていました。
 

烏帽子岳の砂礫地の斜面に広がるコマクサの群生

いよいよ不動岳へ向かって大下りが始まります。登山道は崩壊が激しい不動沢側の崖沿いにつけられており、花崗岩が崩れてできた砂粒が被っていて滑りやすいことこの上なく、注意が必要です。ロープが設置されているところもありますが、緩んでいて、下りではあまり役に立ちそうではなく、ロープに頼りきるのは危険です。

300mほど下ると、今度は船窪第二ピークへ登り返し。その後も船窪岳から船窪乗越まで激しいアップダウンが続き、ハシゴやロープ場、ざれたやせ尾根の連続で、緊張と暑さで体力の消耗を強いられます。(昨年、通行止めとなっていた船窪岳山頂付近の登山道は、2021年の7月、小屋の人たちによって修復されたようです。)

 

 

船窪岳のやせ尾根はざれていて滑りやすい。細心の注意が必要(2017年の状況。崩落激しかったが、2021年修復されている)

船窪岳を通過するあたりからガスにおおわれ、展望がきかなくなりました。標高2509mの七倉岳山頂からは針ノ木岳、蓮華岳、剱岳などが見通せるはずですが、何も見えません。風がないので暑いです。途中に水場はいっさいありません。(テント場の水場は道の崩壊が進み、2021年7月現在は使えないようです。)

船窪乗越から300m登り返して、やっと船窪小屋に到着です。到着して差し出されたお茶一杯がこのうえなくおいしいものでした。ゆったりと暮れゆくアルプスの山並みを眺めながら、疲れを癒やし、夜は囲炉裏を囲んで、山菜のてんぷらなど、こころ温まる食事に感激です。

 

3日目 船窪小屋~七倉尾根~七倉山荘

翌朝は晴れて、槍ヶ岳から立山方面まで北アルプスの展望を満喫しながら、七倉尾根を下山します。
 

七倉尾根は朝から晴れ上がり、高瀬ダムの先の槍ヶ岳が鮮明に見える

エスケープルートとして使われるルートだからと、なめてかかると危険です。
稜線上を進み、槍が岳の展望がすばらしい天狗ノ庭からは、標高差1400mを下降する樹林帯の激下り。連続する丸太のハシゴや木の根が滑りやすく、慎重に行動しなければなりません。


 

七倉尾根は鼻付八丁と呼ばれる樹林帯の中の激下り

急傾斜は「鼻突き八丁」と呼ばれる箇所だけにとどまらず、登山口までえんえんと続き、最後まで気を抜けません(なお、後日ニュースで知ったことですが、同じ日の午後に登山口にもほど遠くない七倉尾根の末端付近で下山中の高齢の登山者の滑落死亡事故がありました)。
ようやく登山口の七倉山荘までたどりついて、やっと安堵することができました。

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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