尾瀬の短い夏がやってきました。池塘に咲くヒツジグサ、深まる木々の緑、夜は星空

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燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第9回は、山小屋スタッフとの共同生活でのお話です。山小屋の主人として大切にしていることとは?

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第9回は、山小屋スタッフとの共同生活でのお話です。山小屋の主人として大切にしていることとは?

文・写真=髙妻潤一郎

コロナ禍もおさまらず、2021年も静かな尾瀬のスタートとなってしまった。通常であれば賑わいを見せるミズバショウのシーズンも混み合うことなく、お客様をお迎えしながら、昨年できなかった補修作業などをたんたんと行なっている。

今回はそんな山小屋の内部のお話なのだが…。いわゆる山小屋の主人。地域やその小屋によって従業員からの呼び方も、社長、親方、支配人、オーナーなどさまざまである。現在「原の小屋」では表向きの私の肩書きは管理責任者(管理人)としている。どうしても「支配人」という呼び名に抵抗があるからで、昨年、この仕事の依頼を受けた際に変えてもらった。そして小屋内では、スタッフからは恥ずかしながら「じゅんさん」と呼んでもらうようにしている。「髙妻さん」ではどうしても堅苦しくなるし、そうかといって「管理人さん」ではなんとなくよそよそしい。スタッフには「ちょっと遠い親戚のおじさん程度と思って接してね」とお願いしている。

尾瀬・原の小屋

朝の掃除を終えて、ひと休みの「お茶タイム」。天気のよい日は外での休憩が楽しみの一つだ
朝の掃除を終えて、ひと休みの「お茶タイム」。
天気のよい日は外での休憩が楽しみの一つだ

同じようにスタッフの呼び方も重要である。スタッフへは姓ではなく「○○ちゃん」「○○くん」と、ファーストネームで呼ばせてもらうようにしている。年上の方にもできるだけ名で「○○さん」と呼ぶようにしている。またスタッフ同士でも「○○っぺ」「○○っち」などのお友達感覚になる呼び方はしないようにお願いをしている。あくまでも小屋は生活を共にする職場で、共同生活の中でのルールは必要と考えているからだ。「親しき中にも礼儀あり」。なんだか堅苦しいような話ではあるが、24時間共に暮らしていくことを考えると、ちょっと箍を外すことがとんでもない気の緩みとなり、結果的にケガや事故などにもつながってしまうと考えている。できるだけ親しみをもって、しかしなれなれしくなく。そんな適度な親しみをお互いに感じながらスタッフと共に毎日、山小屋生活を送っている。

さて、その山小屋の生活だが、息つく暇がないというのが正直なところで、常に終わりがない状態が延々と続く。5月に小屋開けをドンドン進めていき、今年のスタッフと共にやっとオープンができたと思うと今度は夏の忙しい営業をしつつ、傷んだ箇所の補修工事などをしながら小屋閉めに向かって進んでいく。そして無事に小屋閉めを終えると、間もなく今度は来年の小屋開けの準備を始める。この繰り返しである。まるで生き物を相手にしているような感覚なのだ。だから私たちは「小屋は生きている」そう思って接していて、そうすると不思議なことが起きたりもする。私たちが買い出しなどで下山しようと玄関で靴を履いた瞬間に、なぜかボイラー室から水漏れが発生。「こんなタイミングで!」と私たちもスタッフもびっくり。対応処理で出発が30分程度遅れたことがあった。「なんだか行くなと言われているようだね」。そんな手のかかる我が子のような「原の小屋」は、今日も尾瀬の見晴地区に立っています。ちょっとのぞいてみませんか? 玄関先で「じゅんさんいる?」と声をかけてください(笑)。

尾瀬・原の小屋

このメンバーで2021年の夏を乗り切る。
みんな、生き生きのびのび自然体で仕事をしてくれているのがうれしい
このメンバーで2021年の夏を乗り切る。
みんな、生き生きのびのび自然体で
仕事をしてくれているのがうれしい

山と溪谷2021年9月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度の最終営業日は10月16日(土)の予定です。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

- 尾瀬 - 原の小屋 OZE・HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度の最終営業日は10月16日(土)の予定です。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
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プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

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