幅広く活躍してくれそうな薄手インサレーション ミレー/アルファライトスウェットジャケット|高橋庄太郎の山MONO語りVol.91
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、ミレーの「アルファ ライト スウェット ジャケット」です。
文・写真=高橋庄太郎
ここ数年、暖冬ばかりが続いていたが、この冬はどうなのか? いずれにせよ、あと数か月は続く寒い時期にも登山をするのなら、山中で自分の体温を守れる暖かなウェアが必要だ。
今回ピックアップするのは、ミレーの「アルファ ライト スウェット ジャケット」。寒い時期はアウターの下にミッドレイヤーとして着ることに加え、これをいちばん上にしてアウターとしても活用できる、薄手のインサレーションである。
その見た目は非常にシンプルだ。フロントにファスナーが1本ついたジップアップタイプで、襟が少し高いハイネックである。フードがついていないのは、この上に他のアウターを着るときにフードが重なって干渉しないようにするという考えからであろう。
重量は372g(サイズM)。薄手の見た目よりは少し重い印象だが、これが防寒着だと考えれば、特別重いわけでもない。
素材の特徴は?
このジャケットの最大の特徴は、その“素材”である。まずは、表地と裏地を見てみよう。
左が表地で、こちらは“ドライナミックエアメッシュ”という素材。ただでさえ速乾性に長けているが、さらに表面にはドット状の孔があり、通気性にも優れている。右が裏地で、こちらのほうは非常に目の細かいメッシュ素材となっている。かなり丈夫そうな質感だ。
しかし、もっとも重要なのは、これら2枚に挟まれている「中綿」だ。
その中綿は“ポーラーテックアルファ”。近年登場した素材の中でも高機能を誇るマテリアルで、程よい保温力と速乾性、通気性を併せ持ち、“行動中に暑苦しくなく、行動停止中に寒くない”という、相反するかのような機能を有している。簡単に言えば、温度調整力に優れているのだ。
これら3種の素材を裏地側から光に透かして見たのが、以下の写真だ。
裏地の向こう側に見えるのは、表地のドットである。すると、ポーラーテックアルファの中綿はどこへ行ってしまったのか?
じつはポーラーテックアルファは広い意味での中綿であることは間違いないが、実際のその形状は一枚の布地のようになっている。そのために、よほど上手く撮影しないと、表地と裏地の間でピントが合わず、その存在を見落としそうになるのである。
上の写真は、裏地越しになんとかカメラに収めたポーラーテックアルファ。これで「表地+ポーラーテックアルファ+裏地」という3層構造がわかるだろうか。ともあれ、アルファ ライト スウェット ジャケットは、「中綿」という言葉からイメージされる厚手のウェアとは異なり、思いのほか薄手なのである。
このウェアのストレッチ性にも触れておきたい。
表地のドライナミックエアメッシュは、着用時に縦にはそれほど伸びないが、横にはかなり伸びやすい。同様に裏地のメッシュも縦にはあまり伸びないが、横にはよく伸びる。そして、それらの間に挟まったポーラーテックアルファはそれらのストレッチ性を妨げない。つまり、アルファ ライト スウェット ジャケットは4ウェイストレッチのウェアなのだが、2ウェイストレッチに近い伸縮を見せるのである。
実際、縦方向に力が入る腕の生地はそれほど伸びず、少し突っ張る感じが出てしまう。だが着用してみるとわかるのは、トータルでの着心地は損なわれていないということ。なぜならば腕を曲げたときに背中の生地には横方向にテンションがかかるため、背中の広い面積がすばらしくストレッチし、腕の曲がりへ十分に対応できているからだ。
細部の構造をチェック
次に、改めてディテールをチェックしよう。
繰り返すが、首元はハイネック。この部分には裏地は使わず、表地と同じドライナミックエアメッシュが使われている。肌触りは上々だ。
袖も非常にシンプルである。
ゴムでわずかに絞っているだけで、フラップやボタンなどは何もない。これはインナーとして着る場合の袖通しのよさを考え、引っかかりやすいものはすべて省いているからだろう。
左右の腰元についているポケットにもファスナーはついていない。
これもまた、インナーとして着用するときに、内部でゴワ付く感じを抑えるためだと思われる。
この位置にポケットがあると、バックパックを背負ったときにハーネスの位置と重なってしまうのは仕方ない。
しかしポケットにファスナーが使われていないため、腹部に違和感を覚えることがないのはメリットだ。
同様にジャケットの裾にもドローコードなどは付けられていない。本当にどこまでもシンプルな造りだ。
このように見ていくと、ウェアのデザインの方向としては、アウターというよりはミッドレイヤーとして使う際の着やすさを重視しているようである。
とはいえ、ポーラーテックアルファの持ち味である通気性や速乾性を感じるには、まずはアウターとして着用したほうがいい。
僕はアルファ ライト スウェット ジャケットをいちばん上に着用し、冬を迎えた山へ分け入っていった。
晴れた冬の山でフィールドテスト
出発当初は谷間の道で日陰が多かったが、登るにつれて傾斜が急になり、尾根が近づくと冬とは思えないほど日差しが強くなってくる。
気温が低いのに汗をかき始め、体が火照ってくる。ポーラーテックアルファのウェアを試すには好都合だ。
このとき、内部に合わせたのはウール製の薄手のベースレイヤー。このままテンポよく1時間も歩いていると、次第に汗で湿り気を帯びてきているのがわかるようになった。
だが、その上に着ているのは、ポーラーテックアルファのジャケットだ。それ以上は暑くはならず、過度の汗濡れは起きない。だからといって、寒いこともない。速乾性による気化熱の効果でウェアの保温性を一定に保っているのであろう。僕はこれまでにもポーラーテックアルファを使った他のウェアを試したことがあるが、やはりこの素材はなかなかのものである。
尾根の上でしばし休憩する。いくらポーラーテックアルファのジャケットとはいえ、バックパックで覆われていた背中はあまり空気に触れないため、さすがにそれなりの汗ばみが残っていた。
その背中に風が吹き付けると非常に涼しく、僕の体からは湯気のような蒸気がかすかに立ち込めている。これは立ち止まって観察しないとわからないことだ。ともあれ、こんなことからもこのウェアの速乾性がよくわかった。
しかし、このままの状態で休んでいると、さすがに肌寒さを覚えてくる。まあ本当のことを言えば、テストのために体が冷えるまであえて休み続けていたともいえるのではあるが……。
そこでダウンジャケットを重ねて着る。このときに感じたのは、アルファ ライト スウェット ジャケットの袖通しのよさだ。
先に説明したように、アルファライトジャケットの袖は非常にシンプルに作られている。しかも表地のドライナミックエアメッシュはつるりとした素材感だ。
だからこそ、引っ掛かりも摩擦感もなく、すっきりと袖を通せるのである。そのために、無駄なストレスがない。
上にレインジャケットを羽織ったときも同様だ。
袖を通すときにウェアがもたれると不快なものだが、アルファ ライト スウェット ジャケットには、そんな心配は無用である。
フードなしのハイネックは、上にジャケットを重ねてもやはりすっきりする。フードがあれば首元がアウターのフードと二重になってしまい、着心地を損ねていただろう。
もっとも、アルファ ライト スウェット ジャケットのみを単体で着用するときは、フードで頭部を覆えないということだ。現在、ミレーの「アルファ ライト スウェット」シリーズには、ほかにクルーネックタイプもあるが、こちらもフードなしである。もしも来期以降にフードありのタイプも加われば、用途や好みによって選びやすくなりそうだ。
まとめ:冬の行動着としてはもちろん、夏も使えそう
この後、僕はアルファ ライト スウェット ジャケットをアウターとして着たり、ミッドレイヤーとして着たりとチェンジしながら、丸一日、山のなかを歩き回った。
そこからの結論をいえば、冬の行動着として考えると、これはとても優れたウェアだ。僕は非常に汗かきで、真冬でもいちばんうえにハードシェルのような防水/防風ウェアを着ていると、汗の量に透湿性が追い付かず、次第にウェア内が蒸れて暑苦しくなることが多い。そのために、アウターにはもっぱらソフトシェルジャケットを愛用してきたが、ソフトシェルジャケットの多くはアウターとしての用途を重視しており、袖や首回り、ポケットなどが重ね着しやすいようにはあまり考えられていない。
その点、このジャケットはソフトシェル以上の通気性と速乾性ですばらしい汗抜け感を得られるのに、重ね着もしやすい。その点が大きな長所である。
もちろん、一般的なソフトシェル以上の通気性と速乾性は“涼しすぎる”という面にもつながる。これが“アウター”として活躍するのは気温がそれほどは低くないときであり、過度に寒いときはやはりアウターの下にミッドレイヤーとして着ればいいのである。
ちなみに現在のミレーは「インシュレーションペアリング」という着用法を提案している。それはミッドレイヤーとしてのインシュレーションを重ね着するというレイヤリングで、例えばこのアルファ ライト スウェット ジャケットの上に、さらに別のミッドレイヤーを着用し、複数のインシュレーション(ミッドレイヤー)で、保温性を調整するという考え方だ。そういうレイヤリングのときは、たしかに1枚1枚のウェアは薄手のほうがよい。
今回は冬のテストだったが、僕は夏の高山での保温着にもよさそうだと感じている。使い方によっては、1年中活躍することだろう。
プロフィール
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