ハトは「水に口をつけてごくごく飲むことができる」珍しい鳥だった!

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馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。そんなハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった本『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)より、思わず誰かに話したくなるハトの秘密のエピソードをご紹介。

第2回目はハトの水の飲み方の話です。

写真=柴田佳秀

水をごくごく飲むことができる珍しい鳥

ニワトリが水を飲むのを見たことがあるだろうか。嘴で水をすくっては、頭を後ろに倒すようにして喉の奥に流し込み、ゴックン。またすくっては嘴を持ち上げてゴックンを繰り返して飲んでいる。これが鳥の水飲み定番スタイルである。

ところがハトは違う。水に嘴を差し入れて、そのままごくごくと吸い上げて飲むのだ。まるでシカなどのほ乳動物が池の水に口をつけて飲むのと同じスタイルである。世界に鳥は約一万種いるのだが、こんな飲み方ができる鳥は、カエデチョウの仲間の一種とサケイの仲間、そしてハトの仲間しかいない。

ハトはどうしてこんな芸当ができるのか、詳しいメカニズムはとても難しいのだが、舌が注射器のピストンのような働きをし、口の中の圧力が下がるため、水を吸い上げられるという。大多数の鳥にはそんな仕組みがないので、重力を利用して水を体の中に流し込むだけなのだ。

ではなぜ、ハトはこんな水飲み法を採用しているのだろうか。

これにはいくつかの仮説があり、いちばんよく言われてきたのが「天敵から狙われる時間を減らす説」。ポンプのように水を吸い上げて飲む方法だと、すくい上げて飲む方法よりも短時間にたくさんの水を飲むことができ、無防備な時間を減らし天敵が襲うチャンスを少なくしているのだという。

ところがハトと同じ飲水法のカエデチョウと、すくって飲むカエデチョウで比較した結果では、直接ごくごく飲んでも、すくい飲みに比べてたいして時間が節約されることはなく、この説はちょっと怪しいということになった。

そこで次に考え出されたのは、「少ない水を飲むことができるから説」。木の穴や葉の伱間などにたまったわずかな水でも、嘴を差し込んで吸い上げ飲むことができるというのだ。確かに、ちょっとしかない水をすくい上げて飲むのは難しいだろう。でも、どうしてハトがごくごく水を飲むようになったのか、本当のところはよくわかっていない。

鳥は普通、あまり水を飲まない。飛ぶためには体が軽くなくてはならないから、重たい水は体にためておきたくないのだ。鳥がおしっこをしないで、糞と一緒に尿酸を排出するのはそのためである。あまり水を必要としないから、鳥のなかには、ほとんど水を飲まず、食べものをとるだけで足りてしまうものも多い。

ところがハトは水をとてもよく飲む珍しい鳥だ。多くの種類が朝と夕方には水を飲み、なかには毎日何十キロも離れた水飲み場へ出かけるハトもいるくらいだ。

では、なぜ水を必要としているのか。それは食べものが乾きものだからだ。主な食べものの種子にはあまり水分が含まれていない。なので、そこから水分をとることはちょっと難しい。また、水分をとることには消化を助けるという目的もある。ハトの食道には「そ嚢」と呼ばれる袋状になった器官があり、そこに種子をため、飲んだ水で柔らかくしてから胃に送るのだ。人間が黒豆を煮るときに、一晩、水につけて柔らかくするのと同じ要領である。柔らかくなった種子は、前胃と呼ばれる胃で消化液によって分解され、さらに筋胃に送られて細かくなり、腸で栄養が吸収されるのである。

※本記事は『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

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【著者略歴】

柴田 佳秀(しばた・よしひで)

1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業。テレビディレクターとして北極やアフリカなどを取材。「生きもの地球紀行」「地球!ふしぎ大自然」などのNHKの自然番組を数多く制作する。2005年からフリーランスとなり、書籍の執筆や監修、講演などをおこなっている。主な著書・執筆に『講談社の動く図鑑MOVE 鳥』(講談社)、『日本鳥類図譜』(山と溪谷社)、『カラスの常識』(子どもの未来社)など。日本鳥学会会員、都市鳥研究会幹事。

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ハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった、身近な生きものの世界を見る目が変わる一冊! 馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。 そんなハトには、知られざる驚きの能力と、人との深いつながりがあった。 本書より一部を抜粋して掲載します。

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