ハトの鳩胸はものすごく発達した筋肉!? 驚きのハトの生存戦略

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馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。そんなハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった本『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)より、思わず誰かに話したくなるハトの秘密のエピソードをご紹介。

第6回目はハトの鳩胸の正体に迫ります。

写真=柴田佳秀

 

ハト派とタカ派

ハト派とタカ派という言葉がある。政治の世界でよく使われる言葉で、テレビのニュースを見ていると、今度の首相はハト派、あの人はタカ派、なんてコメントが流れるのを耳にする。

ハト派とは、好戦的なことは望まず、武力よりも話し合いで解決しようとする考えの人で、タカ派は、自分の意志を貫くためには武力行使もやむを得ないとする考えの人のことである。けっして、ハト派はハトが好きな人で、タカ派はタカが好きな人のことではない。

実際の鳥の世界でも、タカは、カギ状に曲がった嘴や鋭い爪などの強力な武器を持が、ハトには目立った武器はない。丸腰なのである。武器を持ち攻撃的なタカと、無抵抗主義のハトのそれぞれの習性になぞらえて、政治の世界でそう呼ばれるようになったのだろう。じつは英語でも、Hawk(タカ)とDove(ハト)は同じ意味で使うんだそうだ。ハトは、そのタカにとてもよく狙われ食べられる存在だ。ハトなのにカモにされている。無抵抗で一方的に食べられ続けているのに、なぜかハトは地球上から絶滅していない。むしろタカよりもたくさんいる。なぜ、ハトはタカに食べ尽くされずに今もいるのだろうか。そのわけを次で考えてみたい。

鳩胸は強力なエンジン

ハトがタカに食べ尽くされない理由はいろいろあるが、一つは逃げる天才だからだろう。無抵抗主義のハト派らしく、敵から逃げることで生き延びてきたのだ。ただ、それがうまくいくためには、ハトの体には他の鳥にはないさまざまな秘密がある。その一つが鳩胸だ。ハトの胸は鳩胸である。「そんなの当たり前」と思うだろうが、カラスの胸をカラス胸、ペンギンの胸をペンギン胸といわないのに、ハトだけ鳩胸という言葉があるのは、何か理由がありそうだ。

鳩胸とは前に大きく張り出した特徴のある胸のことをいう。実際のハトを見ても、確かにそうなっている。その鳩胸こそ、ハトをハトらしい体形に見せる重要なポイントであり、敵から逃げるために重要な役割をはたしている。胸が大きく張り出して発達しているのは、大きな筋肉があるからだ。なんとその割合は、体重の三一〜四四%にもなる。スズメは一六%くらいだから、いかに大きいかおわかりいただけるだろう。もし、これが人だったらと想像するのはやめたほうがいいかもしれない。体重の四割が胸筋なんて、マッチョにもほどがある。

鳩胸を構成する大きく発達した筋肉は、飛翔筋といって翼を動かすための筋肉だ。筋肉が大きいのだから、当然、力強く羽ばたいて高速で飛ぶことができるわけで、ハトの胸はいわば強力なエンジンであると思っていただければよい。一説では、巡航速度で六〇キロ、風に乗ると一〇〇キロは超えるというから、けっこうな速度である。この大きなエンジンがあるおかげでハトは高速で飛び、タカの猛チャージを振り切って逃げ延びることができるのだ。
地面にうようよいるハトの群れが、急にドババババと飛び立ってびっくりした経験はないだろうか。これもハトがタカに食べ尽くされない秘密の一つだ。ハトは、何か危険を感じると、鳩胸の強力なエンジンを使って瞬時に飛び立って逃げることができる。タカが急降下して襲ってきても逃げられるのだ。

それにしてもハトが飛び立つときの羽音は心臓に悪い。ハトが嫌いな人の理由に「怖い」というのがあるが、この飛び立つときにビックリさせられることが怖く思う理由の一つなんだそうだ。とにかく、わかっていても想像以上に大きな音なので驚いてしまうが、これは敵を威嚇する意味があるのではと私は思っている。あんな大きな音を立てて飛ぶ必要はないのに、わざわざ両翼を上下で打ち付けて音を出しているところを見ると、そう思わざるを得ないのだ。

また、仲間に危険を知らせる信号の役割もあるだろう。ちなみに、ハトの羽音が「ハトハトハト」と聞こえることから、ハトという名前になったという説がある。言われてみれば、確かにそう聞こえなくもない。

※本記事は『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

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【著者略歴】

柴田 佳秀(しばた・よしひで)

1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業。テレビディレクターとして北極やアフリカなどを取材。「生きもの地球紀行」「地球!ふしぎ大自然」などのNHKの自然番組を数多く制作する。2005年からフリーランスとなり、書籍の執筆や監修、講演などをおこなっている。主な著書・執筆に『講談社の動く図鑑MOVE 鳥』(講談社)、『日本鳥類図譜』(山と溪谷社)、『カラスの常識』(子どもの未来社)など。日本鳥学会会員、都市鳥研究会幹事。

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