「春の花」〜主役を美しく印象的に|山の写真撮影術(1)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。初回は、山に咲く春の花を美しく印象的に撮る方法を紹介します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=平のゆきこ

 

花を写す。それだけで一冊になるほど、難しくそして楽しいテーマだ。なかでも山の花は、当たり前ながらテーブルフォトでも花卉温室の撮影でもない。いい意味でもわるい意味でも自然という制約を受けながら、創意と工夫で仕上げてゆく楽しい撮影になる。

現場では日光が当たるなどして明暗の差が大きくても、まずは撮影。明るさは、画像編集ソフトで修正可能だと割り切ろう。ただし、白トビ(露出オーバー)は修正できないので注意。

カメラには多くのモードがあるが、絞り優先を使ってみよう。絞りを変えることで、被写界深度(ピントの合う範囲)が変わり、写真に変化が出てくる。絞り値を下げてボケを活かせば、ふんわりとした春らしい写真になる。清々しい風景の一部としての花を撮りたいときは、絞り値とともに感度を上げよう。シャッタースピードを速くでき、シャープでブレのない写真になる。

 

シロヤシオを望遠で捉える

夢見るような透明感貫くシロヤシオ。
白さの微妙な濃淡に緑が合わさる。
背景に新緑と紅花をにじませれば美しさが際立つ。
丹沢・檜洞丸にて。

①斜めのラインで流れを作る

構図には斜めのラインを活かす。これはフィルム時代からよく行なわれてきたことだが、斜めの線を活かして構図を意識すると、画面に流れや勢いがつく。絵を作りやすい構図だ。


②色の対比を見せる

春の花は華やかである。その華やかさを活かすには、色の対比がよいだろう。白い花を活かすために、背景をどういった色にするか。センスが問われる場面である。彩度を少し上げて、少し華やかさにエッセンスを加えて、見た目の印象に近くすることもある。


③レンズでボケを楽しもう

ここでは、背景をとろりとぼかしてみた。明るい望遠レンズほどぼかしやすいのだが、極端に明るい望遠レンズは、大きく重く、山には不向きだ。その上、値段も高い。極端に明るいレンズでなくても、望遠レンズは絞りを開放にすると、それなりにぼける。まずは安価な望遠レンズでいろいろ撮影してみてはどうだろうか。

カメラ:シグマSD1
レンズ:シグマ70-300mm f4-5.6 APO MACRO 238mmで撮影(35mm換算で357mm)
ISO:200
絞り値:F8 シャッタースピード:1/500秒
備考:三脚使用 ミラーアップ
絞り優先オート 風景モード

 

夕暮れのミツバツツジ

写真は光が描く絵画である。
雲の彼方から届く柔らかな日射しに、
淡い繊細な色の濃淡が彩られる。
ミツバツツジ咲く丹沢・檜洞丸より。

①暗い部分を明るく調整

この写真は画面内に大きな輝度差がある。普通に映すとせっかくの花が暗くなる。そこで、暗い部分は撮影後に明るく起こしてあげよう。フィルムではできなかったが、デジタルになって容易になった。撮影時に暗所を明るくする設定にしてもよいが、撮影後の現像で明るくすることもできる。


②太陽を入れる

昔のカメラでは、レンズのコーティングに難があり、積極的には画面内に太陽を入れにくかった。現在のレンズは無駄な反射が抑えられているので、極端に明るい光源である太陽を画面内に入れても、破綻することは少ない。積極的に取り込むことで、画面にメリハリが生まれる。

③背景を見せよう

花が主役だが、それを活かす脇役が大事になる。せっかく山に来たら、一枚は山と花の組み合わせを写しておきたい。その際には、被写界深度を意識して撮影しよう。被写界深度は絞りの違いでコントロール。なお、同じ絞り値であっても、焦点距離が短いほど被写界深度は深くなる。

カメラ:シグマSD1
レンズ:シグマ17-70mm f2.8-4 DC MACRO OS HSM 21mmで撮影(35mm換算で31mm)
ISO:100
絞り値:F22 シャッタースピード:1/3.3秒
備考:三脚使用 ミラーアップ
絞り優先オート 風景モード

 

コラム

接写で見える花のふしぎな形

花はグッと寄って撮るのもおもしろい。普段は気づかないふしぎなフォルムが見えてくる。

ただし、寄れば寄るほどブレに対する注意が必要だ。ブレの要素は2つ。被写体のブレとカメラの手ブレだ。被写体を少しでも止めるには、速いシャッタースピードが必要だ。そのためには感度を上げよう。カメラブレも、同じように高感度が効く。さらに手振れ補正機能もありがたい。以前なら三脚を立て、風が止むまで待ち続けたが、最新デジタルカメラならその努力をかなり簡略化できる。

また、一般には、接写するほど被写界深度は浅くなるが、カメラによっては接写でもピントの合う範囲を拡張する深度合成という機能もある。

山と溪谷2022年4月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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