身近な生き物の意外な事実 『野ネズミとドングリ タンニンという毒とうまくつきあう方法』

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評者=盛口 満(沖縄大学教授)

野ネズミとドングリ タンニンという毒とうまくつきあう方法

著:島田卓哉
発行:東京大学出版会
価格:3740円(税込)

 

時々、小学生を相手に授業をする。たとえば……と言って、ドングリを子どもたちに見せ、「ドングリを好きな動物は何?」と質問をする。すると、一斉に「リス!」という答え。ところが、リスはドングリを食べない。ドングリを食べ、かつ母樹の下から散布する働きをしているのは野ネズミの仲間だ。しかし、その野ネズミも、ドングリを迂闊に食べると死んでしまう。僕にとっても衝撃のこの事実を知ってからだいぶ時間がたつが、世間一般では、「ドングリといえばリス」という構図はまだまったく変化していない。だから、どのようにしてこの事実が解明されていったかというこの本の内容は、多くの人にとっては未知の物語だろう。

専門的な内容の本であるけれど、わからないところは飛ばして読んでも充分におもしろい。ドングリをリスが食べないのも、ネズミが食べて死んでしまうことがあるのも、ドングリにはタンニンという成分が含まれているからだ(ドングリの苦みの元)。一方、ネズミはこの毒成分を唾液と腸内細菌を使って、なんとか抑え込むことにも成功している(だからドングリの毒に馴れると食べることが可能になる)。この仕組みを明らかにするためには、ネズミの唾液を採取する必要があるけれど、ネズミの唾液を採取するのにも難問があって……。また、アメリカと日本ではドングリの成分に違いがある。アメリカのリスはドングリを食べる。ここらへんが「ドングリ=リス」の構図の出どころのよう。まだまだ紹介したりないが、字数が足りない。ドングリの季節の前に、必読!​​​

山と溪谷2022年5月号より転載)

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