昆虫研究に人生を捧げて 『マリア・ジビーラ・メーリアン 蟲愛ずる女』

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評者=池田菜津美(編集・ライター)

マリア・ジビーラ・メーリアン 蟲愛ずる女

著:サラ・B・ポメロイ&ジェヤラニー・ カチリザンビー
監修:中瀬悠太
訳:Kohtaroh 〝Yogi〟 Yamada
発行:エイアンドエフ
価格:3740円(税込)

 

17世紀のヨーロッパは自然科学の研究が革命的に発展した時代。ガリレオが地動説を訴え、ニュートンが万有引力を提唱し、キリスト教の教えから解放されるかのように新理論が次々と打ち出されていた。時期を同じくして、本書の主人公であるマリア・ジビーラ・メーリアンも昆虫学者の道を歩み始める。彼女が「すべてのイモムシは交尾を終えた蝶の卵からのみ生れ出る」と研究ノートに記したとき弱冠13歳。このときから、社会生活を差し置いて昆虫の研究と描写に一生を捧げることを決意したのだという。

本書はジビーラが描いた美しい昆虫画とともに、彼女の一生をつぶさに語っていくものだ。ジビーラの昆虫画はともかく緻密で、蛾のマユを作る極細の糸からタランチュラを包む細かい毛、蝶の鱗粉の質感まで細かに描き込まれている。どの絵もただ美しいだけではない。卵から幼虫、さなぎ、成虫までの過程を一枚の絵に収め、幼虫と食草などの相互関係を描き、昆虫学者が残した資料なのである。このような絵が描けるのは、彼女自らが昆虫を捕まえ、飼育し、観察していたからだ。

本書を通じて、当時の自然科学に対する評価や女性観、社会常識などを垣間見ることができるのだが、それらを覆しながら昆虫学者の道を突き進んでいくジビーラの姿に驚く。彼女が前人未踏の人生という冒険を続けたのは、昆虫という不思議な生き物を解き明かすため。その探究心と行動力から生まれた昆虫画は今でも輝き続けている。
 

 

山と溪谷2022年5月号より転載)

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