奥多摩歩きのお供にどうぞ 『奥多摩ハイキング案内』【書評】

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評者=熊沢正子(ライター・編集者)

奥多摩ハイキング案内

編:山と溪谷社
価格:1980円(税込)

 

登山が趣味というほど熱はないけど、たまには山を歩きたいし、できれば出先でおいしいものを飲み食いしたい、という人のための一冊だ。エリアもコースも人気の高い数カ所に絞られている。でも、行楽ガイドムックなどと趣が違うのは、例えば序盤十数ページにわたって小河内ダム建設の歴史や今に残るその痕跡がていねいに紹介されているところ。武蔵御嶽神社と狼信仰についても詳しい。読んでから行っても、帰ってから読んでも、ためになる。

店舗などの情報も新鮮なのがありがたい。ここ数年で奥多摩駅周辺はどんどん変わってきている(コロナ禍のせいで消えた店も含めて)。駅舎のリニューアルと前後して、以前は妙な臭いが漂っていた駅前トイレが掃除のプロ集団のおかげでピカピカ清潔になった。私はそれがうれしくて、登山口へのバスの時間より早めに行って、ゆっくり用を足してから、新顔の食堂で朝ごはんを食べたりする。帰りにはクラフトビールを堪能したり。そういう「登山前後」のヒントも盛りだくさんだ。他の駅や五日市・檜原方面にも本書で知って行きたくなった店が少なくない。

ひとつ気になるのが、冒頭で「奥多摩」を東京都域に限定していること。東京を横切る多摩川の奥が奥多摩。源流域の山梨県丹波山村と小菅村も入れてほしい。また、山地手前の霞丘陵や赤ぼっこ周辺(本書では長淵丘陵と呼んでいる)、秋川丘陵は、地元の感覚では「奥多摩」ではないんだけどなあ……などと多摩人の私はぼやいてしまう。いずれにしても、東京の山岳地帯を何倍か楽しむためのガイドブックだ。

 

山と溪谷2022年6月号より転載)

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