7月中旬~下旬はユウスゲが主役! 眺望抜群の夏の伊吹山を歩く

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伊吹山は花の名山として知られる山で、「イブキ」の名の付く固有種の花も数多い。そんな伊吹山の真夏を彩るのがユウスゲ。その花名のとおり、夕方から咲き始めるこの花を尋ねる登山を紹介する。

 

高山植物の宝庫である伊吹山は滋賀県と岐阜県にまたがる日本百名山の一座として知られる山です。四季を通じて楽しめる山ですが、ユウスゲの咲く時期の登山はいかがでしょうか。ユウスゲは多くの都道府県でレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に指定されている植物ですが、伊吹山では今でも夏に群生が見られます。

伊吹山は日本百名山の中では3番目に標高が低い山ですが、標高1,377mでありながら新幹線や名神高速から見える山容はボリュームがあり、我々の心に深い印象を残します。古い海底火山にサンゴ礁が形成された山のため、山の一部は石灰岩となっていて、冬の伊吹おろしと共に人々の生活に大きな影響を与えている山です。

ユウスゲはニッコウキスゲに似たラッパ状のレモン色の花


ユウスゲは、その名前のとおり午後3〜4時ごろに咲き始め、翌日の午前中にはしぼんでしまう一夜花なので、登山中に見ることは稀な花です。しかし伊吹山では3合目付近に群落があるので、開花時間に下山すれば鑑賞することが可能です。この時間に3合目付近を下山する登山計画を立てて、花と伊吹山登山を楽しんでみてください。

3合目でユウスゲを楽しむ伊吹山登山

工程:
伊吹登山口・・・三合目・・・五合目・・・伊吹山山頂・・・五合目・・・三合目・・・伊吹登山口(約6時間30分

⇒コースタイム付き地図はこちら

 

3合目でユウスゲを楽しむ伊吹山登山

伊吹山への主要な登山道は上野登山口からの表登山道です。登山口には民営の駐車場も多くあり、自動車でアクセスしても駐車場に困ることはほとんどないでしょう。バスでも登山口まで来ることはできますが本数が少ないので注意が必要です。また、タクシーを使えば2合目、あるいは(利用するタクシー会社によっては)3合目まで行くことも可能です。2010年まではゴンドラで3合目まで行くことが可能でしたが、現在は廃業しており、利用することはできません。

登山口で入山協力金(300円)を支払って、登山を開始する


入山協力金300円を支払ってから入山します。樹林帯を抜けると1合目。スキー場を登りつめると2合目です。この付近には民宿も存在しますので、出発時刻の遅い方は一旦ここに宿泊し、2日目に山頂へ向かうのもありかと思います。

2合目と3合目の間にある徳蔵山付近ではかつて有用な薬草が沢山採れ、絶好の草刈り場でもあったそうです。令和になった今も、根が抗炎症・抗潰瘍作用のあるクララが群生しています。根を口に含むと目が眩むほど苦いことから「眩草(くららぐさ)」という別名がついているそうです。

3合目手前では登山道の周りに草原が広がり、この周辺にユウスゲの群生地がある


3合目までくると東家とトイレがあります。ここでユウスゲの群生が見られるのですが、多くの登山者の登りの時刻ではまだ咲いていませんので、いったんスルーして下山時のお楽しみとすると良いでしょう。

5合目を過ぎるとつづら折りの一本道になりますが、視界も開けてきます。麓に目をやるとびわ湖の眺望も楽しむことができます。この辺りから少し歩きづらくなりますので行かれる方は足元に注意してください。

5合目からはつづら折りの登山道となる。日射しを遮るものはないので日焼け対策を忘れないようにしておきたい


露出している石灰岩は長年の登山者の踏み付けにより滑りやすくなっているものが多いので油断しないようにしましょう。また、夏の伊吹山は日差しが強く、体力を消耗しやすいので、適度に休憩を取りながら無理なく山頂を目指しましょう。

伊吹山の登山道には石灰岩がゴロゴロと転がっている。浮石に注意したい


山頂に到着するとドライブウェイからきた観光客もいるので人が増えますが、とても広いのでさほど気にならないでしょう。表登山道から見て売店の奥に日本武尊の像と山頂標識、三角点があります。伊吹山は日本そば発祥の地でもあるそうなので、この売店で名物の伊吹そばを食べるのもおすすめです。

広い山頂の中心にある日本武尊像

下山時は南側の霊仙山を望みながらとなる。こちらも山頂にカルスト台地が広がる名山だ


ちなみに織田信長がポルトガルの宣教師に命じて伊吹山の山頂付近に薬草園を造らせ、約3,000種の薬草を移植したという言い伝えがあります(「切支丹根元記」「南蛮興廃記」など)。真意は定かではありませんが、このため、ヨーロッパ原産で伊吹山のみに自生する植物もあるようです。

花穂の先端が虎の尾のようなオカトラノオ、この他に伊吹山ではイブキトラノオ、ルリトラノオを見ることができる


山頂でゆっくりしたら、登山道やご自身の体調に注意して下山しましょう。時間があえば、登りのときにはまだ蕾(つぼみ)だったユウスゲが咲きはじめていますので堪能してください。ユウスゲだけでなく、他にも多くの植物が見られますので、どんな花が咲くのか調べてから行かれると、より充実した山行になることでしょう。

16時のユウスゲ群生地、開花のピークは17時だがこの時間でも魅せられる姿だ

開花直後のユウスゲを接写する


伊吹山でのユウスゲの開花ピークである7月中旬から下旬の日没は19時前後です。遅くともこの時間までに余裕を持って下山完了するスケジュールを組んで登山するようにしましょう。なお、7月下旬に開催されるユウスゲまつりでは3合目までのバスも出るようなので、体力に自信のない方はそちらに参加するのも良いかと思います。

ユウスゲはニホンジカなどの食害を受けやすい花で、群落がみられる場所は限られています。マナーを守って鑑賞するようにしてください。

プロフィール

大西 智彦

滋賀県大津市在住。30代後半に入った2014年から本格的に登山を始め、全国各地の山に今も挑戦している。2022年から日本山岳ガイド協会認定・登山ガイドステージⅡ。福島県在住期間もあることから、関西エリア在住でありながら南東北や関東、尾瀬エリアでの活動経験も豊富。

⇒ホームページ

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