2022年夏山のコロナ感染予防を考える 〜山小屋での対策〜

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国際山岳医で、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)としても活動する千島康稔さんが、2020年、2021年の2シーズンで得た知見から、登山における新型コロナウイルス対策を再考。建前や理想だけではなく、実践可能で効果的な感染予防策を短期連載で紹介する。

監修=千島康稔、
構成=ヤマケイオンライン編集部

全国からの登山者が同じ空間で長い時間を過ごす山小屋。大自然の中で行なう登山では、山小屋滞在が屋内で過ごす唯一の時間といってもいい。各山小屋は宿泊定員を減らし、換気装置をつけたり消毒をこまめに実施するなど、ウイルス対策を講じているが、登山者側も実践すべき感染予防は多い。

 

山小屋で特に気をつけるべき「場所」と「行動」は?

到着してから翌朝出発するまでの間、宿泊者は山小屋でさまざまな行動をとる。医療アドバイザーとして実際に山小屋に滞在して、感染対策などをサポートしてきた千島さんによれば、山小屋滞在中にはいくつか感染のリスクが高い場所や行動があり、そこで宿泊者が確実な感染予防策を講じることが重要だという。

千島:2020年、2021年と北アルプスの大天荘や槍ヶ岳山荘に医療アドバイザーとして滞在させてもらいました。そこではスタッフに感染対策を提案してきました。山小屋で感染リスクが特に高いのは、

  • 飲食
  • トイレ
  • 就寝

の3つだと思います。

トイレについては誰もが「汚い場所」との認識を持っています。コロナ以前からトイレの使用前後での手洗い・消毒を心がけていると思うので、実際に感染するリスクはそれほど高くないでしょう。(山小屋のスタッフには、掃除時には防護服を着用するよう、充分注意しています)。

山小屋の食事は、基本的には街中での会食のときと同じ考えでいいと思います。夕食や朝食の時間は限られた短い時間であり、各山小屋では配膳の位置を工夫し、仕切りを設置したりして飛沫対策をとっています。さらに、宿泊者が入れ替わるたびに、山小屋スタッフが食堂のテーブルを消毒するなどして感染に注意を払ってくれています。

北アルプス・大天荘の配膳スタイル。
他人同士が向き合わないようジグザクの対面で
配置し、その間にパーティションを設置。
4人パーティは4人がけのテーブルにそのまま配席、
2人パーティは対面して座る方式で
感染対策を講じている(写真提供=大天荘)


また、仲間との登山の場合、黙食は現実的には難しいと思いますが、「周囲に気を配って大きな声での会話は避ける」(周りにいる、感染に慎重な人が不快に思わないように配慮する)ことが大切です。

マナーアップを呼びかける食堂の案内(大天荘)

 

盲点になりがちな談話室や屋外のベンチ

山小屋での飲食は食堂での食事のみとは限らない。早めに到着すれば、ビールを傾けながら午後の時間を仲間と過ごすことも多い。しかし、実はそんなくつろぎのひとときこそ、感染リスクが高いのだという。

千島:食堂はしっかりと感染対策がなされていますが、それ以外のフリースペースでの飲食時には注意が必要です。登山後のリラックスした雰囲気や、日常を離れた山小屋での解放的な気分が、ひとりひとりの行動をルーズにする傾向があるのです。

山小屋の談話室や外のベンチなどで、仲間や泊まり合わせたほかの登山者とおしゃべりを楽しむことがあると思います。しかし、前の使用者が立ち去ったあと、テーブルの消毒などはなされていないことが多いのです。飲食しながら会話をしていた場合は、テーブルの上などに多くの飛沫が付着しています。新たに着席するときは、自分たちでテーブルを拭くなどのひと手間をかけると安心でしょう。

また、飲食中は「黙食」が徹底されていない限り、マスクを外しての会話が行なわれていることになります。屋外でマイクロ飛沫が問題となることは少ないですが、屋外であっても目の前数十センチに長時間置かれていたものには飛沫が付着している可能性を考えましょう。特にテーブルの上に置いてあるものには要注意です。ほかの人の前にあったビールの缶や食品のパッケージごみには、やはり飛沫が付着しています。缶ビールの空き缶を誰かが取りまとめて捨てる場合などもあると思いますが、触れたあとには手の消毒をしておきましょう。

スマホの汚染にも注意が必要ですね。ついつい、「自分のスマホはきれい」と思いがちですが、食事や宴会の時にテーブルの上に置いてあったスマホは、食器や空き缶と同じように飛沫を浴びている可能性があります。自分の手と同じように、「いまスマホはきれいな状態なのか、汚染された可能性があるのか」を常に意識しておくのがいいですね。

リラックスのひとときも、感染対策は忘れずに
(写真=星野秀樹)

 

サコッシュやポケットに入れておきたい清浄綿

手指やテーブル、スマホなどをすぐに消毒するのに必要なのが消毒液。携行しやすいサイズのスプレーやジェルタイプが市販されているが、千島さんがおすすめするのは、消毒液を含ませた個包装の清浄綿だ。

千島:消毒に便利なアイテムとして、濃度0.05%の塩化ベンザルコニウム液を含ませた使い切りタイプの清浄綿があります。お弁当についてくるおしぼりと同じような個包装のパッケージですが、中味は消毒液を含ませたコットンです。スプレーやジェルも便利ですが、コットンタイプなら行動食を食べるときの手指消毒にも有効ですし、山小屋の談話室のテーブルなどをこれで拭けば消毒になります。

おしぼり感覚で使える清浄綿。
ドラッグストアで購入できる


使用されている0.05%塩化ベンザルコニウム液は、病院で傷の消毒に使っているものと同じです。肌への刺激を少なくするために、0.025%の商品も販売されていますが、新型コロナウイルスに効果があるとされているのは、0.05%以上です。ただし、あまり濃いものは皮膚には使えないので、0.05%のものが一般的です。いつでもすぐに使えるよう、サコッシュやポケットに入れておくといいですね。

就寝時の感染対策については、第3回でご紹介します。

 

プロフィール

千島康稔さん

国際山岳医、日本登山医学会専門医、日本救急医学会救急科専門医、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。医療従事者と山の専門家という二つの視点から、安全登山の普及に取り組んでいる。

時季彩山学舎(ときのいろどりさんがくしゃ)Facebookページ
https://www.facebook.com/ti.sangakusha/

2022年夏山のコロナ感染予防を考える

国際山岳医で、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)としても活動する千島康稔さんが、2020年、2021年の2シーズンで得た知見から、登山における新型コロナウイルス対策を再考。建前や理想だけではなく、実践可能で効果的な感染予防策を短期連載で紹介する。

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