2022年夏山のコロナ感染予防を考える 〜アクセスと登山中〜

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新型コロナウイルスのパンデミックから3年目を迎え、登山でも「Withコロナ」が定着しつつある。しかし、2022年夏山シーズンを迎えて、感染者数は全国的に増加傾向を見せている。国際山岳医で、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)として活動する千島康稔さんが、2020年、2021年の2シーズンで得た知見から、登山におけるコロナ対策を再考。建前や理想だけではなく、実践可能で効果的な感染予防策を短期連載で紹介する。

監修=千島康稔、
構成=ヤマケイオンライン編集部

千島さんは2020年、2021年の夏山シーズンやゴールデンウイークに山小屋に常駐。医師として感染対策をサポートしながら、登山者や、山小屋の業務におけるwithコロナのあり方を考えてきた。基本的な予防策は2020年に発表された日本登山医学会の提言などから大きな変更はないものの、現場で使えるちょっとしたアイデアや注意点などが蓄積できてきたという。

 

登山口までの交通機関で

―― 公共交通も平常通りの運行となり、登山口直行のツアーバスも再開されている。2022年時点であらためて知っておくべき注意点はあるだろうか。

千島:公共交通機関については、『街中での生活と同じレベルで構わない』といえます。

気になるのは、長距離の高速バスやツアーバスのように、長い時間同じバス、同じ座席配置で乗っている場合です。よく「バス内の空気は○分で全部入れ替わります」などとアナウンスされていますが、ずっと大きな声で会話している人たちがいて、その近くに座っていれば、バス全体の空気の循環とは別に、長時間その人たちのマイクロ飛沫を吸うことになります。

夏山へのアクセスに便利なツアーバス
(写真=PIXTA)


たとえとして、バスの中で線香を一本焚いている状況を想像してください。換気されているバス全体に線香の煙が充満することはありませんが、空気の流れの影響で、場所によってはずっと線香の煙が通り抜けていくところがあるはずです。

それほど濃度が高くないマイクロ飛沫でも、長時間吸い続ければ、吸い込む飛沫(ウイルス)の総量も増えて感染のリスクが高まります。電車や路線バスならば、場所を移動したりして避けることもできますが、長距離バスではできません。裏を返せば、充分な換気が行なわれている車内であっても、大声や長い時間の会話は避けるべきでしょう。これはマスクをしていても同じです。

 

行動中のマスク、登山道のすれ違い

―― 熱中症予防として、基本的に屋外ではマスクを外すことが奨励されるようになった。しかし、登山中にマスクを外していると、狭い登山道のすれ違いなどでとっさにマスクができないことも。何かよいアイデアはあるだろうか。

千島:これについては、私も考えていたところです。厚生労働省の指針では、「屋内では原則マスクを着用。ただし2m以上離れていて会話をしない場合はマスクを外すことも可。屋外では、原則マスクの着用は必要ないが、2m以内で会話をするときにはマスクを着用する」。2mという距離と会話の有無でわかりやすく示されています。

では、実際の登山道ではどうしたらいいのでしょうか。厚生労働省のパンフレットでは、「散歩などでの屋外のすれ違い時はマスクをしなくていい」となっていて、登山道でもこれに準じていいかと思います。ただ、急な登山道を登っているときなど、息が上がっている(呼吸が荒い状態)では、会話しているのと同じように飛沫やマイクロ飛沫が出ている可能性があります。その場合は、お互いに顔を背けるなどの配慮が必要かもしれません。また、実際に登山道を歩いていると、すれ違い時にマスクを着用する登山者も見かけます。コロナの予防策については、個人個人の温度差が大きく、気にしている人への配慮も、みんなが楽しく快適に登山をするためには大切だと思います。

もうひとつ、ちょっとした工夫として、挨拶の際に心配りをしましょう。従来通り、すれ違い時に元気よく「こんにちは」と声をかけてくれる方も多いです。山に入っていて解放された気分も手伝っているのだと思います。ただ、この挨拶のタイミングも注意が必要です。道を譲ってよけてもらったとしたら、すれ違いざまではなく、数メートル手前で「ありがとうございます」と声をかけたり、声は出さずにニコッと笑って会釈をしたり。すれ違い終わって数歩歩いたところで「ありがとうございました」と声をかけるなど、ごく近い距離での声掛けを避けるのがいいかと思います。

挨拶は近づき過ぎる前がベター


また、すれ違い時のマナーとして、2〜3人のパーティで道を譲ってよけているときに、ずっと会話している人たちもいます。狭い登山道で会話をしている人の真横を通過するのは、やはりちょっとイヤな感じがします。すれ違いで道を譲るときは、パーティ内の会話も一時やめるというのが相手への気遣いかもしれません。これについては、だいぶ前から私自身が登山の時に実践していますが、特に違和感はなく実行できています。パーティで行動していて、自分たちが道を譲るときには、「すれ違う間は、ちょっと話をやめましょうね」とメンバーに声をかけています。

すれ違いで、相手の吐いた息をひと呼吸ふた呼吸吸ったところで感染する危険は高くありませんが、2022年時点では必要なマナーといえるでしょう。

 

休憩中の飲食は

―― 食べ物にウイルスが付着すると危険、というのは常識。行動食など食品は各自で用意するという原則はわかっているけど、仲間と行動食を分け合ったり交換したりするのも山の楽しみ。個包装のお菓子ならシェアしてもいいのだろうか。

千島:最終的に口に入るものがウイルスに汚染されていなければ問題ありません。市販の小分けのパックのお菓子などならよいでしょう。手作りのお菓子となると微妙ですね。家族やごく近い人たちのパーティ以外ではシェアするのは避けた方がいいと思います。

登山中は鎖や岩場のホールド、ちょっとした立木などをつかむことが意外に多いものです。行動食などを食べる場合は、直前に手を洗ったりアルコール消毒したりしましょう。もしくは、口に入れる物に直接手を触れないようにして食べる(外袋を持って口の中に送り込むなど)がいいのでは。

自分の手が汚染されているかもしれないと考え、それを目・鼻・口の粘膜に触れさせないという基本的な対策でいいと思います。

仲間とシェアするなら、個包装のものが便利。
消毒液も活用しよう


第2回では、山小屋での感染対策について紹介します。

 

プロフィール

千島康稔さん

国際山岳医、日本登山医学会専門医、日本救急医学会救急科専門医、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。医療従事者と山の専門家という二つの視点から、安全登山の普及に取り組んでいる。

時季彩山学舎(ときのいろどりさんがくしゃ)Facebookページ
https://www.facebook.com/ti.sangakusha/

2022年夏山のコロナ感染予防を考える

国際山岳医で、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)としても活動する千島康稔さんが、2020年、2021年の2シーズンで得た知見から、登山における新型コロナウイルス対策を再考。建前や理想だけではなく、実践可能で効果的な感染予防策を短期連載で紹介する。

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