「山道」〜奥行きを写す|山の写真撮影術(5)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。今回は、地形によってさまざまに形を変える山道の撮影方法を紹介します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=平のゆきこ

 

道が延びている。自然の総体である山というものに、人が一歩を踏み出して、そして磨き上げた道。頂をめざすのか、峠を乗り越えるのか。あるいは山仕事の道か。登り下り右へ左へ。石の道もあればぬかるむ道もある。ハシゴを下り鎖に身をゆだねる。流れに脛まで浸かったかと思えば、途絶え途絶えの鉈目に先人の足跡を探す。山の道は千変万化。町の道とはまったく趣を異とする。それだけに、道そのものが醸す風景が、一つの絵、魅力いっぱいの被写体たり得る。

道を撮るときは、遥かに続くイメージを写し止めたい。例えば、手前を大きく写せば遠近感を強調できる。また、早朝や夕刻であれば、斜光線が影を作り、奥へと続く道をくっきりと浮かび上がらせられる。今回の作例では登山者の姿はない。しかし、登山者を入れてもおもしろい。静かな風景に動きが出てくるはずだ。そういったカットも狙ってもらいたい。

 

桟道の不安感を強調する

天空への桟道。燕岳から餓鬼岳への道は難所が連続する。
緊張する架空の桟道も山ならではの道である
天空への桟道。燕岳から餓鬼岳への道は難所が連続する。緊張する架空の桟道も山ならではの道である

 

①霧は入れすぎない

画面奥の霧。これは山深さの象徴でもあるのでわるくない。しかし、面積が増えてしまうと、あまり意味のない真っ白が増えてしまい、桟道の強さが打ち消されてしまう。霧の役割は雰囲気の小役としてだけ。ちょっとあればよい。


②あえて斜めのラインで不安定に

メインとなる桟道。手前から奥にのびるようまっすぐ写すことも可能だが、必要以上に安定した構図になる。ここでは多少斜めに振った構図で桟道の不安感をより強めることにした。求めるものは安定ばかりではない。


③中途半端に切って奥行きを出す

桟道がテーマである。この場合、撮影位置が少し手前だと桟道の末端が見えて、桟道が短く見えてしまう。画面手前で桟道を切ることで、まだまだ手前にも桟道が延びているよ、と思わせるのだ。

カメラ:ペンタックス K3
レンズ:シグマ 24mm F1.8
ISO:320
絞り値:f8 シャッタースピード:1/500
備考:絞り優先(-2/3補正)

 

道の存在感を表現する

夏の朝、遠き峰への誘い。彼方に槍ヶ岳を望む。
常念岳へと続く朝の道が浮き彫りとなる。蝶ヶ岳にて
夏の朝、遠き峰への誘い。彼方に槍ヶ岳を望む。常念岳へと続く朝の道が浮き彫りとなる。蝶ヶ岳にて

 

①山は脇役

テーマは道。極端に言えば、槍ヶ岳も稜線も全部なくても写真は成立する。とはいえ、憧れの槍は入れてみたくなる。しかしあくまでも主は道。しっかりと道を描き、槍は小さく。それでも槍の存在価値はしっかり出てくる。


②S字曲線を活かせ

写真は四角に風景を切り取る。つまり枠の決まった頑なさが前提となっている。それだけに、その中を曲線が走ると、がぜん印象が柔らかくなる。S字の微妙なバランスは柔らかさという生命力の元だ。


③明暗の差が写真に力強さを与える

斜光線が生み出す強く黒い影が、テーマとなる道をくっきりと浮き彫りにする。朝夕の時間ならではの明暗の対比が、風景にしっかりとしたメリハリをつけてくれる。暗部を大胆に取り入れてこそ、明部が生きてくる。

カメラ:ソニーα7
レンズ:シグマ 24-105mm F4 DG OS HSM | Art 撮影は30mm
ISO:100
絞り値:f10 シャッタースピード:1/60
備考:マニュアル、マウントアダプター LA-EA4使用

 

コラム

道端のお宝を発掘せよ

道があるからこそ、その道に付属するさまざまなモノがあり、それぞれ充分被写体となりうるよい顔をしている。道端の道祖神やお地蔵様といった時代を超えた石造物、ニヤリとしたくなるユニークな道しるべ、落石注意といった何げない警告。自然あふれる山道にも、人間の営為というものがひょっこり顔をのぞかせる。

そういったモノを無作為に(実際に無作為というのは難しいのですが)撮りためる。アートな山写真というより、記録に近い写真だが、その蓄積が作品に化ける。僕は『山火事防止』をかなり撮りためている。地域により年代により、設置者により、そこに無限のバラエティーが潜んでいる。そのうち発表したらおもしろいだろうと悦に入っているのである。

山と溪谷2022年8月号より転載)

関連リンク

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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