“推し”にキュンとする野鳥観察『なつのやまのとり』【書評】

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評者=四角友里(アウトドアスタイル・クリエイター)

なつのやまのとり

著:piro piro piccolo
発行:山と溪谷社
価格:1760円(税込)

 

「なんてすてきな歌声なんだろう」

「あっ、姿が見えた!」

山や森で鳥に出会うたび、いつも心が踊る。けれど声や姿から鳥の種類を見分けるにはハードルが高く、もどかしさをずっと抱えていた。でも、『なつのやまのとり』を読み始めると、なぜだろう、まだ実際に鳥たちを観察できたわけでもないのに、すでに鳥とすこし仲良くなれた気分になっている。

piro piro piccoloさんの絵と言葉でつづられる鳥の生態や特徴は、端的でわかりやすい。いや、図鑑的な「生態」という言葉はこの本には似合わず、むしろ〝推し〟の萌えポイントと表現したくなってしまう。「ここがかわいいの!」や「この仕草がおもしろいのよ~」という、キュンとしたり、クスッと笑ってしまう鳥たちの習性やエピソードが満載で、一気に身近に感じられるのだ。それぞれの個性がチャーミングに描かれているからこそ、押さえるべきポイントがしっかりと伝わり、なにより「鳥が好き」の愛と熱量が伝染して興味が湧いてくる。

また、夏の山で出会いやすい46種に厳選され、麓から頂上への標高に合わせた順番で紹介されていくのも、山好きにはぴったり(ちなみに最後に紹介されている鳥は登山者のアイドル!)。

花の名前を知ると心が通い合う気がしたり、カメラを携えると違う景色に気づけるように、山へ行く理由に鳥が加われば世界がぐっと広がりそうだ。

この本を通して出会うことのできた、その小さくも力強い存在は、きっと私たちに自然と命の尊さを教えてくれるだろう。

 

山と溪谷2022年8月号より転載)

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