神秘的な白骨林やダイナミックな景観を求めて、日本百名山の大台ヶ原を周遊する
台地状の山頂部に広がる白骨林や、絶壁の大蛇嵓など素晴らしい景観で知られる、関西随一の人気の登山地の1つである大台ヶ原。豊富な降水量に育まれた深い原生林、眼下に海を見下ろす壮観な景色を楽しめる周遊するコースを紹介する。
大台ヶ原(1,695m)は紀伊半島の東部、奈良県と三重県の県境付近の台高山系に位置する日本百名山の一座です。熊野灘からの距離が約20kmしかないため、海から湿気を含んだ空気が山頂部まで多く運ばれることから雲が多く発生し、年間降水量は屋久島にも匹敵する3500mm以上にもなる場所です。晴天となることの少ない山ですが、天気が優れないときでも楽しむことはできるのも特徴です。
大台ヶ原は準平原が隆起してできた地形で、かつては「魔の山」と呼ばれていました。これは豊かなトウヒの針葉樹林をもつ山は、昼でもなお暗い原生林だったからです。しかし近年では、伊勢湾台風(1959年)や第二室戸台風(1961年)によって倒木の被害を受けて林床の植生が大きく変化して笹が増えたことや、シカの増加による樹皮剥ぎや食害、また訪問する人の増加(シカの餌付けなど)によって森林環境が大きく変化。山頂部付近では特徴的な白骨林が見られるようになりました。
そのため、1986年からはトウヒの保全事業が始まり、現在でも自然再生事業が継続されています。こうした自然環境保護の歴史にも触れながら歩いてみてはいかがでしょうか?
大台ヶ原散策周回コース
行程:
大台ヶ原駐車場・・・日出ヶ岳・・・正木峠・・・正木ヶ原・・・尾鷲辻・・・牛石ヶ原・・・大蛇嵓展望台・・・牛石ヶ原・・・尾鷲辻・・・大台ヶ原駐車場(約3時間30分)
正木ヶ原の神秘的な景観と大蛇嵓からの絶景
大台ヶ原までのアクセスは自家用車かバスになります。大台ヶ原ドライブウェイを登り詰めるとビジターセンターのある駐車場(標高1570m)まで行けます。関西エリアの中では標高も高く、訪れた8月下旬でも涼しく感じました。
駐車場で準備を済ませたら東大台エリアに入山、最高峰の日出ヶ岳を目指して散策路を進みます。樹林に注意深く目を向けると木に網のようなものが巻いてあることに気付くでしょう。これは「ラス巻」きと呼ばれているもので、シカの食害による樹の枯死を防止するために設置されているものだそうです。
他にも幼木の周囲を柵(防鹿柵・ぼうろくさく)で囲んでいるタイプのものもありますが、いずれも環境省やパークボランティアの方々により作られ、森林が保護されていることがわかります。
40分ほど登っていくと展望台(テラス)のある分岐に着きます。ここからさらに階段を登ると日出ヶ岳です。山頂にも展望台があり、大峰山脈の山々や熊野灘を一望することが可能です。空気が澄んでいるなどの条件が整えば、6月中旬の早朝にはダイヤモンド富士もみることができます。
山頂で景色を楽しんだら次は正木峠に向かいます。正木峠に向かう道はゴヨウツツジ(シロヤシオ)が多く自生しています。開花時期は美しい白い花を楽しむことができますが、訪れた8月下旬は紅葉がすでに始まっていました。
正木峠の先には白骨林が広がる場所が続きます。立ち枯れした木々とミヤコザサがつくる神秘的な景観の中を堪能しながら正木ヶ原に向かい進んで行きましょう。実はこの景色は、年々立ち枯れている木が倒れてきているため、いつまで楽しめるのかわかないとも言われています。
正木ヶ原には片腹鯛池(かたはらたいいけ)の伝説があります。伝説とは――、吉野から伊勢へ抜けようとした源義経がここで塩干し鯛の半身を食べて、残った身で先の無事を占い、片身の鯛を地面に落とすと、鯛の形の池を残して干鯛は池の底に没したとされる話です。この話には「池に半身を入れたら生き返った」などの諸説ありますが、実際に池はこの場所に存在しています。
さらに先に進み、牛石ヶ原の神武天皇像を前を通って、大地の先端まで行くと大蛇嵓(だいじゃぐら)です。岩場の先端に立つと足がすくむほどの大絶壁で、正面には激しい起伏の地形と大峰山脈の八経ヶ岳、釈迦ヶ岳、山上ヶ岳などの大パノラマが広がっています。安全に注意しながら記念撮影をしたい場所です。
大蛇嵓からは尾鷲辻まで引き返して、尾鷲辻から駐車場へと戻るルートを取ります。シオカラ谷を経由して周回するコースもありますが、吊り橋からの登り返しがきついので、体力次第でコース選択すると良いでしょう。
大台ヶ原には、今回紹介した東大台エリアだけでなく、西大台エリアや大杉谷コースもあります。西大台は利用調整地区で、立入申請が必要になりますので事前によく調べてから行くようにしてください。
大杉谷コースは大変素晴らしいですが、コースが長いので山小屋への宿泊が必要です。登山口へのアクセスのためにはタクシーの予約が必要となります。
プロフィール
大西 智彦
滋賀県大津市在住。30代後半に入った2014年から本格的に登山を始め、全国各地の山に今も挑戦している。2022年から日本山岳ガイド協会認定・登山ガイドステージⅡ。福島県在住期間もあることから、関西エリア在住でありながら南東北や関東、尾瀬エリアでの活動経験も豊富。
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