あったらいいなを全部乗せ!いろんな意味でアンリミテッドなバックパック オスプレー/アンリミテッドアンチグラビティ64|高橋庄太郎の山MONO語りVol.96

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、オスプレーの「アンリミテッドアンチグラビティ64」です。

文・写真=高橋庄太郎

2022年はユニークなバックパックがいくつも登場した。とくにテント泊に向く大型パックにはおもしろいものが多く、そのひとつがこのオスプレー「アンリミテッドアンチグラビティ64」である。なにしろ、モデル名に「アンリミテッド(制限がない、無限の)」という単語が入っているくらいで、このバックパックをじっくり見ていくと、その言葉はけっして伊達ではないことが理解できるはずだ。

さて、このバックパックはサイズがS/M、M/Lとふたつあり、モデル名に入っている「64」LはS/Mサイズで、重量2.39㎏(レインカバーを含まず)。M/Lサイズは実際には67Lも入り、重量は2.49㎏である。

女性用モデルも用意され、同様にサイズはふたつ。容量はそれぞれ3Lずつ低くなっている。

では、ここからはアンリミテッドアンチグラビティ64の特徴を具体的に把握し、背負い心地や使い勝手のよさをチェックしていこう。だが、このモデルは細かな工夫がありすぎて、文字数がいくらあっても説明しきれないくらいユニークなのである。そこで今回は仕方なく、とくに注目すべき特徴とディテールに絞ってお伝えしていく。

 

背面構造と各種ハーネスをチェック

まずは、荷重を支え、背負い心地を左右する背面構造と各種ハーネスだ。

背面パネルには目の粗いメッシュが使われている。

ここで僕は“背面”と書いたものの、実際はヒップハーネスからショルダーハーネスまでが一体化され、実際は“背面”の範疇を大きく超えたメッシュパネルとなっている。かつ非常に弾力的で、一度背負ってみるとわかるが、体を包み込むようにフィットするのだ。

とくに荷重がかかる腰の上はメッシュパネルを重ね、さらにクッション性を高めている。

この部分のメッシュ素材は滑り止めのような質感があり、バックパックが体からずれにくくすることにも貢献している。

腰回りの部分を上から見ると、以下のような感じになる。どのように腰にフィットするのかイメージできるだろう。

ただ置いただけで、このような楕円形になるのだから、いかに立体的に設計されているのかがわかる。

背面の部分とヒップハーネスとの連結部分もおもしろい。

目の粗さが異なるメッシュを組み合わせ、内側が空洞になる構造なのだ。これにより弾力性が高まってフィット感が向上し、同時に通気性も格段に高められ、蒸れを抑えられるのである。

通気性のよさは、背面も同様。フレームの上にメッシュパネルを張ることで、その下に隙間を空け、外部の空気を呼び込んでいる。

また、サイドの部分に「Y」字型のマークがいくつか付けられているのがわかるだろうか? これは背面長を調整するときの目印。今回テストに使っているS/Mサイズの場合、背面長は40.5~51.0㎝の幅で調整可能だ。

テストの際は好天で、歩いているだけで汗が流れてきた。

そんなとき、このように背面がメッシュパネルのバックパックは背中の汗濡れが少ない。とくに感心したのは、ヒップハーネスで押さえられている腰まわりの汗濡れまでもが少なかったことだ。やはりメッシュ素材で立体的に作られているからだろう。

ところで、アンリミテッドアンチグラビティ64のヒップハーネスにはスライド式のパッドが内蔵され、それを引き出すことでヒップハーネスの長さの調整ができるようになっている。

しかし、上のカットでは少しわかりにくいかもしれない。というのも、ヒップハーネスを僕の体に合わせると、パッドを引き出さなくても十分に腰回りの直径に長さが間に合うからだ。

もっと正確に言えば、パッドを引き出すと長くなりすぎて、むしろ体に合わなくなってしまう。僕は身長は177㎝あり、腰回りはかなりゴツい。その僕がM/Lサイズよりも小さいS/Mサイズを背負っても、パッドを引き出さなくて済むのだから、大半の人はこのパッドを引き出して使う必要はないように思える。

後述するが、このバックパックのサイドポケットはかなり大きく、その大きさに引っ張られて、ヒップハーネスも一般的なバックパックよりも大きく、長く設計されているのかもしれない。

そんな点が気になるものの、実際に背負ってみると、そのフィット感のよさには驚くばかりだ。

先ほど、僕はこのバックパックのことを“体を包み込むようにフィットする”などと表現したが、それよりもさらに適していると思った表現は、“柔らかに体へはまる”である。それほど立体的に作られたウエスト部分の“隙間”に体を組み合わせていくような感覚なのだ。

フィット感を高める工夫は、ショルダーハーネスにもある。それも他には類を見ない、非常に独特な構造だ。あたかもハーネスが内側と外側の二重のようになっているのである。

奥のハーネスは外側(上)のハーネスを引き出した状態で、手前は引き出していない状態だ。

角度を変えてみると、以下のようになる。

こんなハーネスのバックパックを背負ったときの状態をイメージできるだろうか?

そんなわけで、実際に背負った状態がこちらになる。

内側(下)のハーネスは、一般的なバックパック同様に肩へフィットし、外側(上)のハーネスはバックパックの上方に連結しているのがわかるだろう。

じつは、僕が外側(上)のハーネスと称しているものは、一般的なバックパックで言えば、“ロードリフターストラップ”などと呼ばれ、バックパック本体とショルダーハーネスを連結し、フィット感を調整するストラップに当たる。このバックパックは、そのストラップを肉厚のハーネス的存在にまで進化させたものといえよう。

幅が広いためか、バックパックを背中に引き付ける力は高く、横揺れを抑える効果も強いようだ。だが一方では、ここまでゴツいものにする必要があるのだろうかという疑問も生じる。この部分は体に触れるわけではないのだから、たんに幅が広いベルトでも同じ効果がありそうだし、そうすれば重量も軽くなるような気もする。だが、そう思うのは、僕がこのパーツの効果を理解し切れていないだけかもしれない。

ともあれ、総合的なフィット感は上々だ。

テント泊用の荷物をたっぷり入れても、さほど重くは感じないのがすばらしい。

また、体のどこかに違和感を覚えることもない。

背中、腰、肩へと、荷重の分散がうまくできているからだろう。

 

各種ポケットにも使いやすさや工夫が多数

アンリミテッドアンチグラビティ64は、ポケットや内部スペースへのアクセス方法も気が利いている。

本体の左右に作られたポケットは、非対称。背負ったときに体の左側に来るほうは、ストレッチ性の大きなサイドポケットがあり、腰元にもファスナーで閉じられる大きめのポケットが設けられている。

一方、背負ったときに体の右に来るほうは、ストレッチのサイドポケットのみだが、左側のサイドポケット以上のサイズがあり、上部と横の二方向からモノを出し入れできるようになっている。上の写真(右)で言えば、ポケット上部から三角形に見えている白いモノと、その下の赤いボトルは、じつは同じポケットに入っているものなのだ。

ヒップハーネスの上のポケットは巨大だ。他のブランドのバックパックでも、ここまで大きいポケットは珍しい。マチがあって立体的でもあり、スマートフォンもすんなり収まるサイズ感である。

テストの間、僕は薄手のウインドシェルを丸めて入れていたくらいで、非常に重宝した。

先ほどボトルを入れていたサイドポケット下部の開口部は、手を伸ばしやすい位置にある。

だからこそボトルを入れやすいわけで、荷物を降ろさなくても簡単に飲み水を補給することができる。

アンリミテッドアンチグラビティ64でもっともおもしろいポケット的な収納部分は、バックパック最上部のリッドであろう。

一見では、それほど変わった形状ではないように見えるだろうが、一般的なバックパックのようにフロント側のストラップで固定されてはいないのが異なる点だ。

このリッドを上から見ると、以下のような状態になる

ポケットが二重構造になっていて、上下のポケットで仕分けできるのだ。もっとも、この手のリッドのポケットは珍しくもないのだが……。

しかし、このリッドはなんと完全分離でき、そのままヒップバッグになるのである。

そもそもバックパック本体はリッドなしでも完結するデザインで、その上に立派なヒップベルトが乗っかっている、ともいえる。

ヒップバッグは容量も5Lとたっぷりで、着用時の安定感もなかなかだ。けっして“リッドがヒップバッグになる”というレベルではない完成度である。

これを単体で販売をしても、それなりに人気が出るに違いない。

しかし、このリッドを、バックパック本体に連結して使う際に、僕は問題を起こしてしまった。

リッド部分は基本的に左右のストラップでバックパック本体へ固定する仕組みだ。だが、それだけでは前後にズレる恐れがあるため、正面でもフックをループに通して追加の固定を行なう。

その作業にはひと手間かかり、それがちょっと面倒だった。しかし、手間がかかることが問題なわけではなく……。

じつは、そのフックを僕は壊してしまったのだ。

大型バックパックを使用している方は理解していただけると思うが、バックパック地面から持ち上げたり、位置を変えたりする際、手で持ちやすい位置にあるリッドに手をかけることは珍しくない。僕もいつものようにリッドに手をかけてバックパックを持ち上げようとしたのだが、その際にバックパックの全重量がそのフックにかかってしまい、樹脂製のフックが簡単に欠け、弾け飛んでしまったのだ! 

メーカーではリッドのフックに荷重がかかることを想定していないようだが、この部分にフックをつけるならば、簡単に破損する樹脂製ではなく、金属製であればよかった……。破損させたことを申し訳ないと思いながらも、やや釈然としない気持ちにもなるのであった。

 

収納性をチェック

話を変えて、バックパック本体の収納性を見てみたい。

上の写真は、アンリミテッドアンチグラビティ64の下部だ。いちばん下には小さなポケットがあり、その中にはグリーンのバックカックカバーが内蔵されている。そして、その上の黒い部分はU字型にフラップで覆われている。

以下はフラップのサイド部分をまくり上げた状態で、長いファスナーが取り付けられていることがわかる。

その上に見える隙間はフロントポケットだ。このとき、僕はイエローのレインウェアを入れていた。

フラップの下のファスナーをすべて開くと、メインの荷室はフルオープンする。

とくに珍しい仕様ではないが、荷物が簡単に取り出せ、使いやすい。

フロントポケットのファスナーのさらに上の最上部には止水性のファスナーが取り付けられており、先ほど説明したヒップバッグになるリッドを取り付けたままでもメインの荷室にアクセスできる。

だから、どちらかのファスナーを開けば荷室のすべてにアクセスでき、いかなるものでも瞬時に取り出すことが可能だ。このように上部も下部もU字型に開くバックパックは珍しく、荷物の出し入れの簡単さではトップクラスのバックパックかもしれない。

 

驚きの“おまけ”

最後にアンリミテッドアンチグラビティ64が“アンリミテッド”であることを証明する“おまけ”をもうひとつ紹介しておきたい。それは付属品の「カスタムエアポータートラベルカバー」だ。

これはパッカブル仕様で、収納時はA4サイズよりも小さい。だが、これを広げると……。バックパックが丸ごと入る巨大な収納袋になってしまうのである。

こちらはバックパックを入れ、裏から見た状態だ。たんなる袋ではなく、肩にかけるためのワンショルダーのハーネスまでつけられていることがわかる。

”エアポーター”という単語が入っているくらいだから、飛行機に乗るときにアンリミテッドアンチグラビティ64をこの袋に入れ、破損や紛失、盗難に備えるのだろう。たしかにあれば便利だが、まさか純正の備品として付属しているとは驚くばかりである。これが付属するために販売価格が上がるならば、ヒップバッグになるリッドとともに、これを別売りしてもいいのではないかと思ってしまう。

じつはここまでお伝えしていなかったが、アンリミテッドアンチグラビティ64の価格は、なんと税込み105,600円! 正直なところ、“誰が買えるの?”というスゴすぎる値段だ。しかし、せめてリッドとカスタムエアポータートラベルカバーが別売りになれば、8万円台に抑えられるかもしれない。それでも十分にビックリ価格なのだが。

 

まとめ:価格にも充分見合った充実の機能

そんなアンリミテッドアンチグラビティ64は、たしかにすばらしい背負い心地を実現し、画期的なさまざまな工夫を搭載していた。さらには飛行機に預けることまで想定し、そのためのカバーまで付属する。そのうえ、ここでは書ききれなかった工夫もまだまだ隠されているのである。

僕はついさっき、付属品を減らせば8万円台になるかもしれないと述べたばかりだ。しかし一方では、これだけ手の込んだモデルが10万円台に抑えられていることも不思議でならない。もしかしたらアンリミテッドアンチグラビティ64は、たんなるオスプレーのフラッグシップモデルのひとつなのではなく、採算度外視、全精力をつぎ込んで作り上げた、はるか未来を見据えるモデルなのかもしれない。

 

 

今回のPICK UP

オスプレー/アンリミテッドアンチグラビティ64

価格:105,600円(税込)

メーカーサイトへ >>

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
Facebook  Instagram

高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

編集部おすすめ記事