ネパール・ヒマラヤ~実践編 遠征隊が歩いた「エベレスト街道」を歩こう!
世界最高峰の山と言えば「エベレスト」。エベレスト登頂の起点となるベースキャンプまで続くキャラバンルートは、「エベレスト街道」と名付けられ、世界のトレッカーの憧れの1つとなっている。今回はエベレスト街道の今をじっくりお伝えします!

世界中から数々の遠征隊が歩いた「エベレスト街道」を歩こう
ネパール・ヒマラヤの山々の中で最も有名な山と言えば、エベレストであることに異論を挟む人はいないと思います。
この世界最高峰の山への挑戦は、今から100年ほど前となる1920年代ごろから始まっていて、国をあげての挑戦が長きにわたり続きました。そしてエベレスト登頂の起点となるベースキャンプまで続くキャラバンルートは、そのころから「エベレスト街道」と呼ばれるようになったのです。古くはヒマラヤ山脈を越えたチベットとの交易ルートとして栄え、シェルパ族をはじめとする高地民族たちの生活道でもあった道、エベレスト街道――。
1953年にイギリス登山隊により初登頂がなされた後も、エベレスト登頂を目指す登山者は絶えず、ヒマラヤ登山の歴史と文化が根付いたネパール屈指の街道となっています。そして現在ではエベレストへの登頂目的ではなく、トレッキングを楽しむ人たちが大勢いる道へと変貌を遂げています。

街道沿いのいくつかのポイントからエベレストを展望することができるため、その姿を一目見ようと世界中から多くのトレッカー達がやってきます。今回はエベレストの展望を目的としたトレッキングにスポットをあて、街道沿いの見どころや最新情報をたっぷりと紹介したいと思います。
★世界の屋根ネパール・ヒマラヤの麓でトレッキングを楽しもう~入門編
エベレストをはじめとするクーンブ山群の名峰群を一望できるエベレスト街道
それでは、まずはエベレスト街道の概要と見どころを、順を追ってお伝えしましょう。簡単に行程を紹介すると以下の通りとなります
ルクラ(2,840m)・・・ナムチェバザール(3,440m)・・・タンボチェ(3,870m)・・・カラパタール(5,540m)
エベレスト街道の起点となるのは標高2840mのルクラ。首都カトマンズから飛行機で20分ほど、定期便もある場所ですが、到着する空港にまず驚くことになるでしょう。小型の山岳飛行機が着陸する空港は、急峻な山の中腹に少しだけ広がる台地、わずか460mの滑走路が設けられているだけの場所なのです。

スリル満点の着陸(離陸時も)を味わいながら到着するルクラは、エベレスト街道のスタート地点ということもあり、多くのロッジや登山用品店などが軒を連ねています。街道沿いの物資は、ほとんどがルクラに飛行機で届けられているため、ここから馬や人力で奥地に運ばれている様子を見ることができるでしょう。
そんなルクラから最初に目指す地は「ナムチェバザール」です。ナムチェまでの道のりは「ドゥードゥー・コシ」と呼ばれる深い渓谷沿いに進みます。途中にサガルマータ(エベレスト)国立公園の入園ゲートがあり(ここからは先は世界遺産に登録されている)、ここからいくつもの吊り橋を渡り、徐々に標高を稼いでいくと到着します。

ナムチェバザールは標高3440mにあるエベレスト街道で最も大きな街なので、耳にしたこともあるという人も多いでしょう。チベットとの交易で栄えた場所であり、昔は標高の低いネパールからチベットには野菜や米など、一方チベットからはヒマラヤで採れる岩塩が運ばれていたそうです。今日では多くのトレッカーや遠征隊で賑わいをみせている場所で、自動車道路が通っていない場所とは思えないほど発展した街になっています。

ナムチェバザールから、さらに標高400mほど登る場所にある「シャンボチェ」という広い丘にでると、ようやくエベレストをはじめとするクーンブ山群の名峰群が一度に姿を現します。シャンボチェの丘へはナムチェを起点に日帰りで往復できるので、エベレスト街道を最短日程で訪れるトレッカーは、ここシャンボチェが目的地となります。
シャンボチェから見るエベレストは、まだまだ遠望で小さいものの、そのほかにもローツェ、アマダムラム、タムセルクといった名峰群の展望が広がり、迫力満点です。

最終目的地のベースキャンプ、標高5540mの「カラパタール」へ――
ナムチェバザールよりさらに2日かけて奥に進むと、チベット仏教の大きな僧院(ゴンパ)が建つタンボチェに着きます。近づくにつれ迫力を増すエベレストの展望はもちろんのこと、少し街道を外れて立ち寄りをするのも良いでしょう。例えばタンボチェの裏手にあるラムガン・ピーク(4198m)に登ると、世界第5位のマカルー(8463m)を望むことができます。

そして、この辺りまで来ると、宿泊高度が富士山よりも高い場所になります。そのため高山病の対策が重要となってきます。
タンボチェより先は、さらに標高が高くなり、エベレストにも近づいていきます。そして現れるのが、エベレストを最も近くで展望できるピークが標高5,540mのカラパタールです。カラパタールから望むエベレストは圧巻の一言で、その昔ヒマラヤが海の底であったことを証明する「イエローバンド」と呼ばれる地層も肉眼ではっきりと見ることができます。

ここまで来るのが、エベレスト街道を歩くトレッキングでは最長となり、終着点であるエベレストベースキャンプは目と鼻の先です。なお、ここまで来ると宿泊高度もさらに高くなるため、十分な体力と防寒対策、高山病の対策が必要となるでしょう。
エベレスト街道で不安なこと「高山病」「寒さ」「清潔感」の実際
ヒマラヤ・ネパールは、他の海外登山・トレッキングに比べて不安要素が多いと考えている人も多いので、代表的な3つの不安要素について説明しておきます。
その1:高度障害、高山病、高度順応
前回の記事でも説明したとおり、ネパール・ヒマラヤのトレッキングは技術的にハードルの高いものではありません。日本で登山を日ごろから親しまれていれば十分にチャレンジできます。ただし、最奥の「カラパタール」は標高5,540mとなるので、高度障害については知識・対策が必要になります。
高度障害の原因を簡単に説明すると、
- 標高が上がるにつれ空気中の酸素濃度は徐々に低くなる
- それに伴い体内を流れる血液中の酸素濃度も低下
- 頭痛や下痢などの症状が出てくる
となります。高度障害自体は誰にでも起こりうることなので、最小限に抑えることが深刻な高山病を防ぐことになります。最良の対策方法は徐々に身体を薄い空気に慣らすこととなり、これはエベレスト街道を歩きながら行うことができます。これが「高度順応」です。
エベレスト街道は、幸いなことに急激な標高差が生じる地形ではないため、高度順応しやすいルートといえます。ゆっくり行動すること、食事量を制限すること、水分補給を普段よりも多く採ることなどで、高度順応はさらにしやすくなります。高所に慣れることはトレッキング中にできることで、決して高所経験が豊富な人たちが訪れる場所ではありません。
もちろん歩く体力は必要となりますが、これは日本の山を歩く力があれば十分です。
その2:ベストシーズンは? 雪対策・寒さ対策は?
ネパールには乾期と雨期があり、山を展望するのならやはり晴天率の高い乾期(10月~5月)がおすすめのシーズンです。
しかし真冬となる12月~2月ごろは(ネパールは北半球に位置する)、標高4000mを越える高所では気温が低く、また積雪の可能性もあるため、外したほうが良いでしょう。
ネパールは日本に比べ緯度が低いため、森林限界も高く、標高3800mくらいまで樹林に覆われています。そのため日本の同じ時期の山に比べると気温は高く、積雪もないため、特別な装備は必要ありません。
朝晩は気温が下がるため防寒装備さえしっかりと準備すれば大丈夫です。
その3:清潔感、文化度は? ⇒自動車以外は何でもあり!?
エベレスト街道は、トレッカーの増加に伴い、街道沿いのロッジも急速に発展してきています。ひと昔前まではテント泊でしたが、今では最奥のカラパタールまですべてロッジ泊りで行くことができます。
比較的短期間で訪れることのできるナムチェバザールまでであれば、さらにワンランク上のロッジもあり、ホテル並みのベッドとシャワー、トイレ付のお部屋に宿泊することができます。

質素で汚いイメージのあったネパールのトレッキングはもはや過去のもの。食事もバリエーションが豊富で、トレッキングのひとつの楽しみとなるでしょう。
電源を完備しているロッジもあり、カメラのバッテリーなどを充電することが可能です(多くが有料)。さらに近年ではWi-Fiを提供するロッジもあります。今や、エベレスト街道にないものは自動車道くらいなのです。

体力や日数にあわせてさまざまなトレッキングをチョイスできるのも、エベレスト街道の特徴です。自分自身の足で歩き、エベレストを目にしたときの感動は、なかなか言葉では説明できません。登山愛好者なら、ぜひ一度は味わってほしい体験です。
プロフィール
アルパインツアーサービス株式会社
マッターホルン北壁の日本人初登攀を成し遂げた芳野満彦(アルパインツアー元会長)が、1969年に日本で初めてヨーロッパ・アルプスへのハイキング・ツアーを実施して以来、約半世紀にわたり、世界中の山岳辺境地の山旅を企画、実施してきた。「トレッキング」という言葉を日本に定着させた、世界の山旅のパイオニア的存在。
小林 博史
アルパインツアーサービス株式会社/本社営業部。同志社大学山岳部出身。学生時代にはヒマラヤ8,000m峰の登頂経験を持ち、未踏峰の頂きも目指した根っからの山男。持ち前の語学力を活かし、ジョン・ミューア・トレイルをはじめとした世界各地のロングトレイルや、キリマンジャロ登山、スイスやカナダのハイキングまで、年間100日以上、ツアーリーダーとして「世界の山旅」を案内している。
〝鉄道オタク〟の一面もあり、日本中のあらゆる路線を制覇することも夢のひとつ。
世界の山旅・絶景への誘い
圧倒的な景観、独特の文化など、世界の山旅の醍醐味は無限大。海外登山を知り尽くした山センパイが、さまざまな体験話と美しい写真を交えながら、魅力的な海外の山を紹介。
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