自然のなりたちに一歩踏み込んだ知的観光のススメ『日本の自然風景ワンダーランド』【書評】
評者=西野淑子
山を歩いていると「どうしてこうなった?」と思うものにたびたび遭遇する。東北・葛根田川〜大深沢を遡行したとき、青白いナメ床や赤茶色の岩壁が現われ、「きれい!」と声をあげながら「なぜここだけ岩がこんな色に?」と思っていた。
本書は「頭を使った観光旅行をしよう」というテーマで、地理学者の著者が知的観光の楽しさを提案する。全国53カ所の「風景の不思議」を取り上げてその謎解きをしており、単に地形や地質、植物の名前を列挙するのではなく、なぜそうなっているのかを、写真や図解を交え解説している。
地質や植生などの専門用語が随所に現われ、正直少し難しいと感じるかもしれない。だからまずは自分が行ったことのある場所の項を見てほしい。私はまず鳩ノ巣渓谷から読んだ。両側が切り立った狭い谷はなぜできたのか。解説の内容が自分の見た風景とともにすんなり頭に入る。さらに行ったことのある場所を探して読み進める。三浦半島、千畳敷カール、谷川岳……風景の謎がひもとかれていくのは楽しい。もっと知りたくなる。
目に入った自然風景を「なぜ?」と思うことで、登山はさらに楽しく深いものになっていくだろう。本書は「なぜ?」と思う目を養うきっかけをくれる導きの書だ。
評者=西野淑子
にしの・としこ/関東近郊を中心に山を楽しむフリーライター。著書に『東京近郊ゆる登山』(実業之日本社)ほか。
(山と溪谷2022年10月号より転載)
登る前にも後にも読みたい「山の本」
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