専門家オススメ!南アルプス南部の山々を眺められる、とっておきの展望スポット10選
麓から見える南アルプスの山としては北部の鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳があるものの、南部に至っては麓からよく見える山はほとんどない。なかなかその姿を簡単に見せてくれない、南アルプス南部の山々を眺められる場所とは――。
写真・文=岸田 明
北アルプスは麓からよく見える山々が多い。そのため、例えば爺ヶ岳、蝶ヶ岳、白馬岳などは、山肌に現れる雪形が、山名由来の第一の理由になっているといえる。一方、赤石岳や聖岳に代表されるように、南アルプス南部の山の大半は、懐に流れている沢の名前からその名が由来している。これはひとえに、麓から見えることがほとんどないためであろう。しかし、なんとか南アルプス南部の山を眺めたい!という山岳展望マニア向けに、今回、比較的手軽に訪れることのできるいくつかのおすすめスポットを紹介したい。

ちなみに南アルプス南部のスカイラインを明瞭に確認するには、稜線部に積雪があり空気の澄んだ初冬がベストシーズンだ。しかしこの時期、場所によっては積雪となり、冬用装備が必要となる場合があるので注意したい。またアクセス道路の閉鎖や規制がかかる場合もあり、歩行によるアクセスを余儀なくされることもある。事前に情報収集し、しっかりとした準備で臨みたい。一方、夏など気温が高い時期は、10時を過ぎると雲が湧きやすいので、こちらも頭に入れておきたい。
①ヘブンスそのはらスキー場 (長野県阿智村)

右は深南部・中ノ尾根山までの大パノラマ(12月)
西からの南アルプスの眺望としては、中央アルプス千畳敷があまりにも有名であるが、ほかには本格的登山になるが、中央アルプス南部の越百山も素晴らしい。容易に南部の全体像を見るには、やや遠いが恵那山近くのヘブンスそのはらスキー場が最適だろう。上写真は、荒川岳から深南部の中ノ尾根山まで写っているが、実際には北は鋸岳、南は高塚山まで見ることができる。
アクセス情報:通年ロープウェイとリフトが利用できるので、冬季もスノーシューなどでスノーハイキングが可能だ。(ただし、11月21日から12月22日までロープウェイ点検整備のため休業。)
②陣馬形山 (長野県中川村)

そして右に奥茶臼山までの展望(12月)
伊那谷から直接立ち上がっている陣馬形山(じんばがたやま)はかつて狼煙台があった山で、北部の鋸岳から南部の奥茶臼山までの展望が得られる。目を西に転ずると、中央アルプスの眺望は筆舌に尽くしがたい(山と溪谷2022年11月号参照)。
アクセス情報:12月2日より林道は冬季閉鎖。歩行の場合は、登山者用駐車場より往復6時間弱。
③夕立神パノラマ公園 (長野県大鹿村)

夕立神(ゆうだちがみ)パノラマ公園は、塩見岳登山口へのアクセス路にある。南アルプス南部の山を間近に見られる場所のうちアクセスがよいのは、こことしらびそ峠の2箇所のみ。残念ながら塩見岳は見えないが、左の烏帽子岳から兎岳まで見え、わずかに奥聖岳が頭を覗かせている。
アクセス情報:12月23日より林道は冬期閉鎖。歩行の場合はゲートより往復2時間。
④しらびそ峠 (長野県飯田市)

さらに深南部の中ノ尾根山まで見える(11月)
南信州遠山郷に位置する、しらびそ高原にある。しらびそ峠周辺から望む、遠山川を隔てて立ち上がる大沢岳と中盛丸山の壁は、北アルプスの鏡平からの槍・穂高の眺望と肩を並べるといってよいだろう。左端の荒川岳から兎岳を経由して光岳、さらに南は深南部の黒沢山まで見える。
アクセス情報:11月16日より林道は冬期閉鎖。歩行の場合はゲートより往復5時間。
⑤熊伏山 (長野県飯田市/天龍村)

深南部が見えている(11月)
熊伏山(くまぶしやま)は三百名山に選ばれており、南アルプス深南部西山稜北部の最高の展望台。上の写真では確認が難しいが、望遠鏡を使えば深南部の盟主・光岳の光石も見ることができる。深南部の加加森山から、黒法師岳(写真ではその北にある丸盆岳)まで見える。
アクセス情報:静岡県浜松市水窪側にある塩の道登山口から往復5時間半。登山難易度:中級(無雪期)。
⑥深南部・天水 (静岡県静岡市)

大無間山と右に富士山(4月)
天水(てんすい)は、寸又峡にある沢口山から三百名山の高塚山への縦走路の途中にある展望スポット。手前の前黒法師岳の奥に、主脈の光岳から聖岳までと、深南部の大無間山、そして右には富士山が見える。寸又峡温泉から距離があるので、前泊が必要。
アクセス情報:寸又峡温泉から沢口山まで約3時間、そこから天水まで約2時間(片道)。登山難易度:中級(無雪期)。
⑦国道362号線・富士城付近 (静岡県川根本町)

右の不動岳までの深南部の展望(10月)
静岡市街から千頭へ通じる国道362号線上に富士城集落があり、そこから分岐する智者山林道から、寸又峡周辺の深南部西山稜の中南部の山が見える。写真では右端の不動岳から左端の大札山まで確認できる。右から3番目の黒い三角形の山は、文字通りの黒法師岳。眼下の集落は千頭周辺。
アクセス情報:車で侵入可。国道から奥はダートの林道。
⑧安倍奥・笹山 (静岡県静岡市)

右に光岳から赤石岳の主脈(11月)
安倍奥西山稜にある笹山は、大無間山と南アルプス南部の山を東から見る最高の展望スポット。県民の森の先の林道の登山口から登り、山頂直前を左の伐採地に出ると、大パノラマが広がっている。左下に井川湖、中央に大無間山、右に光岳から赤石岳までの主脈の山々を確認できる。
アクセス情報:12月1日より林道は冬季閉鎖。歩行はゲートのある静岡県民の森から、往復3時間弱。登山難易度:初級(無雪期)。
⑨安倍奥・山伏 (山梨県早川町/静岡県静岡市)

遠く塩見岳が頭をのぞかせる(5月)
安倍奥の盟主・山伏(やんぶし)は、笹山のさらに奥にある三百名山。百畳峠から1時間半程で往復できる。南アルプス南部主脈がよく見える。夏にはヤナギランの群生も見られ、また富士山の眺望が素晴しい必訪の山だ。左の光岳から主脈の山々、かすかではあるが塩見岳まで確認できる。写真には写っていないが、右の雲の中は白峰南嶺の笊ヶ岳。
アクセス情報:12月1日より林道は冬期閉鎖。歩行はゲートのある静岡県民の森から百畳峠を通って、往復6時間半。登山難易度:初級(無雪期)。※なお、安倍奥の梅ヶ島温泉付近から登山道があるが、2022年の台風により林道・登山道ともに荒れており、おすすめできない。
⑩富士スバルライン (山梨県富士吉田市/鳴沢村)

大パノラマ(1月)
富士スバルラインはアクセスのよい南アルプスの展望スポットだ。南アルプス主脈を東から見るのは、前に白峰南嶺が聳えているために、非常に難しい。しかし南アルプスのどの山からも富士山はよく見えているので、逆にいえば富士山から南アルプスがよく見える訳だ。上写真では、北方向の北岳から南方向は大無間山まで写っている。ちなみに眼下にある天子山地の最高峰・毛無山も素晴らしい展望スポットだが、岩場の1000mの急登があり、上級者向け。
アクセス情報:マイカー規制あり。マイカー規制期間外は、降雪・凍結状況により途中の一合目、または四合目で通行止めとなる。必ず事前に問い合わせのこと。
プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/奥深き南アルプス南部の魅力
南アルプス南部は、北部と比較してさらに山深く、簡単にはいけない反面、独特の魅力にあふれている。季節、エリアなど色々な切り口で、南アルプス南部の魅力を取り上げよう。
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