六甲山地でも屈指の古刹、摩耶山天上寺を目指して初詣ハイキング

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六甲山地の中央部付近にある摩耶山は、奈良時代に天竺の国(インド)から仏法を広めるために渡来した法道仙人が開いた古刹。お釈迦さまの母である摩耶夫人(まやぶにん)を祭ることから山名がつけられた。眺望のいい山頂部にたたずむ、由緒あるお寺を目指して初歩きを楽しもう。

写真・文=根岸真理

阪神間の街並みと大阪湾を一望する掬星台からの眺め

阪神間の街並みと大阪湾を一望する
掬星台からの眺め


阪急神戸線王子公園駅から北西へ。海星女学院西側の道を北上し、青谷川を渡るとすぐ左手が登山口。急な坂道をしばらく登ると、神戸市内で唯一の観光茶園がある。茶屋が開いていれば、茶畑を眺めながら、お茶と饅頭のセットで一服することもできる。今はすでに営業していないあけぼの茶屋前をすぎると、毎日登山の署名所がある。

谷沿いの斜面に茶畑が広がり、八十八夜の前後には茶摘み体験もできる

谷沿いの斜面に茶畑が広がり、
八十八夜の前後には茶摘み体験もできる

かつてはたくさんあった六甲山の茶屋も、後継者不足などで減ってしまった

かつてはたくさんあった六甲山の茶屋も、
後継者不足などで減ってしまった


青谷道には、宗教的なスポットが点在していて、今も行者さんたちが修行に訪れている。時として、「臨!兵!鬥!者!皆!陣!列!在!前!」と九字を唱える声が聞こえてくることも・・・。

数年前にお堂が撤去された行者堂跡を過ぎると、巨木が林立する原生林エリアに入っていく。 中世頃からの度重なる戦火や、森林資源の過度の利用によって、六甲山はほとんどがはげ山になっていた歴史がある。再度山大龍寺と摩耶山天上寺の周辺は寺領であることから、例外的に原生状態が保たれている希少なエリアだ。存在感のある木々に見下ろされながら登っていくと、やがて上野道と合流し、旧天上寺跡へ。山門をくぐると、長い石段の道が始まる。

旧天上寺の境内。山門から本堂があった広場までは石段が続く

旧天上寺の境内。山門から
本堂があった広場までは石段が続く


次第に急になる階段を登りきると、ぱっと視界が開ける。かつては多くの伽藍が立ち並んでいた旧天上寺跡史跡公園だ。1976(昭和51)年に不慮の大火で全焼し、この場所での再建が困難だったことから、山上の現在地に移転した。

旧天上寺跡は、お堂の跡に基壇が残っているだけ。背景は摩耶山の山頂部

旧天上寺跡は、お堂の跡に基壇が
残っているだけ。背景は摩耶山の山頂部

大きな杉の向こうに海が見える。晴れていれば、大阪から紀州にかけての山並みも一望

大きな杉の向こうに海が見える。晴れていれ
ば、大阪から紀州にかけての山並みも一望


伽藍跡を通り過ぎると、道が左右に分かれる。右へ進めば掬星台へ。左は、奥の院跡を経て山頂へ続く。時間に余裕があればぜひ山頂を経由していきたい。

山頂の一角に三角点がある

山頂の一角に三角点がある


摩耶山の山頂部はなだらかな地形で、三角点の西側には祠が祭られている。いわくありげな巨石が鎮座しており、天狗岩と呼ばれている。実は六甲山地に天狗岩はいくつもあり、いろいろな伝承があるが、山岳修行をしている行者を遠くから見た人々が天狗と思ったのではないかとの説がある。摩耶山天上寺と再度山大龍寺はその中核をなす寺院で、両寺を結ぶ尾根は天狗道と呼ばれている。

昔、悪さをする天狗を閉じ込めたという伝承もあるのだが、真っ二つに割れているということは・・・?

昔、悪さをする天狗を閉じ込めたという
伝承もあるのだが、真っ二つに割れている
ということは・・・?


山頂部から北側へ下り、六甲全山縦走路に合流して天上寺へ。縦走路北側の摩耶自然観察園を通り抜けて行くこともできる。摩耶山天上寺は大化二年、孝徳天皇の勅願によりインドの高僧法道仙人によって開創された古刹。安産腹帯発祥の寺とも言われ、古来女性からの信仰が篤い。縁結びにもご利益があるとか。

本堂前は仙人来朝之庭という枯山水庭園。法道仙人が乗ってきた船を模している

本堂前は仙人来朝之庭という枯山水庭園。
法道仙人が乗ってきた船を模している


境内は南西側の眺望が開けており、明石海峡と播磨灘を一望する絶景が楽しめる。晴れた日には小豆島も見える。お参りを済ませて景色を楽しんだら、もう一つの絶景スポット、摩耶山掬星台へ。

摩耶山・掬星台(きくせいだい)は、夜景が美しいことで知られるスポット。神戸から大阪にかけての都市部が眼下に広がり、「手で星を掬うような」ゴージャスな夜景が楽しめる。冬は空気が澄んでいるため、夜景が格別美しい季節。下山に「まやビューライン」を利用すれば、トワイライトタイムや夜景も気軽に楽しめる。ただし、冬季の平日は最終便が17:30なので注意が必要。金土日祝は19:50まで運行される。

阪神間の街並みと大阪湾を一望する掬星台からの眺め

阪神間の街並みと大阪湾を一望する
掬星台からの眺め

掬星台に設置されていたフォトジェニックな扉(2022年12月)

掬星台に設置されていた
フォトジェニックな扉(2022年12月)


歩いて下山するなら、山麓までの最短コースが上野道。摩耶ケーブル駅まで約1時間半だ。ほかにも天狗道、地蔵谷、黒岩尾根、桜谷からトエンティクロスなど、多くのルートがある。六甲全山縦走路を東へ進み有馬温泉を目指せば、歩きごたえのある縦走コースに。ちなみに、掬星台から東にのびる山寺尾根は傾斜がきつい上、下りで利用すると枝道に迷い込むことがある。遭難事例の多いルートなので、初心者にはおすすめできない。

登山道が豊富で、プランの選択肢が多いのが六甲山の大きな魅力だと思う。体力や好みに合わせてコースを組み立てよう。

 

MAP

摩耶山地図

コースタイム:王子公園駅~摩耶山~天上寺~掬星台:約3時間

⇒ヤマタイムで地図を見る

プロフィール

根岸真理(ねぎし・まり)

六甲山西端の神戸市須磨区生まれ。現在は六甲山東端の宝塚市在住。アウトドア系を得意とするフリーライター。親に連れられ、歩き始めると同時に須磨の山に登っていたため六甲登山歴60年。アルパイン歴は約30年。 神戸新聞「青空主義」欄で月に1回六甲山の情報(六甲山大学)を発信中。主な著書に『六甲山を歩こう!』『六甲山シーズンガイド春夏』『六甲山シーズンガイド秋冬』など。兵庫県立六甲山ガイドハウスで「山の案内人」ボランティア活動中。

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