ひたすら鍛えられた冬の安達太良山 分厚いソースカツ丼に心と身体が温まる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

古くは万葉集にも詠われた日本百名山のひとつ、安達太良山。風雪に阻まれ、登頂はできなかったが、下山後のご当地グルメが再び山に向かう元気をくれた。

写真・文=西野淑子

 

写真の説明

1日目の勢至平。前方に見えるはずの山々はまったく見えない

山小屋泊まりの1泊2日で安達太良山。天気がよさそうな日を選び、仮に崩れても2日あればどちらか一方はいい天気だろうと目論んだのに。初日はどんより曇り空。平日のひとり歩き、山を独り占めしているようでなんだか楽しい…が、標高を上げるにつれて風が強くなり、雪も降り始めた。天気がよければ山頂を往復しようと思ったけど上部は強風で視界も悪い。早々にくろがね小屋に入って温泉三昧。

2日目の朝もガスガス、時折強い風が吹いている。前夜の雪と強風でトレースはなくなり、ワカンを履いていてもところどころで膝近くまで潜る。視界は20mほど、1本先の竹竿がようやく見える程度。峰ノ辻まで歩いてみたが、一面真っ白で地形も判別しづらい。この先頑張ってもいいことないよ、自分のトレースがあるうちに戻ろうと、早々に下山。下っているうちに青空が見えてきたけれど、振り返れば山頂のほうは厚い雲に覆われていた。

モデルコース: 安達太良山

 

コースタイム:奥岳登山口(2時間30分)くろがね小屋(2時間)安達太良山(1時間30分)展望台(1時間30分)奥岳登山口 合計7時間

※コースタイム参照:改訂新版日本雪山登山ルート集(山と溪谷社)

アクセス:JR東北本線二本松駅からバス45分、奥岳バス停下車/または二本松駅からバス25分、岳温泉からタクシーで約20分

食べてもなくならない! 分厚くやわらかなカツに感動

登山口まで下り、そのまま歩いて岳温泉の温泉街へたどり着いたのは13時過ぎ。ここまで来れば二本松駅に向かうバスが何本かある。次のバスまでは1時間ちょっと。だいぶお腹もすいたからなにか食べて帰りたいな。

写真の説明

今回訪れたお店「ソースカツ丼 成駒」

バスターミナルの目の前に「ソースカツ丼」の看板があるのは、行きのバスで気付いていた。へえ、このあたりもカツ丼は玉子とじじゃなくてソースカツ丼なのか。途中撤退ではあるけれど、今日はだいぶ頑張って歩いたから、ソースカツ丼を食べていいと思う。お店に入った。

昭和の匂いが漂う、シンプルな町の食堂。入ってすぐの広間がテーブル席と、窓際の小上がり。奥にも小上がりがある。おしゃれ過ぎず、ディープ過ぎず、初見のひとりでも居心地がよさそうな雰囲気にホッとする。

写真の説明

昭和の雰囲気の店内。芸能人のサインもたくさんあった

メニューの1ページ目には「当店自慢の一品 昭和30年から変わらぬ味」としてソースカツ丼が書かれている。ヒレとロースがあるのか…と思ったら「すみません、今日はロースが終わってしまって、ソースカツ丼はヒレのみになります」とお店の方がすまなそうにおっしゃった。大丈夫です、ソースカツ丼、ヒレでお願いします。

「モンベルクラブの会員ですか?」と聞かれ、カードを提示したら、温泉たまごがひとつサービスで出てきた。丼に乗せて食べると格別らしい。わざわざ声をかけてくれるのがありがたい。

あとから入ってきたお客さんは安達太良カレーライスを注文していた。こちらもまた、創業当時からの人気メニューらしい。ふわりと漂うカレーライスの匂いに、お腹がぐぅぅっと鳴る。

待つことしばし、ソースカツ丼登場!

蓋付きの大きな丼と味噌汁、香の物と、茹でたもやしの和えもの。丼の蓋を開けると、食べやすくカットされた大きなヒレカツが2枚。…いやこれ、ちょっと盛りがよすぎるでしょ。

写真の説明

ソースカツ丼(ヒレ)。お値段は1650円

まずはカツを1枚とって一口。分厚すぎるけど、柔らかくてすんなり噛み切れる。そして肉が味わい深い!やや薄めの衣に甘辛いソースが染みているのもいい感じ。千切りキャベツの乗ったご飯とともにまた一口。サクサクのキャベツの食感がいいし、会津産コシヒカリの白米も、ご飯の甘みが感じられる。カツ、ごはん、キャベツ、夢中で食べ進める。

からし醤油で和えた小鉢のもやしはシャキシャキ感がいい感じ。ほんのり辛いのがまた食欲をそそる。カツ丼といい組み合わせじゃないか!

半分ぐらい食べたところで、温泉たまごの存在を思い出した。カツの上に温泉たまごを乗せ、箸で割ってご飯とカツとともに一口。おお、まろやか。そして濃厚。たしかに「乗せて食べると格別」だね、これは。

写真の説明

モンベルクラブの会員で、温泉たまごがサービスだった

カツ丼を食べ終え、最後にお味噌汁をいただいて、ごちそうさま。ああもうお腹いっぱいで幸せすぎる。ありがとうございました。

安達太良山に登ったんですか?と聞かれ、登ったけど天気が悪くて途中で引き返したんですよ…と伝えたら、山麓はいい天気でも、山は風が強いことも多いからね…とご主人。ご主人のお父様は若い頃に、『日本百名山』の著者である深田久弥さんを安達太良山に案内したことがあるのだという。創業以来、たくさんの観光客、そして登山客が訪れたのだろう。お腹をすかせて山から下りてきて、バスに乗る前に食べるソースカツ丼やカレーは、今も昔も、頑張った自分への最大限のご褒美だ。

「ぜひ、また来て下さいよ」ご主人が笑顔で見送ってくれた。
ありがとうございます。おいしいご飯、また食べに行きます。

店名:ソースカツ丼 成駒

バスターミナルの前に立つ食堂。ボリューム満点の食事に定評があり、なかでも人気は分厚いカツのソースカツ丼やカツカレー。

電話:0243-24-2412

住所:福島県二本松市岳温泉1-115-1

アクセス:JR東北本線二本松駅からバス25分、岳温泉バス停下車すぐ

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

編集部おすすめ記事