
夢と好奇心をザックに詰めて。写真家・秦達夫が撮る、黒部源流の山々
南アルプスの秘境・遠山郷の伝統行事「霜月祭」や屋久島などを撮影してきた写真家・秦達夫さん。黒部源流の山々との出合いは、渓流釣りがきっかけだった。惚れた弱みで黒部に通い詰め、薬師沢小屋をベースに撮影してきた作品をこのほど写真集『風光に峰 雲上の渓 黒部源流の山』にまとめた。その収録作品の中から、黒部のきらめきを写し止めた代表作をいくつか紹介しよう。
写真・文=秦 達夫
黒部に取り憑かれて
今回の舞台・黒部源流は人を虜にしてしまう力がある。僕の場合は取り憑かれてたのかも。
岩魚釣り話から始まった山行なので、沢に泳ぐ岩魚を撮るためにドライスーツを山に持ち込んだ。山に水中眼鏡を持参するヤツは僕くらいかもしれない。ちなみに浮き輪は持っていくことはなかった(笑)。85Lのザックに収まりきらない水中ハウジング一式。それをザックにくくりつけて登った。僕の後ろ姿はピカピカの一年生しかり、可愛げのない巨大なザックがノッサノッサと移動する滑稽な姿に見えたと思う。すれ違う登山者はその姿を見て「なにが入っているの?」と声を掛けてくる。それに対して「夢がいっぱい」と力みで震える声でひと言応えるのが精一杯であった。
このような山行は繰り返せないので、山小屋にお願いし居候をさせてもらいながら取材を行なった。時にはテント泊で縦走を行なったり、台風の最中に山行したり。なぜそんなタイミングで登るのか? それは台風が通過した翌日は絶好の撮影日和になる確率が高いから。必ずいい条件になるわけではないのが悲しいところである(笑)。決行は台風が関東寄りを通過するとき。台風の西側は風が比較的弱い。弱いといっても東側に比べてなので、無闇に真似をしないように。これが状況判断と体力のバランスの駆け引きである。
こう書くといかにも熟練の登山家のように思われるかもしれないが、山行中は嘆きのオンパレードで、登っていることを悔やみ後悔し自分自身を恨んでいる。そんなヤツは登山家ではない。それなら登らなければいいし、途中で引き返せばいいのだが、石ころよりも小さなプライドと、ザックよりも大きな好奇心が下山を選ばせなかった。これは台風でも揺るがない。それを僕は恋心だと思っている。決して下心ではないのであしからず。
なぜ虜になってしまうのか? いつしか、僕の黒部源流山行は好奇心から、その答えを探すものに変わっていた。山への思いは人それぞれであり、それぞれの恋心がある。その一つ一つを理解することは難しいが、僕なりにその答えを写真集の中に編み込んでみた。
(『風光に峰 雲上の渓 黒部源流の山々』写真集本文より)
(『風光に峰 雲上の渓 黒部源流の山々』
写真集本文より)

写真集『風光の峰 雲上の渓 黒部源流の山』
- 2023年7月10日発売予定
- 価格:3,300円(税込)
- 出版社:日本写真企画
- ページ:104P
- 詳細URL:https://www.photohata.com/shop
写真展『風光の峰 雲上の渓 黒部源流の山』
- 会期:2023年6月29日(木)〜7月10日(月)
- 会場:新宿・OM SYSTEM GALLERY
(東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル B1F TEL:03-5909-0190) - 詳細URL:https://fotopus.com/showroom/tokyo/
プロフィール
秦達夫(はた・たつお)
1970年長野県飯田市(旧南信濃村)生まれ。写真家。竹内敏信氏の助手を経て、故郷・遠山郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第8回藤本四八写真賞受賞。同タイトルの写真集を信濃毎日新聞社から出版。ほかに『山岳島 屋久島』(日本写真企画)、『屋久島RainyDays』(風景写真出版)などの写真集がある。日本写真家協会会員、日本写真協会会員、Foxfireフィールドスタッフ。
オフィシャルサイト:https://www.photohata.com/関連記事
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