この夏に登りたい! 日本アルプス最新情報 〜北アルプス編〜

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まもなく夏山シーズンを迎える日本アルプス。withコロナの定着とともに、今年は本格的な夏山登山を予定している人も多いはず。そんな登山者の気持ちに応えるように、登山エリア各地では新しい取り組み、新サービスなどが予定されている。最新情報をキャッチして、登山計画作りに役立てよう。

構成=山と溪谷オンライン、イメージ写真=矢島慎一

目次

北アルプス編

険しい岩稜、陽光を浴びて輝く雪渓。北アルプスは誰もが憧れるエリアだ。日本アルプスの中でも入山者がいちばん多く、話題も多い。今年は信濃大町を起点とする山域が要注目だ。また、槍・穂高エリアでも入山協力金制度が本格導入されるなど、新しい動きもある。

裏銀座コースの起点・七倉へのバスが運行開始

烏帽子岳や野口五郎岳、水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、雲ノ平といった黒部源流の山々や裏銀座コースへの玄関口・七倉。折立方面や上高地、新穂高温泉方面へと縦走するプランで歩く登山者が多いエリアだ。これまで利用できる公共交通機関はタクシーに限られていたが、今夏は7月15日(土)から、JR大糸線 信濃大町駅発のバスが運行されることになった。

七倉から登る裏銀座の山々(写真提供=大町市観光協会)
七倉から登る裏銀座の山々(写真提供=大町市観光協会)

運行期間は10月15日(日)までの金・土・日・月曜で、8月1日(火)~8月21日(月)は毎日運行される。運賃は片道1,500円(大人)で、新宿発白馬行の夜行バスや特急あずさの始発に合わせた便もあり、七倉登山口へのアクセスが便利になる。また、下山後にこのバスを利用する人に向けて、大町温泉郷や葛温泉など温泉地を経由。登山の汗を温泉で流す楽しみもある。なお、七倉登山口から高瀬ダムへは新高瀬川発電所の管理用道路で、従来通り徒歩(約2時間)または通行が認められた特定タクシー(約15〜20分)に限られる。

関連リンク

裏銀座登山バスの詳細ページ
https://uraginzabus.com/

40年ぶりの復活。湯俣山荘が9月に営業再開

高瀬川の上流部、水俣川と湯俣川の出合に、こんこんと温泉が湧き出す場所がある。標高1500m余りに位置する湯俣温泉だ。かつては北鎌尾根へのアプローチにも利用されたこの地で長い間休業していた湯俣山荘が今年、営業を再開する。

営業再開に向けて着々と準備が進む湯俣山荘(写真提供=三俣山荘)
営業再開に向けて着々と準備が進む湯俣山荘(写真提供=三俣山荘)

湯俣山荘は、故・伊藤正一さんが拓いた、三俣山荘を経て雲ノ平へと伸びるルート「伊藤新道」の起点となる山小屋だ。伊藤新道は長く廃道となっていたが、三俣山荘の伊藤圭さんは新道の復活に取り組み、かつて5カ所にあった吊り橋を3本に絞るなど最小限の整備を行って、幻の登山ルートを再び開通させた。この道はエキスパート向け、あるいはガイド同伴が推奨される難路であり、水量によっては通行できないこともある。しかし、そんなルートだからこそ体験できるウィルダネスとしての北アルプスの魅力もある。湯俣山荘の役割として、湯俣川の水量を観測し、登山者への情報提供を行う拠点としても考えているという。営業開始は9月上旬の予定で、紅葉が終わる11月半ばに小屋締めとなる。

関連リンク(湯俣山荘の詳細)

北アルプス黒部源流ウェブサイト(三俣山荘)
https://kumonodaira.net/

関連記事

「北アルプスの最深部・雲ノ平に続く道、伊藤新道復活に向けて」
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=1916

黒部ダム竣工60周年。周辺でイベントも

立山・黒部エリアのアクセスで通過することも多い黒部ダム。今年は1963年のくろよん竣工から60年目を迎える。戦後の復興で関西の電力需要が高まる中で建設されたくろよんは、「世紀の大工事」といわれる大規模な建設で、そのハイライトは今も立山黒部アルペンルートが通過する大町トンネル(関電トンネル)の掘削だった。ダム建設の資材を運搬するためのルートとして建設されたこのトンネルだが、入口から1600mの地点で破砕帯にぶつかり、大量の土砂と水が噴出。たった80mの破砕帯を突破するために7カ月を費やすことになった。高さ186mのアーチ式ダムは7年かかってついに完成。513億円の工費、延べ1000万人の人員、171人の犠牲者を伴う、文字通り世紀の大工事となった。そのエピソードは木本正次の小説『黒部の太陽』、そしてその映画化により一躍有名となり、黒部ダムを全国に知らしめることになった。

竣工から60年を迎える黒部ダム(写真提供=大町市プロモーション委員会)
竣工から60年を迎える黒部ダム(写真提供=大町市プロモーション委員会)

いつもは素通りしてしまう人も少なくないが、今年は黒部ダムや信濃大町などでイベントが企画されているので、入山前や下山後に時間をとっておくのがおすすめだ。すでに開催中のイベントが「豊川『黒部の太陽』の会所蔵秘蔵お宝企画展」だ。三船敏郎や石原裕次郎といった大スターが着用した映画の衣装や小物、台本といった品々が展示される。会場は7月17日までは黒部ダムレストハウス、8月1日〜27日は塩の道ちょうじや(大町市街)。大町市街地では、「くろよん建設写真展」、「くろよん60市街地シャッターアート」といった企画も予定されている。

関連リンク

くろよん60特設サイト
https://kanko-omachi.gr.jp/kuroyon60th/

槍・穂高エリアで協力金制度が本格導入。一口500円、山小屋やネット決済で

上高地などを中心とする中部山岳国立公園の上高地エリア(槍穂高、常念山脈エリアの長野県側)では、持続可能な登山道維持を実現するため、入山協力金の導入に向けて21年から2シーズンにわたり社会実験が行われてきた。この実験の結果を踏まえて、北アルプス登山道等維持連絡協議会では、今年4月からいよいよ協力金制度が本格導入された。

協議会の対象登山道は、行政機関や地域関係者の負担金を予算として、山小屋が登山道の維持・補修作業を行なうことで守られてきた。しかし、山小屋が収益のなかから一部負担するなど、現状の体制で維持することが困難となった。協力金制度は登山道を未来に繋げようと始まったもので、過去の実験では1シーズンにつき400〜500万円ほどが寄せられた。対象登山道は北アルプス南部地域で、槍ヶ岳・穂高岳、燕岳・常念岳・蝶ヶ岳・大滝山周辺の長野県側の登山道。支払方法はクレジットカードでのオンライン決済や協議会口座への銀行振込、山小屋での現金支払いなどから選べる。

関連リンク

北アルプストレイルプログラム
https://nationalpark-japanesealpstrail.jp/

上高地を手ぶらで散策。宿泊施設から手荷物を配送するサービス開始へ

上高地の宿泊施設からバスターミナルまで、宿泊客の手荷物を配送するサービスの実証が始まった。今シーズンは試験的にサービスの提供期間や配送方法などに制限を設けての実施となり、本格導入に向けた検討材料にするという。スーツケースを引きながら上高地を歩く観光客の姿が見られるようになってきた昨今、本格的にサービスが開始されれば、新しい客層にアピールできそうだ。登山者も下山後の優雅な一泊を楽しんでから、宿泊施設に重いザックを預けて身軽に散策し、バスターミナルから帰るといったプランも可能になる。

中部山岳国立公園南部地域を間に挟み、松本市街地と高山市街地を繋ぐ横断ルートを“Big Bridge(ビッグブリッジ)”と名付けた観光振興の取り組み「松本高山Big Bridge構想実現プロジェクト」が現在進行中で、このサービスの実証もプロジェクトの一環。これまで上高地では、環境保全のために荷物配送を目的とした車両の車両は園内通行はしないというルールを運用してきた。しかし、宿泊客の利用満足度を改善したいという地域の声を受けて、この配送サービスを検討することになった。今シーズンの試験は6月1日〜30日の1ヶ月間。上高地温泉ホテル、上高地ルミエスタホテル、上高地アルペンホテル、上高地ホテル白樺荘、ザ・パークロッジ上高地、五千尺ホテル上高地、上高地帝国ホテルの7施設から、上高地バスターミナルへの帰路に限定して荷物を配送するというもの。

今回の実験で得られた結果を元に、本格導入に向けた検討が行なわれる。往路の配送や、配送区間を沢渡、平湯(あかんだな)のバス停まで拡大するなど、利便性の高いサービスが実現すれば、登山の前後にゆったり上高地周辺の観光を満喫するなど、新しい旅のスタイルが可能になりそうだ。

ホテルで預けた荷物は上高地バスターミナルで受け取れる(写真提供=中部山岳国立公園管理事務所)
ホテルで預けた荷物は上高地バスターミナルで受け取れる(写真提供=中部山岳国立公園管理事務所)

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日本アルプスに挑戦!

日本アルプスの山に登ることをめざし、基本情報を紹介。さあ、日本アルプスの世界へようこそ!

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