アルプス登山の装備、持っている道具で大丈夫?

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日本アルプスの登山とはいっても、レインウェアやヘッドランプなど、基本的な装備は通常の登山と変わりはない。ただし、登る山によっては普段使っている道具のままで大丈夫か、見直しが必要なことも。ここでは、日本アルプス登山の時に検討したい装備や、忘れてはならない道具を紹介しよう。

写真・文=小林千穂

装備を確認して、快適で安全な登山を

登山靴やザックを見直そう

普段の登山で使っている靴やザックもアルプスの山で使えなくはないが、疲労軽減や安全対策のために見直すことをおすすめする。

アルプスの山は土の道が中心となる低山よりも、凹凸の激しい岩やガレ場を歩くシーンが多くなる。ハイキング用で、靴底が柔らかすぎる登山靴だと足の疲労が増したり、岩に足の力が伝わりづらかったりするので、ある程度の堅さのある靴を用意したい。また、足首の上まで支えてくれるハイカットモデルだと、安定した足運びができる。

MONTURA/VERTIGO GTX WOMAN
行く山に合わせた道具選びをしよう。岩稜や縦走用のモデルは靴底が硬くハイカットの造りになっている(MONTURA/VERTIGO GTX WOMAN)

また、ザックは必要装備が収まる大きさか、確認したい。ザックに入りきらない荷物を手に持って歩くと疲れるし、何より転んだときに手で支えられず危険だ。ストラップやコードなどでザックの外側に荷物を付けることも極力避けたい。アルプスの登山道は狭いところが多く、すれ違いや岩場のトラバースなどで引っかかってバランスを崩す怖れがあるからだ。荷物をシンプルにまとめられるザックを選ぶようにしよう。

手提げ袋を持って歩く登山者
ザックに荷物が入りきらず、手提げ袋を持って歩く登山者。あるものを使いたいという気持ちはわかるが、安全には代えがたい。

防寒具と紫外線対策を忘れずに

アルプスの山に登るときに気をつけたいのが、日ごろの生活圏との気温差。高山は気温が低いことは漠然とわかっていても、どのくらいの気温なのかを具体的にイメージできる人は少ないのではないだろうか。

まず、標高が100m上がると気温は0.6℃ほど下がることを知っておきたい。例えば3000m稜線は、単純計算で標高0m地点よりも18℃低いことになる。これは盛夏、街が30℃のとき、12℃になる計算だ。12℃といえば、東京の4月や11月の平均気温と同程度。日中の日が照る時間帯は暑くても、朝夕や、曇りだと冷えるので、盛夏でも薄手のフリースやダウンジャケット、手袋などの防寒着が必要となる。

そしてもうひとつ重要なのが紫外線対策。高山は紫外線の一部が大気中に吸収されずに届いてしまうため、平地よりも紫外線量が強い。特に紫外線をさえぎるものがない稜線部や、雪面からの照り返しも加わる雪渓上は、強い紫外線を長時間にわたって浴び、大きなダメージを受けることになる。日焼け止めとサングラスを忘れずに用意し、積極的に使用しよう。

日射しをさえぎる物のない山の上
日射しをさえぎる物のない山の上では紫外線対策も万全に

岩稜帯へ行く場合はヘルメットが必携

長野県では2013年に滑落、転落、転倒の事故が多い山域での遭難事故軽減を目的に、安全への配慮が特に必要となる山域を「ヘルメット着用推奨地域」として指定した。そこには北アルプスの槍(やり)・穂高(ほたか)連峰、不帰ノ嶮(かえらずのけん)・八峰(はちみね)キレット周辺、南アルプスの甲斐駒(かいこま)ヶ岳、中央アルプスの宝剣(ほうけん)岳などが含まれている。

それ以来、対象山域へ行く際にはヘルメットを着用することが広く呼びかけられ、剱(つるぎ)岳を含め、現在では岩稜帯に行く登山者の間でほぼ定着している。対象地域の登山時には必ずヘルメットを着用して身を守ろう。

岩場ではヘルメットを着用しよう
事故の中にはヘルメットを被っていたおかげで一命を取り留められた事例も。岩場ではヘルメットを着用しよう

装備の不備は致命的

アルプスの山では忘れ物が重大事に発展してしまうことも。たとえば、急な雨に見舞われたときにレインウェアを持っていなければ、全身がずぶ濡れになり、高山の低温下ではたちまち低体温症になってしまうだろう。忘れ物がないよう、普段の登山よりも気を配って準備しよう。

以前、ヘッドランプのロック機能(誤点灯を防ぐ機能)の解除方法がわからず、使いたいときに使えなくて焦っている人に会ったことがある。軽アイゼンを自分で装着できない、ツエルトの使い方がわからないというのはよくある話だが、持っていても自分で使えなければ意味がないので、事前に練習しておくことも必要だ。

また、複数日程となる場合に注意したいのが、スマホのバッテリー切れ。今やスマホは写真撮影、地図アプリの利用、GPSによるログの記録や現在地確認、気象情報入手、緊急時の連絡手段など、登山時も欠かせない重要な機器。スマホの機能を使っている人ほどバッテリーを消耗し、バッテリー切れになったときの影響も大きい。数回フル充電できるサイズのモバイルバッテリーは常に携行しよう。

装備の忘れ物は、慣れている登山者にも見られがち。アルプス登山では、装備の不備が深刻な事態を招くことになることもあるので、モレがないように準備しよう。

プロフィール

小林 千穂(こばやし ちほ)

山岳ライター。山好きの父の影響で子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから雪山、海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動している。著者に『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)、『失敗しない山登り』(講談社)などがある。日本山岳ガイド協会認定、登山ガイド。

日本アルプスに挑戦!

日本アルプスの山に登ることをめざし、基本情報を紹介。さあ、日本アルプスの世界へようこそ!

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