アルプス登山のプランニングの基礎知識。いつ行く?どこから登る?

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初めて計画する夢の日本アルプス。でも、まだ踏み入れたことがない世界は、わからないことがいっぱいで当然。アルプスの山って、いつ登れるの? 登山口までのアクセスは? 山での宿泊はどうすればいいの? など、疑問がいっぱいだろう。ここではベストシーズン、交通、山小屋泊のことなど、日本アルプスの登山計画をする前に知っておきたいことをまとめてみた。ぜひ、参考にしてもらいたい。

写真・文=小林千穂

剱岳
日本アルプスのベストシーズンは7月下旬から8月下旬までと意外に短い(剱岳)

初めてなら「夏山シーズン」に行こう

標高の高い日本アルプスの山々は、一年のうちの半分以上は深い雪に覆われているため、市街地周辺の低山のように、行きたいときにいつでも登れるというわけではない。アルプスの一般的な登山シーズンは夏から秋のはじめと短く、近郊の山に比べるとだいぶ限定的だ。

北アルプス南部の山小屋は、ゴールデンウイークから営業を始めるところが多いが、そのころはまだ完全な雪山。アイゼンやピッケルなどの登攀用具を使いこなせるなど、雪山登山に慣れた人だけが入れる世界である。

梅雨に入ると雪解けが進み、営業を開始する山小屋も増えていく。しかし、7月中旬ごろまでは沢筋を中心にまだ残雪が多く、アルプス登山の経験者向き。特に梅雨末期は天気が不安定で、天候判断も難しいので初心者だけの入山は控えたい。

梅雨明け後から8月にかけては比較的天候が安定し、晴天に恵まれる日が多くなる。「海の日」の連休ごろから8月下旬にかけてを「夏山シーズン」といい、この間が登山にベストな時期となる。高山植物の花々がいっせいに咲き、登山者も一気に増えて山々に活気が増す。アルプスの山に初挑戦するなら、ぜひこの時期をねらおう。

9月に入ると冷え込む日も増えて、山の上部は早くも秋の様相になる。9月下旬から10月上旬の紅葉シーズンも人気だが、天気によっては稜線部で雪が降ることもある。この時期に初心者だけで行く場合は、涸沢(からさわ)などの中腹で紅葉を楽しむ計画にしたり、焼(やけ)岳、木曽駒(きそこま)ヶ岳など日帰りで行ける山に留めておきたい。

9月下旬からからは小屋閉めをする山小屋も多くなる。営業期間の長い穂高(ほたか)周辺の山小屋も11月上旬にはほとんどが冬季休業に入り、登山者の姿も見られなくなる。

6月、涸沢から見上げる穂高の稜線
6月、涸沢から見上げる穂高の稜線。深い雪に覆われている
紅葉に彩られた9月下旬の奥剱
紅葉に彩られた9月下旬の奥剱。このころ、稜線はかなり冷え込む

主要登山口はアクセスしやすい

日本アルプスは長大な山脈で、登山口は主なものだけでも合計50カ所を越える。ロープウェイやバスなどの乗り物を利用するところ、マイカーやタクシーで長い林道を走らなければならないところなど、アクセスの利便性もさまざまだ。

北アルプスの主な登山起点となる室堂(むろどう)、白馬(はくば)エリア、燕(つばくろ)岳登山口、上高地、新穂高温泉、南アルプスの広河原(ひろがわら)、戸台(とだい)口、畑薙(はたなぎ)第一ダム、中央アルプスの菅(すが)の台などには、シーズン中、東京から直通のツアーバスが運行される(便によっては大阪、京都からもある)。これらの主要登山口には最寄り駅から路線バスが運行されるなど、公共交通機関を利用したアクセスも比較的便利だ。

これを逆の視点で考えると、交通機関がなく、最寄り駅からタクシーで数万円かかるなど、交通アクセスが不便な登山口は、登山者が少なく、初心者向きではないところが多い。もう一度、コース選びから見直してみよう。

マイカーで向かう場合には、自然環境の保護や渋滞防止のために行なわれているマイカー規制に注意したい。北アルプスの室堂、上高地、南アルプスの広河原、北沢(きたざわ)峠、畑薙第一ダムから先、中央アルプスのしらび平などは、マイカーで入ることはできず、手前の駐車場からバスなどの交通機関を利用することになる。駐車場の場所や料金、交通機関の運行時間などを事前によく調べておく必要がある。

また最近は、大雨のあとに登山口までの林道が崩れて通行止めになることもしばしば。最新の情報を入手したうえで、出かけるようにしたい。

黒部湖駅に停まるケーブルカー
電気バス、ケーブルカー、ロープウェイなどさまざまな乗り物に乗れるのが楽しい立山黒部アルペンルート。写真は黒部湖駅に停まるケーブルカー

日本アルプスの山中に泊まる

アルプスにも日帰りで登れる山はあるが、多くは行程が長いため、山中で1泊以上の宿泊を伴う。

山中で宿泊する場合は、営業山小屋を利用するか、テント泊にするかの選択肢がある。営業山小屋は夕食と朝食が提供され(希望すれば翌日お昼のお弁当も)、寝具も用意されているので、荷物が減らせてありがたい。ただし、相部屋が基本となる(別料金で個室希望を受け付けている山小屋もある)。料金は一泊二食付き10,000円前後で、複数泊や家族で利用する場合はそれなりの費用がかかる。

感染予防対策もあって、山小屋は予約制のところがほとんどだ。夏山シーズンの週末、シルバーウイークなどは満室になることが多いので、早めに予約をしたい。営業山小屋は宿泊者以外もトイレが利用できたり(チップ制または有料)、売店を利用できたりするところが多い。またコロナ禍以来、山小屋での宿泊にインナーシーツの持参が必要となることもある。そのほか、消毒液やゴミ袋など、各施設によって持参するものが異なるので、予約の際に確認するようにしよう。

一方、テント泊はテントや寝袋、炊事用具、食料などを担がなければならないが、山小屋泊よりも行動時間などの自由度が高く、プライベート空間を保てることから利用者が増加傾向だ。テントを張れる場所は山小屋の近くなど、場所が指定されているので、登山地図で確認しよう。料金は一人1泊1,000〜2,000円程度で、予約は不要のところが多い。ただし、テント泊は装備が重くなり、山小屋泊に比べて難度が増す。体力や行程に無理がないか、よく考えて計画しよう。

西穂山荘
設備が整っていて、快適な営業山小屋。写真は西穂山荘
剱沢野営場
テント泊は自然との距離感が近いのも魅力。写真は剱沢野営場

アルプスの山は登山シーズンが短い、宿泊を伴うコースが多い、主要登山口はマイカー規制があるなど、都市近郊の山登りとは違う点もある。事前によく調べておくことが、登山を成功させる第一歩になる。

プロフィール

小林 千穂(こばやし ちほ)

山岳ライター。山好きの父の影響で子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから雪山、海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動している。著者に『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)、『失敗しない山登り』(講談社)などがある。日本山岳ガイド協会認定、登山ガイド。

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日本アルプスの山に登ることをめざし、基本情報を紹介。さあ、日本アルプスの世界へようこそ!

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